第50話226事件勃発

会議はその後、二葉蔵家の処遇について語られる。この家の家名は一応は令嬢筆頭である二葉蔵美神が継ぐことになった。彼女に男子が産まれれば、その人物があらためて家名を継ぐことになる。

男尊女卑っぽい取り決めであったが、花族の家名は男子が継ぐという不文律がある以上仕方がない。

さらに追放処分となっていた三千院キララと四方堂明日香の処分は取り消され、名誉は回復された。この後は彼女らの自由意思でザ・シードに残ることになるだろう。もちろん五花族に戻りたいといった時は彼女らの意思を尊重しようと思う。

たぶんだけど、キララも明日香も頼まれても戻らないと思うけどね。

「明日香ちゃんのことよろしくね♡♡」

うふっと四方堂義経は微笑む。

化粧の下のつくり笑顔の中では何を考えているかわからないな。

三千院影虎のように不機嫌そうにふんっと鼻をならしている方が分かりやすい。


「そうですか……種子島さん、いや七輝星さん。あなたは僕の想像以上だ。将の将たる器があるようだ」

僕の手を離し、双葉幸村は言う。

手探りでサングラスを外す。

綺麗な瞳があらわになる。

綺麗だが、それはあくまでつくりものだ。

生きている人間特有の生気というものを感じられない。

彼はどうしたのだろう。

あきらかに僕から離された手は緊張に震えている。

「豊久さん……あなたとは親友になりたかった。でも僕は美冬をジャック・ザ・リッパーから守らなくてはいけないのです」

双葉幸村はそういうと自らの手のひらを瞳にあてる。眼球がポロリとその手のひらに落ちる。眼球がなくなったその部分は不気味な空洞が広がっていた。

「行け!!魔眼イビルアイ!!」

短く叫ぶと急速にその美しい人工の眼球が空中に浮き、目が追いつかないほどのスピードで空間を駆けめぐる。

僕はあまりの出来事に体が固まってしまっていた。

幸村さん、御前会議でいったいなにを……。

その答えは瞬時に出された。

「ぐはっ!!」

短すぎる悲鳴のあと一乗谷信長は机につっぷした。こめかみからどろどろと血と脳しょうを垂れ流している。

誰が見てもあきらかに彼は死んでいた。


「これはまずいわね。僕まだ死にたくないのよね」

四方堂義経はたちあがり、胸元で複雑怪奇な手印を結んでいく。

「ファウストの名において命じる。メフィストフェレスよ我を護れ」

低い声でそう唱えると彼の体が光の膜に覆われる。

その光の膜は飛来する眼球を弾き返す。

「ふー危ないわ。絶対守護領域を展開させなければ死んでいたわ」

四方堂義経は言う。


四方堂義経の光の結界によって弾き返された眼球は次に三千院影虎の胸板を貫く。噴水のような血を流し、彼は椅子ごと後ろに倒れる。

ほんの数秒で五家族の二人がこの世を去った。


どうして?

なぜ幸村さんはこのようなテロ行為を行うのだ。

僕にはこの行為の意味を理解できなかった。

僕が混乱しているうちにも事態は進行する。

それはとんでもなく悪い方にだ。


「美神、悠亜、陛下をお守りしろ!!」

五丈原孔明が立ち上がり、叫ぶ。

二葉蔵美神と一乗谷悠亜は聖天子陛下の体におおいかぶさる。二人は自らの体で楯となり、聖天子陛下を守ろうといういうのだ。


「張飛よ力を貸せ!!」

そう叫ぶと五丈原孔明はその拳で超高速で飛来する眼球を弾き返す。

眼球は諦めることなく何度も何度も五丈原孔明を襲う。その全てを彼は迎撃する。

凄まじい身体能力だ。

だが、その動きがぴたりと止まる。

眼球のひとつが五丈原孔明の右拳を貫き、もうひとつは彼の下腹部を貫く。

彼の精悍な顔が苦痛に歪む。

かなりの苦痛のはずなのに、彼はピクリとも動かない。

いや、動けないのだ。

彼の手足に光の糸が絡みつき、動きをとめているのだ。

僕はこの光の糸を以前に見たことがある。病院で僕を襲った看護師についていた糸と同じものだ。

ということはそれは人形使いの糸だ。

人形使いこと五丈原涼香がこの場にいるということだ。


いったいどこに?


「パパはストップやで」

五丈原孔明の背後から前に聞いたハスキーボイスがする。この声は聞き間違えることはない。あの宿敵とも言える五丈原涼香のものだ。

のそりと背後からむっちりボディーの人形使いが姿をあらわす。パーカーのフードをおろす。涼子さんによく似たかわいらしい顔の少女があらわれる。

「さすがは美神と悠亜やな。完璧な結界やったで。外からはうちの扉から扉ドアドアでもはいられへんかったわ。でも内側からやったらめちゃくちゃ弱いやん」

またあのイントネーションのおかしな関西弁で五丈原涼香は言う。

「涼香気でも狂ったか……」

必死にもがいて光の糸から逃れようとする五丈原孔明は言う。


ふるふると左右に五丈原涼香は首をふる。

「うちはまともやで。うちは産まれたときからこうやねん。パパらがそういうふうにしたんやろ」

にこにこと笑顔を浮かべて五丈原涼香は言う。

「それにうちはこの人が好きになったんや」

ビシッと僕を五丈原涼香は指差す。

「ハンサムなお兄さん。うちはあんたにベタ惚れなんや。そうあんたがリルガミンでしたんやさかい。警戒心の高い当主らを一網打尽にするには御前会議がいちばんやからな。これでこの国はハンサムなお兄さんのものやよ。これがうちの愛の証明やねん♡♡」

五丈原涼香は独りよがりなことを言う。

彼女は僕のためだと言う。

でも僕はこんな血みどろなことは望んでいない。


「これで美冬は生かしてくれるんだよな」

眼球のない幸村は言う。


「ああっええよ。あんなでかい女興味あらへんわ。じゃああんたもバイバイな。狡兎死して走狗烹らるやで」

右手をかわいく顔の横でふると空中に漂っていた二つの眼球は幸村さんの胸を連続して貫く。

「そ、そんな……魔眼イビルアイが僕の手を離れるなんて」

げほげほと血を吐きながら幸村は倒れる。

僕はその体を支える。

「み、美冬をお願いします……」

大量の血を吐いて、幸村は絶命した。

僕はだらりと力なく垂れていく幸村の手を握る。


くそったれめ。

僕の胸に珍しく怒りの炎が燃え上がった。




※※※

お読みいただきありがとうございます。カクヨムコン8締め切りまであと少し。よろしければ★をお願いしますm(_ _)m

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