第39話アラクネの猛攻

あの顔は間違いなく涼子さんだ。でもどうして彼女がこんなところにいるんだ?

しかも下半身は蜘蛛の化け物だ。

「この世界の治安維持のため、侵入者は排除いたします。なお侵入者に拒否権はありません」

冷たい、機械的な口調で涼子さんの顔をした蜘蛛の怪物は言った。顔も声もスタイルも間違いなく涼子さんだけど、何かが違うような気がする。


「あれは涼子さんじゃないよ。あの怪物は涼子さんにとても似ているけどその体には魂が感じられない」

白がシャーと警戒しながら言う。白が言うには姿形はそっくりだけどその体には魂というか感情というものを感じられないという。言うなれば生物兵器のようなものだというのが、白の分析である。

とはいえ、このエリアを守るモンスターが涼子さんにそっくりというのが謎の一つではある。


涼子さんそっくりのアラクネは問答無用に僕たちに攻撃をくわえるかまえをとる。

口から大量の糸を吐き、それを一つの形にかためる。瞬時に巨大な斧に変化する。

その戦斧は糸からできてはいるが、かなりの強度がありそうだ。一撃でもくらえばかなりのダメージを負いそうだ。これは気をつけねばいけない。しかも顔が僕の好きなきれいな涼子さんなのでいろいろやりづらい。

あの唇や乳房に何度も口と手をつけたことがある。それを傷つけなくてはいけないのは正直気がひける。

あれが涼子さん本人ではないとしてもだ。


「これはやりにくいですわ」

キララも顔に悩みの色を浮かべている。彼女は両手で魔棍ナインドラゴンを持ち、正面にかまえる。この魔棍ナインドラゴンは一回の攻撃を九回に増加させることができる。


「でもやらはければ私たちがやられるわ」

明日香が言い、両手に短刀を持ち、十字にクロスさせてかまえる。短刀は南斗と北斗と言う二対のものだ。南斗は攻撃力上昇、北斗は素早さ上昇の能力付与がある。


アラクネの攻撃がせまる。彼女は糸の戦斧を両手に持ち、頭上にかまえる。恐ろしく素早い動きでせまり、戦斧の一撃を繰り出す。

戦斧は流星の素早さで攻撃が繰り出される。


くっこれはまずいぞ、速すぎる。

僕たちは散開し、その攻撃をかわす。戦斧の一撃は床を粉々に粉砕する。破片が顔に辺りいたい。砂煙がもうもうとたちこめる。


「涼子さんの顔をしてるからって容赦しませんわよ」

キララが魔棍ナインドラゴンを頭上で回し、床を駆け抜け、猛烈な一撃をうちだす。この一撃は九回に増加される。


「お許しを涼子さん!!」

明日香も床を駆け抜け、次にジャンプして壁をけり、アラクネの背後にまわる。


二人の息はぴったりだ。もともと彼女らは親友ということでもあったし、呼吸も動きも最高のコンビネーションだ。

この攻撃でたおせないまでもそれなりのダメージをおわせることができると思われた。

だが、そうはいかない。

二人の攻撃はアラクネの周囲に張り巡らされた糸の盾により完全に防がれた。


「どうやらあの蜘蛛の魔女は物理攻撃無効の特技スキルがあるようですね。ならばこれは」

十六夜少年が低い音律の呪文を唱える。無数の火炎球が周囲に浮かび、アラクネめがけて飛来する。明日香とキララは巻き込まれないように後方に飛び退く。

十六夜少年の火炎嵐ファイアーストームはアラクネを焼きつくすべく彼女の体にまとわりつく。

しかしその紅蓮の炎も彼女の体をわずかに傷つけるだけだった。

どうやら魔法攻撃にも耐性があるようだ。


おっと第二撃が打ち出される。

ブンブンと戦斧を振り回して僕たちを殺戮すべくアラクネは襲いかかる。

その攻撃をカシナートの剣で何度か受けるがただ受けるだけでも体力がすり減らされる。

聖騎士の鎧で回復し、さらにキララが治癒魔法で回復してくれる。

しかしこれではジリ貧だ。


僕たちの攻撃はほぼきかなくて相手の攻撃でじわじわと体力をけざられる。今すぐ全滅はしないが、勝機をみいだせないのも確かだ。

さて、どうしたらいい。

やつの攻略方法はなにかあるのか。

ゲームにはなにか攻略する手立てがあるはずだ。


アラクネの蜘蛛の背中を狙いなさい。


突如、女性の声が頭の中にこだまする。この声どこかできいたことがあるぞ。僕の身近にいる人の声だ。ただ今はこの声が誰か考えている場合ではない。攻略のヒントがない以上、この声にしたがってみるのも一つの手段だ。


「アラクネの弱点は蜘蛛の背中だ。そこを狙おう」

僕は言う。どうしてその情報を知ったのか皆は疑問に思っただろうが、僕の指示にしたがってくれた。

まず僕とキララが前衛にたちアラクネの直接攻撃を防ぐ。

十六夜少年が僕とキララに防御力上昇の魔法をかけ、さらに削られる体力を随時回復させる。その上に明日香に素早さ上昇の魔法をかける。


文字通り電光石火となった明日香はアラクネの背後にせまる。僕とキララは休みなくアラクネを攻撃する。アラクネは僕たちの攻撃に手一杯で背後にまわる明日香に対処できない。

「きっとこれだね!!」

明日香は両手に持った南斗北斗の短剣をアラクネの背中に突き立てる。そこだけ縞模様の色が違ったようなのだ。アラクネの蜘蛛の体は白と黒の縞模様だ。だが、明日香が攻撃したところだけは濃い赤色をしていた。


ズブリと深く短剣は突き刺さる。

そうするとどうだろうか、アラクネの体はピタリと止まった。

「緊急停止、緊急停止。命令がリセットされました。これより無期限のスリープモードにはいります」

がくりと肩を落とし、アラクネは床に戦斧を捨てる。蜘蛛の体も足を曲げて、床に座りこむ。首もだらりとさげ、静かに眠りについた。


どうやら僕たちは中階層のボス「蜘蛛の魔女アラクネ」を撃破した。ギルバートよりもさらに膨大な経験値が手にはいった。僕たちのレベルはみるみる上昇していく。

さらにドロップアイテムとして魔女の闘衣とアラクネの楯をゲットした。

魔女の闘衣はキララが装備する。これは体のラインがくっきりとわかるエロい装備だ。しかも魔力上昇と魔力回復の効果もあるという。この魔女の闘衣というアイテムきっちりと乳袋もつくられているな。キララの推定Gカップはあるおっぱいの形がきっちりと見てとれる。

そして僕が装備するアラクネの楯だ。これは回避率上昇と防御力上昇、しかも物理攻撃半減の効果が付与されていた。


僕たちは話あい、さらに上の階を目指すことにした。行けるところまで行こうというのが皆の結論だ。足踏みしていても仕方ないからね。

上層階のモンスターは強敵揃いだ。だけど僕たちは今までの戦いでつちかったチームワークで乗り切る。苦戦には違いなかったけど戦えば戦うほど僕たちはレベルをあげて強くなる。二体の強敵である魔王ベリアルと天使長ミカエルを撃退し、最上階の扉を開けるためのアイテムをゲットした。

魔王ベリアルから得たのが悪の宝石であり、天使長ミカエルから得たのは善の石であった。悪の宝石はまぶしいほどの輝きを持つ宝石で、善の石は一見すると普通の石であった。


最上階の扉の前に立つと拳大の何かをはめる穴がある。僕は両手に善の石と悪の宝石を持つ。二つの石は引力でもあるようにひかれ合う。試しに合わせてみると光と闇が入り雑じった一つの宝珠ができあがる。

それを扉の穴にはめるとゆっくりと扉が開く。


その玄室の広さは学校の教室ぐらいだろうか。床にはやわらかな絨毯がひかれていて、奥に豪華な玉座が置かれている。

そしてその玉座に一人の女性が座っている。

豊満な体をした美しい女性だった。

「よくここまで来ましたね。わたくしはヨアナ。このリルガミンを統べるものです」

その美貌の女性はそう名乗った。

その女性はあやの先生と瓜二つであった。

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