第37話王都スカルダ
目の前に広がるのは絵に描いたような中世ヨーロッパ風の異世界だった。石作の家がならび、石畳の道を馬車がはしる。行き交う人々は耳の長いエルフに背の低いがっちりした体格のドワーフ、それに猫耳の獣人や蛇の顔をしたリザードマンまでいる。
「こ、これは……」
ついさっきまでグラディウスのコントローラーを握り、ゲームをしようとしていたのにあの古いパソコンに電源をいれたら、こんな異世界に来てしまった。まさか異世界から異世界に転移するなんて夢にも思っていなかった。
「ものすごくリアルだけどここはいわゆる仮想現実の空間さ。たぶんだけど共通意識世界に構築された疑似世界なんだろうね」
その声は白のものだった。
あれっ白の声がかなり低いところから聞こえる。その声の出所に視線を送ると白いかわいらしい猫がいた。あの公園で助けた白猫とまったく同じ姿だ。
「白、どうしてその姿に?」
僕は尋ねる。
「本来この疑似異世界にはグラディウスのコントローラーをもつものしかこれないんだよね。でもお兄ちゃんの召還獣という設定で僕は侵入したんだ。これならいいよね十六夜君」
白は答えた。
すなわちコントローラーを持たない白が僕の手助けをするにはゲーム内のキャラクターになり、僕の召還獣ということにして彼女はこの異世界についてきたんだ。健気だな。
僕の肩に飛び乗る白の小さい頭を僕はなでなでする。
「うまくいってよかったですね、白さん。ここは共通意識世界につくられた異世界なのです。リルガミン王国の王都スカルダ。そしてあれが僕たちが攻略しなくてはいけないリルガミンの塔なのです」
十六夜少年は東にそびえる天までとどくのではないかという巨大な塔を指差す。
それは神話のバベルの塔を連想させた。
「いよいよ冒険の始まりなのですわね、わたくしワクワクしますわ」
金髪巻き毛の美少女が言う。三千院キララも無事にこの世界に来たようだ。
「ご主人様は私が全力でお守りします」
頼もしいことを言うのは明日香だ。
この疑似異世界リルガミンに僕たちはフルダイブしたということだ。
十六夜少年の進めで僕たちはまずは冒険者ギルドに登録することになった。ここでそれぞれの
前にゲーム実況したウイザードの迷宮のデータを使えるということで、僕は戦士ということになった。
十六夜少年はこのウイザード迷宮の追加特別シナリオのリルガミンの塔を単独でやりこんでおり、
キララは僧侶を選択した。武器屋で買ったモーニングスターをぶんぶんと振り回し、きれいな顔に凶悪な笑みを浮かべている。僧侶だけど戦闘をする気まんまんだ。
明日香は盗賊を選択した。運動神経抜群の彼女にぴったりだ。明日香は盗賊の高位職業である忍者を目指すといっていた。
僕たちは武器や薬草などのアイテムを買い込み、リルガミンの塔へと向かう。王都の東門をぬけるとリルガミンの塔の入り口が見えてきた。他にもパーティーがいるようでその冒険者たちに向けて商売をする人たちもいる。
「さあまずは低階層でレベル上げをしましょう。このリルガミンの塔は上に行けば行く程強い敵があらわれますからね」
十六夜少年が解説する。
僕たちは彼のすすめの通り、低い階層でスライムやピクシー、コボルトなんかを倒していく。
「またレベルが上がりましたわ」
コボルトの頭をモーニングスターで砕きながながらキララは狂気を含んだ笑みを浮かべる。
「これで最後だ」
短刀でピクシーの首を明日香ははねる。
まさに死屍累々だな。
明日香とキララの類いまれなる身体能力の高さと十六夜少年の魔法によるサポートのおかげて僕たちのレベルはみるみるあがっていく。
「さて、準備運動もすんだし、もう少し上に行ってみよう」
白のすすめで僕たちは低階層とよばれるエリアの一番上にたどりつく。ここから上はモンスターのレベルが格段にあがると十六夜少年は説明した。
しかしリルガミンの宝珠を手に入れるには最上階まで行かねばならない。こんなところで足止めしている場合ではない。
低階層の一番上にあるその場所は地上から十階のところにあった。そのエリアを守るのは僕が前回苦戦した騎士ギルバートだ。
テニスコートぐらいはありそうなその場所でギルバートは一人立っている。
僕たちの姿を見つけた彼は問答無用で襲いかかってくる。
充血した目はバーサーカーそのものだ。
あの時は一人だったから苦戦したけど今日は違う。
まずは明日香が素早さをいかして撹乱させる。ギルバートの周囲をかけぬけ、何度もそのバスタードソードを空振りさせる。
さらにキララは背後に回り込み、モーニングスターで強烈な打撃をくわえる。
キララは僧侶なのに前衛でめちゃくちゃ戦っている。
僕も前進し、ギルバートに斬撃をくわえる。僕のロングソードには十六夜少年が風の加護を付与してくれている。素早さが倍増し、三回攻撃が可能なのだ。
僕たちは連携し、ついにあの騎士ギルバートを倒した。
彼は大の字になり、床に倒れる。大量の血を吐いていた。彼からもたらされた経験値はすさまじく僕たちは高位職業に
倒れた騎士ギルバートが何か言いたそうにしていたので、僕は彼の口もとに耳をかたむける。
「ヨアナ王妃にギルバートは先に逝くとつたえてくれ」
そう彼は言い残し、霧のように消えてしまった。
十六夜少年のすすめで転職するために僕たちはカント寺院に向かう。ここで僕たち次なる冒険のために新たなる力をえる。
僕は聖騎士の職業につく。ギルバートが残した聖騎士の鎧はこの職業のものしか装備できないのだ。この鎧は自動回復の魔法が付与されていて、防御力もかなり高い。また聖騎士はまだみつけていないが聖剣なるものも装備できるという。そして聖騎士は中レベルの回復魔法も使えるのだ。
キララは聖女になった。すべての回復魔法を使用でき、しかも風の魔法も使えるという。またモーニングスターだけでなくロッドのスキルも獲得し、ますますもって前衛で活躍できるようになった。
明日香は目標通り忍者となる。一撃必殺の首はねを得意とし、魔法によくにた忍術も使いこなす。また装備をしていないときが一番強いらしく明日香は戦闘中にすぐに裸になるようになる。また敵察知能力を身につけてこれで不意打ちにあうことはなくなった。
「さあ、本格的な攻略は明日にして今日のところはひきあげよう」
白の話では現実世界ではかなり時間がすぎているようなのだ。
ログアウトし、現実世界にもどると時刻は夜の九時になっていた。八時間以上ぶっ続けでゲームをしていたのか。このゲームまだ序盤だけどめちゃくちゃ面白い。こっちに帰りたくなくなるほどにだ。
また明日もこのゲームをしよう。そしてリルガミンの宝珠を手に入れるのだ。
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