第22話 支社長の決断
とうとう彼女は会社を辞めた。さらにはとんでもないことをしでかしてくれたのである。しかもこのタイミングで本社が本格的な社内調査に乗り出した。よって最初は地区本部から、次に本社からの呼び出しを受け事情聴取を受ける羽目になったのだ。
そこでは自らに関する事以外、言える範囲の事は全て告げた。黙っていてもしょうがないと判断したからだ。しかし調査員達はそれ以上の事情を既に把握している気配を見せていた。どこまで知り、どこまで知らないでいるのか。
そこからお互いの駆け引きが始まった。日を置いて複数回に分け、何度も同じ事を繰り返し聞かれる。受けたことは無いがまるで小説の中で読む警察の事情聴取のようだ。以前聞かれた内容と矛盾することは無いかを確認しながら、小出しに新事実の告白を迫るような質問が加えられた。
嘘はなるべくつかないように心がけた。後で追及されればそこを突破口に責められる。その為核心に触れる質問には言葉を濁し、よく判らないまたは覚えていないとまるで国会答弁のような態度を貫いたのだ。
この頃は家庭も完全に崩壊していた。仕事においてもこれ以上マイナスを食らう訳にはいかない。無罪放免とはいかないまでも、最少失点で抑えなければ次のポストは無いだろう。だから必死だった。
しかし一点だけ懸念材料がある。それは加納だ。彼も既に会社を辞めていた。それでも本社の調査は範囲を広げて行われているらしい。よって事情を聞かれたとしてもおかしくは無かった。彼の口を封じることはなかなか難しい。
彼の精神状態と性格から考えて、どこまで証言するかも疑問だ。そこで一度会って話をしなければと考えた。ただ万が一に備えて慎重を期して接触することにしたのである。
電話は公衆電話からかけた。彼の家の近くに人気のない公園があったため、話もそこですることになった。もしもの時が起こった場合を想定し、事前に周辺を調査して出来るだけ防犯カメラや人気のない場所を探った結果である。
当日は目的地まで車を使い、大きな通りを避けながら住宅地を縫うように走り、約束を取り付けてから公園へと移動した。私は暗くなった時間に彼を呼び出し、本社から調査を受けた際は余計なことを話さないで欲しいと頭を下げて説得した。
だが彼はなかなか頷かない。それどころか今は黙っているが、調査で聞かれれば話すかもしれないと呟いたのである。その為思わずカッとなり、彼を突き飛ばした。すると彼はよろめいて公園の角にあるブロックで頭を打ち、動かなくなったのだ。
血は滲む程度だったが、打ちどころが悪かったのだろう。誰も来ないか周辺を気にしながらしばらく様子を見た後確認すると、彼は息をしていなかった。どうやら本当に死んでしまったらしい。
万が一の時は殺すしかないと覚悟してはいたが、実際目の前に死んでいる彼を見て私は気が動転した。それでもなんとか彼を引きずり車のトランクに押し込め、震える手でハンドルを握りまずは自宅へと向かったのである。
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