第3話 いつかきっと二人で

 

「さて、ここら辺か……」


 鬱蒼と広がる木々の中、ボストンが呟く。僕たちは依頼で森に来ていた。その依頼内容とは街からほど近いここで目撃情報があったアッシュベアの討伐だ。アッシュベアはその名の通り灰色の熊で、人よりも大きな体を持った危険な魔物。かわいそうだけど人に危害を加え得る前に倒さないといけない。

 そこまで考えた所で僕の頭の上を見た細っちょが顰めっ面をした。アントンだ。


「またスライムを連れてきてるんでヤンスか」


「ごめん、置いておくのは心配で……」


「ふん、金にならんスライムなど、どうでも良い……」


「その通りだガストン。雑魚スキル持ちのペットのことより、さっさとアッシュベアをぶっ殺して、受け取った報酬で帰って酒を飲む方が重要だ」


 僕ではアッシュベアに逆立ちしても勝てないけど、この三人は楽に倒すことが出来る。あの大きな巨体は目の前で立ち上がられるととても怖いんだ。上から押しつぶされるような威圧感が凄い。


 しばらく歩き回った後、休憩になった。魔物を見つけた時に疲れていたら大変だからね。正しい判断だと思う。


「おい、喉が渇いた。水」


「あ、はい」


「気が利かねえな、『振動操作』なんてゴミスキル持ちは。これだから『アイテムボックス』でようやくトントンの価値ゼロは。オレの喉が渇く前に察して出せよ」


「…………」


 理不尽な要求に反論も出来ない。反感をかって分配を減らされては、借金が返せなくなってしまうから。


 最低限の物資は皆持ってるけど、僕の『アイテムボックス』から優先的に使っている。水は嵩張るから少ししか持ってないし、はぐれたときにボストン達が取り出せない僕から貰う方が合理的だからね……。正しく荷物持ちとして有効活用しているわけだ……。


 甲斐甲斐かいがいしくボストン達の世話を焼いたあと、僕も手頃な切り株に腰掛けて休憩した。頭からライムを下ろして取り出した水を降りかける。この子は体が乾くと弱ってしまうのだ。


「気持ち良い?」


「きゅきゅ♪」


「そっか、良かった」


 ポムポム跳ねて全身で喜びを表現するライムに思わず笑顔になる。この子は人と違って無邪気だから見ていて心が癒やされる。僕一人だったらとっくにダメになっていたかもしれない。僕のかけがえのない相棒だ。


「……鳴き声を出されると迷惑でヤンス。すぐに黙らせるでヤンス」


「ご、ごめんなさい。すぐに静かにさせるよ。……ごめんねライム。今は声を出したらダメなんだ。できる?」


「………!!」


ライムは鳴き声を出さずに体をポヨポヨさせた。分かってくれたみたいだ。ライムは凄く賢くて人の言葉だって理解できるのだ。


「偉いぞ」


よしよしと撫でれば、猫のように体を擦り付けてくる。まったく、かわいいヤツだ。思わず頬が緩んだ。


「おい、そろそろ行くぞ荷物持ち。準備しろ」


「うん、わかった。……ごめんねライム。いつかこんなパーティー抜けて楽しく冒険しようね」


「…………♪」


 同意するように震えるライムを祈るようにおでこにくっつける。きっと奇跡が起きますように。ひんやり吸い付くライムからどこか元気が貰えた気がした。


―――後書き―――――――――――


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