第7話 震撃
――キィィィィィィン!!
「グオオォォオ!?」
発生したのは高周波の爆音。
それは指を打ち鳴らされた指から発生したもので。
「こんなもんか……」
確かめるように手を見やる。
それはいわゆる指パッチン。しかしその威力はそんなかわいいものでは断じてない規模を持っていた。現に物理的な衝撃を伴い、土煙を巻き上げ周囲の木を大きく揺らすほど。
そんな攻撃を真正面から受けた熊は、経験の無い程の耳への痛みからか頭を抱えた地面にうずくまった。それこそまるで頭を垂れているように。
「あァ、それでいい。お利口さんだ」
自然と口角が持ち上がる。これが正しい姿だとでも言うように。
「お?」
しかし熊もそのままでは終わらなかった。
丸太よりも太い強靱な腕。それに怒りを込めて力の限り鋭い爪を振り下ろしてくる。後ろにバックステップをすることで回避することに成功した。地面がえぐり取られ、焦げ付く匂いが鼻腔をくすぐる。
開いた距離を活用して熊が火炎を吐き出してきた。そこにあるのは戦略を練る知性。しかしそれだけ。
「さっき見せただろうが。……所詮獣の知性か」
迸る炎は見えない壁に遮られたかのように押しとどめられる。その熱が届くことはない。
「熱ってのはすなわち振動だ。『振動操作』が使える俺に、熱攻撃は効かねェよ。寧ろ……」
言葉と共に腕を頭上に掲げた。広げた手の平に炎が集まっていく。防御のために散らされるだけだった振動が収束されていく。
やがてそこには煌々と燃える炎が凝縮されていた。
「俺の助力にしかならねェ」
その火の玉を熊に向けて投げつけた。それは熊に接触すると同時に、押さえつけられていた多大なる熱量を解放して爆発を巻き起こすことになる。
「大して効いてないな。流石に熱には強いか……」
しかし熱は効かなくても衝撃は食らう。何かを振り払うように頭を振っているのがその証拠だろう。
「グルル……」
明らかに相性が悪い相手に熊も恐怖を抱き始める。もはやそこには食物連鎖のトップに君臨する捕食者としての顔はなく、怯えたように毛を逆立てる小熊のような姿があった。
「グオオォォオ!!」
やたらめったらと次々に炎を放ってくるものの、そこに倒そうという気概は感じられない。勝つためではなく追い払うための逃げ腰の消極的な攻撃。いまさらそんな攻撃でラッキーパンチを食らうはずもなく。
ここに格付けは成った。
最早ここから熊に勝ち目はない。
「悪いな熊公。お前は普通に生きていただけかもしれん。だがお前はライムを殺そうとした。俺を殺そうとした」
拳を握る。前世で幾度となくやって来たように自然に無理なく力を込めて。
「悪気はなかったんだろう。お前にとっては生きるために必要な事だった」
『振動操作』は音も熱も自在。だが出来るのはそれだけではない。
「だから俺も生きるためにお前を殺そう」
右の拳を引き絞る。握った拳から『――ヒイィィィィィイ……』と不思議な音が漏れていて。
「タダひたすらに……死ね」
熊が身の危険を察して炎を吐き出すも、『振動操作』の力に遮られて届くことはない。
「
慣れた動きで滑るように間合いに踏み込んだ所に、抵抗するように振り下ろされた爪。構わず拳を振り抜けば、切り裂かれるどころか逆に爪を粉々に割砕く。そのまま土手っ腹に拳が突き刺さると同時、高められた振動が熊の体を貫いた。
――後書き――――――――――――
熊が燃やし分け出来るのは、全部燃やすとなにも食べられなくなるためです。
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