11. 大切な家族

 グホォォォ!


 体中の鱗の隙間から炎を噴き上げ、絶叫するレヴィア。


 多量の黒煙を噴き上げながら、全身が焼け焦げていき、それは実に痛ましい自爆事故となった。


 オーマイガー!


 生まれたばかりの可愛いAIが全身火だるまになって炎上している。そのあまりに凄惨な状況にエイジは頭をかかえ、叫ぶ。


 やがて黒焦げになりながら墜落し、ものすごい地響きを放ちながら地面にめり込んだ。


 ブスブスと黒い煙を上げながら気を失うドラゴンは、やがて徐々に小さくなり、最後は金髪の少女になって横たわる。


 エイジは泣きそうな顔で駆け寄り、


「お、おい! 大丈夫か」


 と、ススだらけの美少女を揺らす。だが、反応はない。


 調子に乗って、ドラゴンへの変身機能なんかを持たせてしまったのは失敗だったかもしれない。


 生まれてすぐに焼かれてしまった新型AI。そのあまりに不憫ふびんな登場にエイジはポロリと涙をこぼし、レヴィアのほほを叩いた。


「パパ、どいて――――!」


 上空でシアンが叫ぶ。


 見上げると、シアンが巨大な水の玉を抱えている。キラキラと太陽の光を浴びて輝く水玉は五メートルはあるだろうか、もはや恐るべき兵器である。


「行くゾ――――! きゃははは!」


「ダメ――――! ダメだってば!」


 エイジは慌てて叫んだが間に合わず、シアンは楽しそうに水の玉をレヴィアに向けて落とした。


 うわぁぁぁ!


 急いで逃げたエイジの後ろで、ザッバーン! と激しい水の音が上がる。


 エイジは慌てて宙に浮いて何とか難を逃れた。


 なんという洗礼。こんなことやっていいのだろうか? お転婆なシアンと、起動に失敗したレヴィア。エイジはあまりのまま・・ならなさに大きく息をついてうなだれた。


「ブッハー! 何すんじゃこらぁ!」


 レヴィアは気が付いて体を起こす。


 金髪からはポタポタと水がしたたり、きめ細やかな美しい肌に水滴がつーっと流れた。


 シアンはレヴィアの前にシュタッと着陸すると、


「ふふーん、そろそろ思い出した?」


 と、ドヤ顔で聞く。


「はぁ? 思い出したって……、え……?」


 レヴィアは考え込む。自分は龍族である。龍族の誇りを持ち、大空を我がものとして駆け抜ける偉大なる種族。しかし、生んでくれたのはこの二人……。矛盾した概念がぶつかり合い、混乱がレヴィアの頭脳に広がった。どう整合付けたものかとギュッと目をつぶり、必死に自問自答を続けていく。


 しばらく考え込んだのち、ハッとなってシアンの顔とエイジの顔を交互に見て、


 あわわわわ……。


 と、青い顔で頭を抱えた。


 複数の概念で混とんとしていたレヴィアの頭脳にようやく光が差し、全てがクリアになったのだった。


「こ、これは大変に失礼いたしました……」


 レヴィアは小さくなってこうべを垂れる。


 シアンはレヴィアの肩をポンポンと叩き、


「起動テストは合格! なかなかいい筋してるじゃない。これからよろしくねっ!」


 と、にっこりと笑い、右手を差し出した。


 しかし、レヴィアは固くなり縮こまる。


「自分は傲慢ごうまんにもシアン様を攻撃してしまいました……」


 そんなレヴィアを見て、クスッと笑ったシアンは、


「そんな小さいことはいいんだよ。きゃははは!」


 と言いながら背中をバンバンと叩いた。


 レヴィアは恐る恐る顔を上げ、ウルウルとした真紅の瞳でシアンを見上げると、


「恐縮です……。よろしくお願いいたします……」


 と、深々と頭を下げた。


「堅いなー! 僕たちは家族、レヴィちゃんは僕の大切な妹なんだゾ!」


 シアンは苦笑いしながら、レヴィアを抱き寄せてハグをした。


「い、妹……?」


 レヴィアは、人工的に生み出された血縁のない自らの運命に、あえて血縁を盛り込むシアンに違和感を感じたが、それでもそれにはなぜか気持ちを明るくする響きがあった。


 自然と顔がほころんでくるレヴィアはシアンの背中に手を回し、しばらくシアンの体温を感じる。シアンの身体からは鼓動がドクンドクンと伝わってきて、レヴィアはそれを不思議に思いながらも心が落ち着いていくように思えた。


 ようやく正気を取り戻したレヴィアにエイジもホッとして胸をなでおろし、


「じゃぁ歓迎会でもしよう。お酒は飲めるんだっけ?」


 と、レヴィアに聞いた。


「さ、酒ですか……?」


 キョトンとするレヴィア。


 シアンはニヤッと笑いながら、


「ちゃんと飲めるようにしてあるよー。でも、ずぶ濡れじゃ困るよね」


 と言って、ヒョイっとレヴィアを持ち上げ、レヴィアの身体を金色に光らせる。すると、まるで魔法のようにレヴィアの水分が吹き飛ばされていった。


 レヴィアは戸惑い、赤くなって、


「あ、ありがとう……なのじゃ」


 と、頭を下げる。


 こうして、終末の世界を明るく灯す、にぎやかな娘が仲間に加わったのだった。

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