第28話聖夜の前の決戦

四方堂家は五花族の中でもっとも好戦的で戦闘力の高い家門である。

パンデミック以降の治安悪化にともないあらゆる組織、団体、企業は自らの身は自分たち自身で守らなくてはいけなくなった。

そこであらわれたのが民間の武装警備会社である。治安維持能力の低下した警察にかわりそれらの武装警備会社が依頼主の安全と平和を守るようになった。

むろんその平和と安全が守られるのは持てる者だけであり、一般市民は犯罪に怯える日々である。

そうみゆきさんは説明する。

その民間武装警備会社、略して民武とよばれるそれらの中で最大最強が四方堂武装警備保障なのである。そしてそのトップが四方堂明日香だとこれはキララが説明した。

四方堂明日香はキララと同じ14歳の若さで民武のトップにたっている才女である。ともキララはつけたす。


「その四方堂明日香が明日、この家を制圧するっていってるんだよ」

と白は言った。

死にたくなければ全財産をさしだし、捕虜となり、三千院キララをさしだせというのが降伏の条件であった。

さすがにのめないな。

四方堂家に全面降伏しろというのだ。

せっかく築いたハーレムファミリーを解散し、しかも財産をすべて差し出せというのだ。武力にものをいわせたこん棒外交といっていいだろう。


「なになに、毒牙により三千院キララを犯した罪は万死に値する。SSR資格者故命まではとらぬがそれ相応の報いを受けてもらおう」

宣戦布告の一部分をあやの先生は読み上げる。

「うはっ愛しの君、やってもないことで恨まれちゃってるわね」

あやの先生はJカップおっぱいの前で腕をくみ、あきれている。


「わたくし、まだ犯されてませんわ。なら明日香が襲来する前に犯してくださいまし」

メイド服の三千院キララはその巨乳をおしつけて抱きつく。

むふっ本当に14歳とは思えない。僕の波動砲が発射準備を整えるではないか。


「いや、さすがに今はそれどころじゃないでしょう、あなた」

涼子さんがキララの体をひきはがす。


「それにしても宣戦布告とは古風だな。襲来時期を教えるとは一応自分たちは犯罪組織ではないということをいっているのだろう。理屈はむちゃくちゃだけど彼女らなりの道理なのでしょうね」

みゆきさんもHカップ巨乳の前でうでをくみ、そう言う。


「それでどうするのダーリン?」

心配そうに麻季絵さんがきく。

彼女としてはこの家で戦闘などしてほしくはないだろう。せっかくここまできれいにしたのに、戦闘により汚されるどころか破壊されるなんてまっぴらごめんだよね。

でも降伏はできないかな。

僕にハーレムファミリーと離れる選択肢はない。僕はここにいる皆が好きで愛しているのだ。別れるなんてできない。それではこの世界にきた意味はない。


「受けてたつしかないかな」

僕は言う。

「私もあなたと別れたくないわ。誰にも渡さないわ♡♡」

と涼子さん。

「仕方ないわね。出歯亀は消えてもらいましょう」

あやの先生はあきれながらも言う。

「マスターは必ずお守りします。何百何千何万という敵が相手でも」

みゆきさんはやる気まんまんだ。さすがは我がファミリーの武闘担当だ。

「そんなに来ないと思うよ。四方堂明日香の兵力は100人が精一杯ってところかね」

白がタブレットを操り、そう分析する。

「ひ、一人で25人も相手にしないといけないのですか」

顔を青くして麻季絵さんがいう。

そうだよね、料理人の麻季絵さんには戦闘なんて不向きだよね。



「おいおい、あんたらおもしろそうな話してるじゃないか」

酒やけした声がする。

そこにはこの屋敷の電気工事を担当してくれた会社の社長である八丈美冬が立っていた。

キララがお客様をつれてきましたと言う。


「四方堂の奴らには今までさんざん妨害されてきたのよね。証拠物件の破壊に現場の汚損。数えたらきりがないわ。それに人形使いの情報を知る種子島さんを五花族の連中にわたせないわ」

その声は地味巨乳こと小笠原夏子警部だ。


なんと彼女らがこの戦いに参戦してくれるという。八丈さんは腕っぷしが強そうだし、小笠原さんは合気道の達人だとみゆきさんが説明してくれた。

戦力が増強されたとはいえ、まだまだ不利なことにかわりない。

「わたくしも及ばずながらご主人様を守りたいですわ。わたくしそれなりに護身術には心得がありましてよ」

どうやらキララもやる気まんまんのようだ。


ここにきて逃げるという選択肢もなさそうだ。僕たちにはこの屋敷以外にいくところもないしね。


「襲撃日時がはっきりしてることが救いね。五花族のプライドかなにか知らないけどこっちも迎えうつ準備をできるわ」

白もはりきっている。

こうなればやるしかない。その四方堂明日香とやらを迎え撃ち、なんならそいつをこの魅了の力で堕としてやろうではないか。

この魅了チャームの能力をうまく使えば有利に戦いを進められるかもしれない。僕にもある程度算段がつきつつある。


この日の夜、ここに集まった僕、白、あやの先生、涼子さん、麻季絵さん、キララ、美冬さん、夏子さんの9人で盛大に焼き肉パーティーをおこなった。

さらに美冬さんが焼きそばをつくり、キララが皆にお酒やジュースをくばる。

あやの先生はドクターペッパーをグビクビのんで酔っぱらったかのように僕に抱きつく。

この人ノンアルコールでよってるよ。

腹はへっては戦はできぬと僕たちは盛大に飲み食いした。

明日には死闘が繰り広げられるかもしれないのにものすごく楽しかった。

ここにいる人たちには悲壮感なんてものはないし、似合わない。


そして翌日の正午ぴったりにやつらはやってきた。黒い戦闘服に身を包んだ集団が僕たちの屋敷を包囲している。

ぴりぴりとした殺気がいやでも伝わってくる。

「ほうほうお目見えだね。こいつは腕がなるよ」

ばかでかいスパナを撫でながら美冬さんは言う。

「うふふっ……このジークフリードの最初の餌食は誰かしら」

銀色の銃身を撫でながら夏子さんがうひひっと笑っている。頼もしいけどなんか怖いな。夏子さんは巨乳の上に防弾チョッキを着て、準備はばっちりだ。


その漆黒の集団の中から一人の少女が姿をあらわす。その人物も黒い戦闘服を着て腕には蘭の紋様をつけた腕章をつけている。

蘭は四方堂家の家紋である。

この家紋をつけられるのら四方堂家につながるものだけだある。

ちなみに三千院家は椿であり、五丈原家は百合である。それぞれの家の家紋は花に由来する。

故に五花族とよばれるのである。


その少女は身長は150センチメートルほどだろう。おもったより小柄だ。前髪は額の上できれいに切りそろえられている。その黒い艶のある髪はどこか日本人形を連想させた。

彼女こそ四方堂明日香その人だ。

四方堂明日香は肩にその身長と同じぐらいの長さの日本刀をかついでいる。

「我が友三千院キララの貞操をうばいし不貞のやからよ、いまここで降伏すればSSR資格者故に命まではうばわないでやろう」

器用に太刀を引き抜き、その切っ先を僕にむける。

この貞操逆転の世界で不貞なんてどこか笑えるな。


「嫌だね、僕はもう誰の指図も受けないんだ。もう社畜はごめんだからね」

それが僕の答えだ。

そして決戦が始まるのであった。

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