第49話七輝星家設立

楽にしてくださいとの聖天子陛下の言葉のあと、僕たちは椅子に座りなおす。

「まずは我らが友二葉蔵光秀に黙祷を捧げたい」

魅力的な低音ボイスで一乗谷信長は言う。

ここにいる全員はそれには異論はない。

ここにいる五花族の当主たちは権力に固執するたんなる悪者ではないようだ。少なくとも死者にたいする礼はあるのだ。

単なる権力にしがみつくだけの存在なら敵対しても何の遠慮もいらない。だけど彼らはそんなに単純な相手でもないようだ。


奥の一段高いところに置かれた椅子に腰かける聖天子陛下も着物の上からでもわかる豊かな胸の前で両手をくみ、祈りを捧げる。

あのヘラヘラとした笑顔を浮かべていた義経も例外ではない。

ここにいる皆が今はなき二葉蔵光秀の死を悼んだ。


約一分間ほどの黙祷のあと、ついに御前会議が始まった。

まず話し合われたのは数百億円にもおよぶ多額の資産のことである。

「資産を平等にわけたらいいんじゃない」

と義経は提案した。

光秀の子供は正式にわかっているだけでも千人近くいる。そしてその筆頭にいるのが背の高い美少女である二葉蔵美神だ。


「そうすると二葉蔵家は今の勢力を保てないな」

それは五丈原孔明である。

多額の資産もひとつに集まっているから意味がある。それが分散されれば多くの資産家が生まれるだけだ。この国の頂点に君臨できるパワーはなくなる。

義経の提案は遠回しに二葉蔵家の存在を失くそうと言っているのだ。


「そうですね、当主にはSSR資格者でなければいけない。光秀さんの子息にはその資格はない」

ちらりと三千院影虎は幸村さんを見て、金色の髪をかきあげる。その視線はどこか侮蔑が含まれているように感じられた。


「SSR資格者ならばここにいます」

幸村さんが口をはさむ。

僕の手をぐっと握る。

五花族の他の当主の威厳と権威に負けないように彼は僕の手をぐっと握る。


「豊久君は二葉蔵の家を継ぎたいのかしら」

お茶で口を湿らせてから、義経はきく。


「正直に言います。僕は帰ることができなくなった友人のために、僕を慕ってくれている人たちを守るための力が欲しいのです」

僕は言う。

二葉蔵家が持つ影響力を手に入れ、なんとかリルガミン王国に残された十六夜少年を救う算段をたてたい。


「なんて友だち思いの素敵なかたかしら♡♡」

美神さんがついもらす。

三千院影虎が視線だけでとがめる。

美神さんは頭を下げ、再び聖天子陛下の隣にひかえる。

「まったくキララも明日香もろうらくされおって……」

わかりやすいぐらいの苦々しい表情で三千院影虎は言う。


「僕もこの子たちの気持ちわかるわ。豊久君は素敵だもの♡♡ねえ、君はいつも牛尾じゃなく鶏頭でいたいって言っているらしいじゃないの」

四方堂義経は僕の顔をじっと見て言う。


その言葉を聞き、僕の脳内に天恵のようなものが舞い降りた。そうだ、人が築きあげたものをそのまま受け継ぎ、力を手に入れて何が面白いのだ。確かに二葉蔵家の資産をそのまま引き継げればすぐに権力者への道は開け、あわよくばこの世界の目的とやらにたどり着く近道になるかもしれない。

でも、それの何が楽しいのだ。

帰還できない十六夜少年には本当に悪いけど、そんな簡単なゲームをクリアしても達成感や満足感はえられない。

せっかく魔女ジャックの力でこの世界にやって来たのに他人のふんどしで相撲をとりたいなんて思ったら、僕の物語じんせいを楽しもうとしている彼女に失礼だ。


「恐れながら聖天子陛下に申しあげます。新しい家門の創設を許していただきたいのです」

僕は言い、深く深く頭を下げる。

そうだ、二葉蔵家をそのまま受け継ぐのは容易いかもしれない。でもそれでは僕はただ単なる五花族の一人になってしまう。

そうではなくザ・シードの長として他のものの下風に立つわけにはいかない。僕は彼女らのためにももっと高いところにいかなくてはいけない。他に並ぶべきものがない存在とならなければ。


僕の言葉を聞き、義経はニヤニヤと楽しげに微笑む。この人は平地に乱を起こし、それを楽しむ性格かもしれない。

ならば僕はその性格に全力で乗っかるまでだ。


「あえて困難な道を選ぶのか。面白い」

ふふっと一乗谷信長は気難しい顔を笑顔にかえる。この人、けっして美男子ではないけど人をひきつける不思議な力があるな。


「ふん、好きにすればいい。後で泣き言をいっても私はしらん」

ふんっと強い語気で三千院影虎は言う。


「なるほどな。姉が惚れるのもわかる。その気概やよし」

どうやら五丈原孔明も好意的なようだ。

僕は権力欲しさに二葉蔵家のパワーを単純に望むものと思われなくてすんだようだ。

どうにか気概というものを見せれたと思う。


「恐れながら聖天子陛下に申しあげます。このものに新たなる家名をお授けいただきますように謹んで申し上げます」

一乗谷信長はそう聖天子陛下に願い出た。


聖天子陛下は形のいいあごをこくりと下げて、承諾する。

しばらく沈黙して、こう告げられた。

「種子島豊久、あなたは七輝星ななきぼしの姓をあたえましょう。人類はいまだに暗い世を歩んでいます。その人々を照らす星となるのです」

聖天子陛下は鈴のなるような声でそう告げられた。


今日この日、この時、この瞬間から僕は種子島豊久改め、七輝星豊久ななきぼしとよひさと名乗ることになった。

五花族と六波羅家以外に聖天子陛下から家名を僕は与えられたのだ。

七番目の家名を与えられた僕は名目上は五花族に並ぶ存在となった。

僕は五花族の中に入るのではなく、五花族と対等になることを選択した。

きっとその方があやの先生、涼子さん、麻季絵さん、白にみゆきさんたちは喜んでくれるだろう。

そして七輝星の家紋を褄取草をもとにデザインしたものを与えられた。

褄取草は七枚の花びらからなる可憐な花だ。

この後、僕は世間から七番目の男ワイルドセブンなんて気恥ずかしいあだ名で呼ばれることになる。

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