第30話決着

僕たちは二階に駆け上がる。

ドタバタと激しい音がする。

すでに戦闘がはじまっているようだ。

僕たちはその騒音がする方に走る。

二階の廊下で涼子さんが数人の戦闘員を相手にしている。

廊下はさして広くなく、大人数の戦闘員を展開できずにいる。

三人も横に並べば精一杯だ。

涼子さんはトレーニングウェア姿で今にも襲いかかろうとしている戦闘員をじっと見ている。

戦闘員の一人がライフルの引き金をひこうとする。

と次の瞬間にはぐへっと悲鳴をあげて後ろにたおれる。

いったい何が起こっているのだ。

僕が疑問に思っていると立て続けに悲鳴をあげて二人の戦闘員が倒れる。よくみるとゴーグルを破壊して彼女らの額になにかがめり込んでいる。そこから噴水のように血を吹き出している。

ダンダンッと発射音がする。

みゆきさんと小笠原夏子さんがほぼ同時に発砲したのだ。二つの弾丸はそれぞれ戦闘員の胸に命中し、戦闘不能とした。


僕たちは涼子さんに駆け寄る。

「大丈夫ですか、涼子さん?」

僕はきく。

この廊下に集まった戦闘員はあらかた倒してしまっている。

「ええ、あなた。あなたにもらった力で怪我一つないわ」

うふふっと涼子さんは妖艶な笑みを浮かべる。

彼女の手にはおはじきが握られていた。

「涼子さん、もしかして指弾をたしなまれるのですか」

麻季絵さんこと麻里亜さんがいう。肩に三節棍をかついでいる。

「ああっほとんどたおしちゃったわね。やり足りないですわ」

残念そうにキララは言う。

やばいなキララの目がいっちゃっている。

キララも戦闘狂の素質があるのかもしれない。できればキララはかわいいメイドでいてほしいんだけどね。

「前に教わったことがあるのよ。この身体になってから威力がかなりあがっているわね」

涼子さんは答える。

身体強化されて体を騎士ガヴェインの能力で三倍にあげている。涼子さんの指から弾かれるおはじきは銃弾とほぼかわらない。


「そうねこの屋敷を囲んでいた戦闘員は半分以上は戦闘不能ね。しかも死者はいないみたいね。重傷者は数えきれないけどね」

あやの先生が万里眼の能力で状況を分析する。

死者がいないのはなによりだ。

僕たちは殺人をしたいわけじゃないからね。

四方堂明日香の要望がのめないので戦っているだけだ。その四方堂明日香がこの状況を見て撤退してくれればいいのだが。


その時、シュッという甲高い音がした。

もちろん僕はその音を聞くだけで反応できない。

反応したのはみゆきさんだ。

みゆきさんは警棒で脇差しによる一撃を防いでいた。見敵必殺の能力にある加速を使ったのだ。

そして脇差しで僕に斬りかかたのは四方堂明日香であった。

彼女は秀麗な顔で僕をにらんでいる。

「我が友をてごめにした罪つぐなってもらうぞ」

歯をぎりぎりと食いしばり、四方堂明日香は言う。

狭い廊下なのであの時宗の太刀は使えないとみて、彼女は脇差しによる斬撃に変更したようだ。

「あら、わたくしてごめになどされていませんわ。わたくしはいつでもよろしいのですけどね」

キララはオホホッと笑う。

「おのれ、三千院キララを洗脳したな」

四方堂明日香は脇差しを引き、何度も斬撃を繰り出す。

すさまじい速さだ。

だが、加速の能力を使うみゆきさんにすべての攻撃を防がれている。


「もう止めないか。こんなこと意味はないよ」

僕は言う。

そう戦いなんて意味がない。

僕は誰とも戦いたくはないのだ。

僕は美少女と美女と一緒にイチャイチャしたいだけなのだ。

「意味などなくはない。貴様はまた六番目になるやもしれぬ。五花族の平和のためにも貴様はいてはいけないのだ!!」

必殺の一撃をくりだすもみゆきさんに防がれる。

涼子さんが指弾でおはじきを撃つが四方堂明日香は人並み外れた反射神経でそれをよける。

おはじきが壁にめりこむ。

小笠原夏子さんもジークフリードをかまえるが四方堂明日香が動きまわるので狙いをつけられないようだ。

「死ね死ね死ね!!」

狂ったように四方堂明日香は斬撃を繰り出す。

みゆきさんは警棒でそれを防ぐ。

驚くべきは四方堂明日香の腕力だ。

受けているみゆきさんの腕が震えだしている。

見敵必殺の能力を使うみゆきさんと四方堂明日香は互角に戦っている。四方堂明日香の戦闘力のなんたる高さか。


しかし敵の親玉がそこにいるということはひとつのチャンスだ。ここで四方堂明日香を倒してしまえばこれでこの戦いは終わる。

「四方堂明日香、動くな!!」

僕は言葉に意識をこめて放つ。

言霊の能力は言ったことを実現させる能力だと白は言っていた。


ぴたりと四方堂明日香は動きをとめる。

彼女は眼を充血させ、歯を食いしばりそれに抗う。

ぐぐっと少しずつ彼女は動く。

僕の言霊の特技スキルに四方堂明日香は精神力のみで対抗しているのだ。なんたる心のつよさか。

「四方堂明日香、動いちゃだめだ」

僕はさらに意思をつよくこめる。

だらりと鼻から何かでた。

手でぬぐうと血であった。

よりつよく特技を使ったのでその反動がきているのだろう。頭に血がどくどくと流れる音がする。鈍い頭痛が走る。

「動くな、四方堂明日香。もう戦いはやめよう。僕は三千院キララにはなにもしていない」

僕は言う。キララのことはエロいと思うけどまだ14歳だからね。手をつけるのはもうちょっとしてからだ。

「ぐぐぐっ」

歯をぐっと食いしばり、四方堂明日香はその言霊の忌ましめから逃れようとする。

しかし、うまくいかないようだ。


頭が痛いし、身体がふらふらしてきた。おそらくだけど言霊の能力を使いすぎた。もうすぐ限界だ。ここで決着をつけないと。


僕は四方堂明日香に近づき、彼女の頬を撫でる。すべすべしていて気持ちいい。

僕に頬を撫でられて四方堂明日香はくやしそうだ。

「四方堂明日香、君も僕を好きになればいい。みんなで仲良く楽しくしようよ」

僕は言葉一つ一つに意思をこめていう。

さらに頭痛が走る。

ずきずきと血が流れる音がするほどだ。

「だ、誰が貴様など……」

しかし、四方堂明日香はなおも抵抗する。

僕は魅了の力をフルにするイメージをする。前に白に魔術はイメージだと教わったことがある。


四方堂明日香の後ろにいた、まだ残っていた戦闘員がふらふらと倒れる。

「この香り気持ちいい♡♡」

恍惚とした表情ですべての戦闘員が気絶する。

「あはっ男の子香りだわ♡♡気持ちいい♡♡」

ありゃあやの先生も倒れちゃった。これは諸刃の剣だな。

みゆきさんたちも顔がぼんやりしている。


僕はさらに四方堂明日香に近づき、彼女の細い体を抱きしめる。どんな女の子も温かくて気持ちいいな。

「くっ、なんてにおいだ。頭がくらくらする」

ついに四方堂明日香も抵抗しきれず、僕の体臭をかぎたしだ。うっとりした顔をしている。

「スーハースーハー♡♡」

呼吸の音があの甘えた声になったぞ。

もう一押しだ。

僕は四方堂明日香の黒髪をなでる。

「君、かわいいね。僕と友だちにならないか?」

頭をなでなでし、背中もなでなでする。

四方堂明日香は白い顔を真っ赤にして、脇差しを床に投げ捨てた。

「うん♡♡明日香あなたの友だちになるわ♡♡友だちってセックスフレンドのことよ♡♡」

ぎゅっと僕に抱きつき頬をすりすりしだした。セックスフレンドなんて急展開過ぎるけどもう彼女は敵対しないだろう。

「ありがとう明日香ちゃん。じゃあ今日のところは引き上げてくれないか」

僕は言う。

「わかったわ、部隊は撤退させるわ。それに信愛のあかしとしてこれをどうぞ」

四方堂明日香は背中の軍用ポーチからタブレットを取り出すとなにかカチャカチャしだした。

そのタブレットの画面を僕に見せる。

それは四方堂武装警備保障の株が僕に譲渡されたというものだ。

「私の持ち株全部あげちゃう♡♡バージンもあげちゃう♡♡セックスフレンドにはお金なんて必要ないもの♡♡」

頬をすりつけながら四方堂明日香は言った。


この後、白に確認してもらうとなんと四方堂武装警備保障の株式の40パーセントが僕のものになったのだ。僕ははからずも四方堂武装警備保障の筆頭株主になってしまった。

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