第43話無能の人

僕たちがリルガミン王国から帰還した次の日、目を覚まさない十六夜少年をあやの先生の知り合いの病院に移送することになった。その病院には冷凍睡眠装置もあり、十六夜少年はそこで眠り続けることになる。実はその冷凍睡眠装置には僕も事故で植物状態になっていたときに入っていたのだという。

意識の覚醒の兆しが観察され、僕が目覚めたあの病室に移動されたのだという。

十六夜少年の冷凍睡眠装置の管理はあやの先生の友人の医師がみてくれるという。

ガラスケースのようなその装置から見える十六夜少年の秀麗な顔を春風さんはずっと見ている。

「よろしければここにずっといてもいいのですよ」

僕は春風さんに言う。

春風さんが十六夜少年を愛しているのは誰がみてもあきらかだ。この病院で十六夜少年のそばにずっといてもらってもかまわない。

「いえ、ご好意はうれしいけど私がここにいても何もできないわ」

小さく首を左右にふり、春風さんは答えた。


春風さんの希望で麻季絵さんのレストランで彼女は働くことになった。体を動かしているほうがつらいことを忘れられるのだという。

どうにかして十六夜少年を現実世界に連れ戻さないと。いつまでもあの冷凍睡眠装置に入れておくわけにはいかない。

それには共通意識世界に構築されたリルガミン王国に再度いかなくてはいけない。さらにその世界の別の管理者を用意しなくてはいけない。仮にリルガミン王国に行けてもその国を崩壊させ、そこに住む一億人をむざむざ殺すことは十六夜少年は望まないだろう。

しかし、そのリルガミンに赴くにはグラディウスのコントローラーとMSXスーパーターボが必要なのである。肝心のあの古いパソコンはショートして使えない。

あのパソコンは世界に一台しかない。

白にどうにかして治せないかと頼んだが、完全に焼け焦げてしまって修理は不可能だという。

MSXスーパーターボに代わるマシンを手にいれなければいけない。



十六夜少年が入院してから一ヶ月が過ぎようといしていた。依然として、十六夜少年を救う手立てはみつかっていない。

無為な日々を僕たちは送る。

この一月ひとつきで僕は春風さんとの仲をかなり縮めた。彼女の寂しさをまぎらわせるためにいろいろと楽しませようとしたのが功を奏したようだ。

「十六夜の次にあなたのことが好きになったかもね♡♡」

春風さんはティッシュで口をぬぐう。また僕の愛情を飲み干してもらった。僕もお礼とばかりに指と舌で春風さんを天国へと誘う。

何度も何度も僕の腕の中で彼女は天国へとイッてしまう。僕はSSR資格者なのでやればできてしまうのでそのようにして愛しあった。

「僕もあなたにとって二番目でかまいませんよ」

僕は言う。春風さんを妊娠させて六波羅家を再興させるのは十六夜少年が帰還をはたしてからだ。それまでは僕は十六夜少年のかわりに春風さんの心を少しでも癒さないといけない。



二月のはじめのある日、僕は麻季絵さんの営むレストラン「白うさぎ亭」にきていた。彼女の店を手伝うためだ。

白うさぎ亭はなかなか繁盛している。料理の料金が低いのでそれほどの儲けはないが、忙しくも楽しそうにしている麻季絵さんを見るとこちらも楽しくなってくる。

ランチタイムも終わり、僕たちはそのレストランで遅い昼食をとる。

この日のまかないは僕の好物の豚肉のしょうが焼きだ。生姜がよくきていていて、ご飯がよくすすむ。

洗い物を終えた春風さんも僕たちと一緒に昼食をとる。

「今日はありがとうダーリン♡♡」

麻季絵さんは言う。

僕がウエイターとして料理を運ぶと店のお客さんは皆喜んでくれた。

「こんなにきれいな男性が料理をもってきてくれるなんて♡♡」

お客さんの一人はそう言い、喜んでくれた。お客さんや麻季絵さん、春風さんも僕のことを美男子だなんていってほめてくれるけど鏡で見る僕は社畜時代とそれほど変わらないのだけどね。

でも褒めてくれるのは正直嬉しい。



僕たちがお昼ご飯を食べていると八丈美冬さんがやってきた。

「まだやっているかい?」

ハスキーボイスで美冬さんはきく。ダウンジャケットを脱ぐとその下はいつもの作業着だ。この人いつも胸元がはだけているんだよな。推定Gカップの胸の膨らみがよく分かる。僕は働く女性が好きなので美冬さんのことも大好きだ。実はいつかハーレムファミリーに迎えたいと考えている。

美冬さんもまんざらでもなく、こうやってこの店にきては僕たちと一緒に食事をとり、そのあと度々お酒のお供をする。僕はお酒があんまり飲めないのでいつも話の聞き役だ。その際美冬さんは僕の肩を抱き、その巨乳をおしつけてくる。


この日、八丈美冬さんは一人ではなかった。彼女はある人物の手を握っている。

その人物はもうひとつの手で白い杖を握っていてサングラスをかけていた。

そしてその人物は何と男性であった。

「こいつはアーシの幼なじみで双葉幸村ふたばゆきむらってんだよ」

美冬さんがその男性を紹介する。

「どうも、僕は双葉幸村と申します。かつて五花族の一家二葉蔵ふたばくらにつながるものでした。しかし役たたずの僕は二葉蔵の家を追い出されて、今は八丈美冬さんにやっかいになっています」

そう言い、彼はぺこりと頭を下げる。

僕はその双葉幸村を椅子に座らせる。麻季絵さんが温かいお茶を用意してくれる。

双葉幸村は麻季絵さんにありがとうと言い、お茶をひとくち飲む。

「美味しいですね」

と彼は言う。

「こいつがさ、どうしても若旦那に会いたいっていうからさ、連れてきたんだよ」

八丈美冬さんはそう言い、双葉幸村の隣に座る。僕はこの二人を見て、この空気感どこかでみたことがあると思った。それは十六夜少年に対する春風さんのような空気感だ。もしかすると男女の関係かもしれない。

「ふふっそれはありませんよ。僕はE資格者ですからね」

双葉幸村は言う。

D資格者とは女性を妊娠させることができないものだ。この貞操逆転男女比1対10000の世界で男性の価値はいかに女性を妊娠さすることができるかにつきる。

五花族が権力を握っているのはその当主五人が全員SSR資格者であるからだ。そして僕もそのSSR資格者だ。

「種子島豊久さん、あなたが魔女ジャックの導きによりこの世界にやって来たように僕も魔法使いのジャック・フロフトの手によってこの世界にやって来たのですよ」

お茶を一口飲み、双葉幸村は言った。

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