10. かわいい妹
大自然あふれる草原のメタバースにやってきた二人。あの時と同じように風がそよぎ、草原にはウェーブが流れている。
「さーて、頑張るゾ!」
シアンは嬉しそうに両手を高く掲げ、ニヤッと笑うと、
「レヴィアちゃん、カモーン!」
と、叫びながら、いきなりエイジの胸に手を突っ込んだ。
「お、おい、何すんだよ!」
慌てて飛びのくエイジ。
「えへへ、無事ゲット!」
シアンは楽しそうに笑い、何か棒のようなものを手に持ちながら子細を眺め、確認している。
「な、なんだそれ?」
「パパの
シアンはそう言いながら肋骨を空へと放り投げた。
エイジはあっけにとられた。なぜ肋骨なんて取るのか分からなかったし、そもそもアバターに肋骨が設定されている事すら知らなかったのだ。
肋骨は空中でクルクルッと回ると、ポン! と、はじけ、爆煙の中から一人の少女が現れる。
それは金髪おかっぱの中学生のような少女だった。少女は一糸
シアンは彼女を受け止めると、自分とおそろいのサイバーなスーツを着せてあげた。そして、金髪に合うように縁取りの色を赤へと変えてあげる。
「う……、うぅ?」
少女はゆっくりとまぶたを開け、真紅の美しい瞳がのぞいた。
「レヴィアちゃん、お目覚めはいかが?」
シアンはニコニコしながら声をかける。
するとレヴィアはハッとしてシアンから飛び降りて身構え、
「な、なんじゃお主らは!?
と、叫んだ。どうも何かを勘違いしているらしい。
「おいおい、バグってるぞ」
エイジが渋い顔でシアンに言った。
シアンは首をひねり、レヴィアに聞く。
「あれ? おかしいなぁ……。レヴィアちゃんは自分がだれか分かってる?」
「分かっとるに決まっとろうが! 我こそは龍族の
レヴィアは腕組みをして
「性格の設定をそのまま信じ込んじゃってるみたいだゾ?」
シアンは眉間にしわを寄せてエイジの顔を見る。
エイジは肩をすくめ、
「だからドラゴンなんてやめようって言ったんだよ」
と、渋い顔で首を振った。
ただのAIでは芸が無いからファンタジー要素入れよう、と盛り上がり、最終的に『龍族の生き残り』という設定を仕込んだのだが、それはあくまでも
「大丈夫、僕が
シアンは陽気にサムアップする。
レヴィアは真紅の瞳をギラリと光らせ、
「『躾ける』とは何事じゃ! 貴様、龍族を馬鹿にしとるな!」
と、一喝するとピョンと跳びあがり、そのままツーっと上空高く飛んでいく。
「見て驚け! ぐはははは!」
そう叫ぶとボンと爆発をする。果たして、爆煙の中から出てきたのは巨大なドラゴンだった。体長三十メートル、巨大な翼をゆったりとはばたかせ、漆黒のいかつい
ギュァァァァ!
と恐ろしい
元々このドラゴンのキャラクターをデザインしたのはエイジだったが、シアンが手を加えたらしく、想定よりもはるかに凶悪になっている。
だが、シアンはそんなのはお構いなしに、
「やっぱり魂が入るといいねぇ。きゃははは!」
と、楽しそうに笑った。
レヴィアは笑うシアンが気に食わず、
「これでもくらえ!」
と、叫びながら太く長いシッポをビュンビュンとしならせ、一気にシアンへと放った。
ゴツゴツとしてとげの生えている凶悪なシッポが、風を切りながらシアンを襲う。
しかし、シアンは片手で軽々とシッポを受け止め、
ふふーん。
と、にんまりと笑った。
レヴィアは驚き、ギロリと巨大な真紅の瞳でシアンをにらむと、
くっ!
と悔しそうに声を漏らす。
「まだまだぁ!」
と、叫んだレヴィアは大きな翼をバッサバッサとはばたかせて空高く舞い上がる。そして、今度はパカッと大きな口を開けた。巨大な鋭い牙の奥でオレンジ色の光が強烈に輝き始め、激しいエネルギーが蓄積されていく。
「あわわわ! ヤバい! 逃げろ!」
エイジが叫んだ直後、レヴィアは口いっぱいにエネルギーを充満させ、ドラゴンブレスを発射しようと踏ん張った。
「よいしょ――――!」
と、叫びながらアッパーカットで下あごを撃ちあげた。
口を封じられ、目を白黒させるレヴィア。
放たれるはずだったドラゴンブレスは出口を失い、そのまま口の中で炸裂してのどを逆流してドラゴンの巨体を焼いた。
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