第11話 帰るぞー

 

 ギルドマスターに促されてとりあえず報告を済ませることにした。


「もちろん調書通りの内容で間違い無い」


「……というと?」


「熊には偶然出会った。ボストン達は交戦したものの力及ばなかった。俺はなんとか逃げた。終わりだ。さっき伝えた通りだろ?」


「……熊がお前の勘違いという線は?」


「そうだな……。草を踏んだだけで灰になり、体に触れただけで木が燃え上がるような熊は他にいるのか?」


「……そうか。勘違いの線はないのう」


「もう良いか。実は結構疲れているんだ。そろそろ休みたい」


 頭の上で眠りこけていたライムを起こさない様に席を立ってドアへ向かう。全く……暢気なもんだ。まあ、人のいざこざはこいつには関係ないか……。

 ドアノブに手をかけたところで後ろからかけられた鋭い声に引き止められた。


「……待て、お前の冒険者ランクは一番低いFだろう。その実力であの熊からどうやって逃げ切れた?」


「……ああ」


 冒険者ランクとは、冒険者として登録している人物につけられる、実力を指し示すくらいだ。上から、S・A・B・C・D・E・Fとなっていて俺は一番下のFランク。まあ、ビクついてまともに動けてなかったから当然だ。

 その俺が逃げ切れたことに疑問を持ったんだろう。


「そうだな……吹っ切れた……ってとこか?」


「吹っ切れた? どういう意味だ?」


「そのまんまの意味だよ。……疑問に思うのは分かるが、熊は居たし俺は生きてここにいる。気になるなら森を調べて来ればいいしな」


「まあ、それもそうか……」


「これ以上はプライベートだ。じゃ、俺は帰るよ」


 今度こそ引き止められることなくドアをくぐって部屋から出た。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 



「シオンくん!」


「ん?」


 ギルドを出て宿に向かう道の途中。夕日が石畳の道を赤く染め上げるなか、誰かの声に引き止められた。振り返るとヴィブラがこちらに走ってきているのが見える。なにか不備でもあったか?

 目の前で立ち止まったヴィブラが息を整えているのをゆっくりと待つ。


「ふう……引き止めちゃってごめん」


「別に良いよ。それでなにかあったのか?」


「えっと……言うかどうか迷ってたんだけど……」


 何かを言いづらそうにこちらをチラチラと見ている。迷っていた……ねぇ。俺はなんでもないように肩をすくめて笑った。


「なんだ? ウジウジしていたら爺さんに尻蹴っ飛ばされたのか?」


「ちょ!? 言い方! もう……! でもそうだよね……ここまで来たんだし……」


「…………」


「ねえ……シオンくん……性格変わった?」


「―――――――」

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