第6話


 ここの寮は、1年生が3人部屋、2年生が2人部屋、3年生が1人部屋となっている。


 留学か、退学か、休学か、留年か、それまた別に理由か。どうかはわからないが、2年生は奇数。そのため、2人部屋を1人で占有している不届き者があらわれる。


 で、その不届き者は、協調性なしの生徒。共同生活不可とみなされた生徒。1人にするなら、と選ばれた生徒。そう、犬上のことだ。


「荷ほどき手伝ってくれてありがとう」


「くっ、姫宮が手伝えって言ったんだろうが」


 忌々しい、と言いたげな視線が突き刺さるが、気にしない。


 そんなことより、部屋を見渡す。


 部屋は両手を伸ばした人3人分の横幅。縦は寝転んだ人3人分。部屋を二つに分かつためのしきりのカーテン。窓際に配置された2つのデスク。同様に壁際に配置された2つのベッド。最後に天井に届く、裏側がクローゼットになっている棚。


 荷物はベッドの下の衣装ケースや棚にしまいこんだので、部屋にはそれだけしかない。なんとも学生寮といった風情だが、名門女子校らしく、部屋には浴室がある。


 時間を確認する。現在、18時。


 しおりに書かれていた寮生のスケジュールはこうだ。


 17時半から20時半までの間に、食堂で夕食。


 17時半から22時まで、大浴場。


 20時半に安全確認の点呼があり、22時半に再び点呼。


 以降、各自良いタイミングで消灯、就寝。


 あとは、週に二度の掃除などが部屋ごとに定められていたり、洗濯は各自で行うことなどが書かれている。


 ともかく。今は18時。食堂で夕食をとるには早い時間。先にシャワーを浴びておきたい。


「というわけで、犬上さん。今からシャワーを浴びるから覗かないでね」


「誰が覗くかよ! 私にそのけはねえんだつってんだろ!」


 無事、お墨付きをもらったので、着替えを洗面用具を持って浴室へ。


 流石に浴室は狭い。シャワーとバスタブ、ちゃんとわかれているけれど、それでも狭い。


 まあ関係ないか、とシャワーを浴びる。そして、シャンプー、リンス、ボディソープ、等々で荒い、シャワーを浴び終える。


 体のラインがでないパーカーと、魅惑的な脚を惜しまず出す短パンを履いて部屋へ。


「お先、失礼したよ」


 ベッドでうつ伏せになってスマホを弄っている犬上が「ん」とだけ返事した。


 ふむ。生意気だ。


 犬上を百合に落とすプランは、すでに組み上がっている。


 押していく。近づいてきたところを引く。そして犬上の問題を解決する。


 この3ステップだ。


 だから今は押しどき。生意気な犬上をいじめたいからでは断じてない。


「ふふっ、何見てるの?」


 犬上の横にうつ伏せで両手を顎に添え、スマホを覗き込む。


「んなっ!?」


 肩をぴたとくっつけて、追撃をかけた。


「ひゃんっ……って何すんだよ!?」


「ん? もしかして意識してるの? そのけがなければ、別にそのままでいられるよね?」


「っ、そ、そうだよ、ぜんぜん大丈夫だし!」


 急なスキンシップに動揺を隠せず、赤くなっている。


 だが、効いてくるのはここからだ。


 俺が変わらず、そのままでいると、犬上の形のいい鼻がぴくついた。


 徐々に犬上がそわそわ落ち着かなくなっていく。


 しめしめ、だ。


 湯上りの女の子のいい香りに、犬上はくらくらきはじめている。シャンプーなど、いいものを揃えた甲斐があったというものだ。


「……っ、私も! 風呂入ってくる!」


 5分も経たずに犬上は尻尾巻いて逃げ出した。


 やはり押しに弱い。


 俺はカレンダーを見る。今日は月曜日。


 この調子だと、そうだな。土曜か日曜には落とせそうだ。

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