第26話キララは堕ちる

やはりそう来たかというのが僕の正直な感想だ。わかりやすい懐柔策である。

僕が三千院家の人間になればこの家のヒエラルキーは一気にかけあがる。

何せ僕はこの国に六人しかいないSSR資格保持者だ。すなわち三千院家に養子のような形でくわわれば、この家は他に並ぶもののない家門となるのは間違いない。

「三千院家当主影虎様は種子島様を迎えるにあたり、いずれは家門を継ぐものとしてお迎えなされるとおっしゃっていました」

と三千院キララはつけくわえる。

「我が家に来てくださればあらゆる美女と美食をもってお迎えいたしますとのことです」

贅沢好き放題していいということだ。

まあ、魅力的な話ではあるな。

「分かりやすい懐柔ですね」

みゆきさんが耳元でささやく。


さてどうするか?

魅力的な話ではあるけど、それは五花族の軍門にくだるということだ。

よらば大樹の影とはいうが、つい昨日まで嫌がらせをしていた相手にしっぽをふるのもな。


「お茶とケーキをお持ちしました」

麻季絵さんが紅茶とシフォンケーキを僕たちの前に置く。麻季絵さんのシフォンケーキは絶品なんだよね。

ケーキはふわふわでさっと口の中でとける。横に盛られた生クリームはくどくなくてさっぱりしていて、でもしっかりと甘い。

紅茶との相性は抜群だ。


三千院キララはその紅茶とケーキをじっとみつめている。物欲しそうな顔だ。

きっと毒でも警戒してるのかな。

殺伐とした世界を生きてきたから仕方ないのかもしれない。

「毒なんかないですよ」

僕は紅茶を一口飲み、ケーキを一口食べる。さっととけていくケーキはさすがの美味しさだ。

「ではわたくしもいただきますわ」

そういうと自分の前に置かれたものではなくなぜか僕のティーカップを手をのばしてとり、口をつける。いやちょっと違う。

僕が口をつけたところを舌をのばして熱心に何度もペロペロとなめている。

「おっお嬢様……」

ばあやがとめようとしたが、その手を振りほどき、三千院キララは一心不乱にティーカップをなめている。

「美味しいお紅茶ですわね」

いやいや、紅茶なんてほとんど飲んでないじゃないか。ただただティーカップのふちをなめているだけじゃないか。

さらに三千院キララは僕が使ったフォークを手をのばしてとり、ねっとりとしゃぶりつくす。


「やばいよ、あの人真性の変態だ」

白がドン引きしている。

「思ってもあそこまではしませんよね」

みゆきさんもドン引きしている。


「はー美味しゅうございました」

僕が口をつけた紅茶とシフォンケーキを三千院キララは完食してしまった。当然彼女の前に置かれたものは手はつけられていない。

三千院キララは名残惜しそうにまだフォークをなめている。

そしてそのフォークをハンカチで包むと巨乳の谷間にいれてしまった。

「変態お嬢様、お兄ちゃんの使ったフォーク持って帰るつもりよ」

白が耳もとでささやく。


もしかして僕はとんでもない人を相手にしているのか。


「この話、受けないほうがよろしくてよ」

三千院キララは言う。

おいおい、自分から提案しといてどういうことだ。

「わが父影虎は種子島様をろう絡し、飼い殺しにするつもりなのですわ。我が家に欲しいのは種子島様個人ではなくSSRの資格者。種子島様の人となりは関係ございません。良くて種馬のような生活がまっているだけです。このような素敵なかたにそのような生活をさせるわけにはまいりません。種子島様は人のしたではなく人の上にたつお方です」

三千院キララは言う。

初対面なのにえらく持ちあげるな。

後ろでばあやがおろおろしている。


つかつかと僕のもとに歩みより、三千院キララは僕の手を握る。

よし、向こうからやってきたのだ。魅了チャームの力をつかって彼女をおとしてしまおう。僕を取り込もうとした相手を逆にこちら側に引き寄せるのだ。

それに彼女の青い瞳は堕ちたがっているように見える。

三千院キララは名前通りキラキラした瞳で僕を見ている。

僕は握られている手を逆に僕からにぎりかえす。何度かその手をなでてあげる。

そうすると三千院キララは耳の先まで真っ赤になる。


「キララさん、ありがとうございます。わざわざご足労していただき、その上三千院家との仲を取り持とうとしてくれたのですから。ですが残念ながら僕はやはり独立しておきたいのです。ここにきて下風にはたてません。牛尾よりも鶏頭を選びたいのです」

僕は言う。

ここはその懐柔策にのらないほうがいいだろう。もう社畜はごめんだからね。


「素晴らしいお考えですわ♡♡」

三千院キララはぐっと顔を近づける。

しかし、ゼロ距離で見るとこの人、掛け値なしの美少女だな。14歳だというけど、かなり完成されている。

こうなれば三千院キララをこちら側に引き込んでやろう。将来のハーレム候補にいれてやれ。

金髪巻き髪お嬢様なんてたまらんぞ。それにあやの先生なみの巨乳だしね。


「もしよかったらキララさんも僕たちを手伝ってくれませんか?」

僕もぐっと顔を近づける。息と息が触れあうほどの距離だ。


「あっこれは堕ちるぞ」

後ろで白がにやにやしている。

みゆきさんも笑いをこらえている。



「はい、喜んで♡♡キララの将来の夢が決まりましたわ。このお方のお子を孕むことですわ♡♡」

三千院キララは虚ろな眼で僕をみつめる。

これで完全に堕ちたぞ。

「そうですね、キララさんとならきっとかわいい子供が生まれるでしょうね」

僕は言う。

「キララはいつでも種子島さんの子種を注いでもらいます♡♡ああっ子宮がうずきますわ♡♡ばあや、わたくしのタブレットを」

おろおろしているばあやから宝石でデコレーションされたタブレットを三千院キララはひったくる。なにやらカチャカチャと操作する。

「これはほんの手付け金ですわ♡♡今のところわたくしの全財産でございます♡♡種子島様のお子を孕む道具のわたくしにはお金など必要ございませんわ♡♡」

おほほっと三千院キララは高笑いする。


「しゅしゅごいよ、お兄ちゃん」

白はそう言い、僕にタブレットを見せる。

そこには僕の預金残高が表示されている。

僕はその画面に写し出されたゼロの数を数えて驚愕した。

なんと1億円が振り込まれていた。


そしてそのすぐあと、三千院キララのばあやは後ろ向きに倒れてしまった。

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