第46話二葉蔵家の当主
二葉蔵光秀はとある高級ホテルで療養しているという。その高級ホテルは僕の屋敷から車で二時間ほどのところにあった。創業百年といわれる老舗のホテルだ。かつて各国の要人やハリウッドスターも宿泊したといわれる。
その最上階である二十階をワンフロア借りきっているという。
僕はみゆきさんの運転でそのホテルに向かう。白も同行した。
「お兄ちゃん、しっかり相手を見極めてきてね」
白は言う。
「ああ、もちろんだよ」
僕はみゆきさんのパイスラを凝視しながら言う。今日もおっぱいに良い感じにシートベルトがくいこんでいる。
みゆきさんの軽やかな運転で僕たちはその老舗高級ホテルに到着する。
すでにロビーには双葉幸村さんと八丈美冬さんがいた。
美冬さんは珍しくスカートのスーツ姿であった。化粧もきっちりしている。
おほっかなり美人度があがっているぞ。スーツのジャケットがタイトで推定Gカップのおっぱいの形がみてとれる。
「こんなところにいつもの作業着じゃあちょっとね。久しぶりにスカートなんてはいたからスースーするよ」
スカートのすそをつかみ、美冬さんはクルリとまわる。
「失礼します」
双葉幸村は僕の手を握る。こうして感覚を共有して美冬さんの姿を見ようというのだ。
「きれいだよ、美冬」
双葉幸村は言う。
「ありがとう、幸村」
顔を赤くして美冬さんはうれしそうだ。
僕たちが合流して、談笑していると一人の背の高い女性があらわれた。
かなり背が高い。目測だけど190センチメートルはあるだろう。褐色の肌をしたエキゾチックな美人だ。
彼女は下腹部に両手をあて、深くお辞儀する。
「お初にお目にかかります。私は
彼女は言った。
幸村さんの話では彼女は明日香やキララと同じように二葉蔵家の令嬢筆頭だという。
「朝から
二葉蔵美神はゆっくりとした口調で言う。
二葉蔵光秀がいるところには僕と幸村さんだけできていただきたいと彼女は言った。
みゆきさんたちは用意された部屋で待機することになり、僕たちは美神さんの案内で二十階に向かう。ひときわ広くて豪華な部屋に案内された。
「お父様、種子島様、幸村様をお連れいたしました」
美神はキングサイズのベッドに横たわる人物に声をかける。
その男性は上半身だけをおこし、僕たちを見る。眼光鋭い、精悍な顔だちの男性だ。年のころは四十代半ばといったところか。ただその肌には生気を感じられない。
美神さんがそっとてをのばしてその男性の背中を支える。かなり痩せているのがみてとれる。彼こそが五花族の一家の一つである二葉蔵家の当主光秀である。
「君が種子島君か……」
そう言い、二葉蔵光秀はゴホッゴホッと苦しそうに咳をする。
「お父様、ご無理をなさいますな」
美神さんが心配そうに言う。
「何、かわまんよ。久しぶりに男と話ができるのだ。うれしい限りだ」
光秀は言う。
彼の表情を見て確信した。彼には死がすぐそこまでせまっている。
「さて、何から話そうか。君も別の世界から来たのだろう。そこはどんな世界だった?」
光秀はきく。
「あまり良い思い出はありません。ずっと働いていて、なんの楽しみもありませんでした。だから僕はある人に頼んでこの世界にきました」
僕は答える。
「そうか、君は望んでやってきたのか。まあ女性に囲まれてそれなりに楽しい世界ではあるな。表向きはな。私は偶然この世界に来たのだ。魂だけがこの世界の自分といれかわったといって言いだろう。私が前にいたところはひどかった。常に死がすぐそばにいた」
二葉蔵光秀は語る。
二葉蔵光秀がもといた世界はここよりも過去の世界だと思われる。世界中で戦争がおこり、彼の国は大国相手に当初は善戦するも圧倒的な物資の差が戦況を悪化させた。敗戦に続く敗戦でついに本土に何度も空襲がおこなわれた。光秀の兄は東南アジアで戦死しており、彼は母と妹を連れて防空壕に逃げ込んだ。防空壕に逃げ込んだあと、妹が喉が乾いたというので若き日の光秀は近くの井戸に水をくみにいく。
頭上を見上げると無数の鉄の爆撃機が空を覆いつくしている。雨あられとおとされる爆弾が歴史ある街並みを焼きつくす。木造建築の多いその街はあっというまに炎につつまれる。それはお寺でみた地獄絵図そのままの光景だったと二葉蔵光秀は語る。
水を汲んだ光秀は防空壕にもどる。だが、そこは爆弾によって燃えつくされ、近づくことさえ困難であった。母と妹はどうなったかわからない。その間にも街は焼きつくされ、人々はあてもなく逃げまどう。光秀も逃げた。どこに逃げたらいいのかわからないが、とにかく逃げた。
ここにこのままいてはいけないと思ったからだ。
街のほとんどが焼かれて、人々は焼かれていない場所を目指す。やっと焼かれていないところを見つけたと思ったら、そこにも爆弾が降り注ぐ。飛び散った炎に焼かれる人々。しかもその炎は水をかけても消えないのだ。
たぶんそれはナパーム弾だ。粘着力のある爆薬は水では消えないという。
光秀の体にもその炎がふりかかる。熱さにたまらなく川に飛び込むが、川の水程度では炎は消えない。
彼は見た。
川が燃え、人が簡単に焼け死ぬのを。
そしてすぐに自分もそうなるだろうと。
熱で息ができなくなり、彼は意識をうしなった。
次に目覚めたときはこの世界にきていたという。そして、しばらくはこの平和な世界で暮らしていたが、ほどなくしてあの七日病のパンデミックが人類を襲う。自分がSSR資格者に認定され、気がつけば五花族の一つである二葉蔵家の当主になっていた。
二葉蔵光秀の体は時おり、いたるところに火傷のような傷が浮かぶという。それはその空襲の恐怖からくるものだと彼は言った。
体が時々、その恐怖を思いだし、体を傷つけるのだ。
焼ける鉄を見た人が、目隠しして鉄の棒を握ると体が想像で火傷をおこすという。同じような現象が光秀の体におこったのかもしれない。
こちらの体にあの空襲からくるトラウマが今になっても彼を傷つ続けているのだ。何度か再生医療を行ったが、ついに光秀自身の肉体の限界が訪れたのだ。
「ここに来てそう悪くはなかったよ。兄や妹よりも長生きできたしね。兄は学生であったが戦地に赴いた。そしてそこで死んだ。女性の柔らかさや温かさ、気持ち良さを知ることなくな。だから私は兄の分まで女性を愛して、快楽を味わいつくしたのだ。だから、思い残すことはない」
ふーと二葉蔵光秀は息をはく。
美神さんの手を借りて水を飲む。
「君は二葉蔵の家の力を使い、何をしたいのだ?」
光秀は僕にきく。
「僕は友人を取り戻したい」
僕は答える。
「幸村、お前は?」
双葉幸村にもきく。
「僕は大好きな人を守りたい」
彼はそう答えた。
ふふっと二葉蔵光秀は笑う。
「もうこの世界に未練はない。お前たちの好きにするがいい。私が死んだ後はこの種子島豊久さんにお仕えしなさい、美神」
二葉蔵光秀は美神さんの手を握る。
美神さんは大粒の涙を流し、はいと答えた。
この面会からほどなくして二葉蔵光秀はこの世界を去った。
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