第11話派生スキル獲得

僕たちは二人の警備員の案内でその施設内の廊下を進む。

当たり前だが何の装飾もない殺風景な廊下だ。

前を進む二人はちらちらと僕の顔を見る。

彼女らがこちらを見るたびに僕は視線をあわせ、笑顔で答える。

すると彼女らは頬をあからめて「きゃは♡」とか「うふっ♡」など言いながら実にうれしそうだ。


この施設の名称は人的資源省資所属資源管理保管研究所というこだ。

涼子さんが教えてくれた。

長ったらしい名前だが、要は精子の管理と保存を目的とした施設だということだ。

また効率的な体外受精の研究施設でもあるという。

七日病のパンデミック以来、男性の割合はおよそ1対10000となった。不思議なことにそれ以降に産まれる新生児もほとんどが女性であり、男女比がかわることはないのだという。どうにかして男性の割合を増やすのが人類の急務といえた。

まあ、僕個人としてはこんな女性だらけの世界に望んでやってきたわけだけどね。


僕たちが廊下を歩いていると武装した二人の警備員に遭遇した。

「おまえたち、なぜ部外者をここに入れているのだ?」

そのうちの一人が言う。

この二名の警備員はピストルで武装している。

車内で淡路みゆきに聞いたのだが、人口減による治安の悪化にともない、重要施設の警備員だけでなく申請すれば一般市民でも拳銃の所持を許可されるようになったのだという。

それまで治安を維持していた警察官らが人口減にともないいなくなってしまったからだ。

ほとんどが男性でささえられていた警察や消防などの組織は再編を余儀なくされ、縮小していった。

ほぼ女性だけの街になったら実際は治安が悪化してしまったのだ。

自分たちの身は自分でまもらなければいけない社会になってしまったのだ。


二人の警備員は腰のピストルに手をあて、警戒しながらこちらを見つめている。

それにすぐさま淡路みゆきは反応し、巨乳の横にぶら下がるホルスターのピストルに手をかける。滑らかな動作で一つの無駄もない。

聞くところによると彼女は射撃のメダリストだということだ。


ただこのような場所で銃撃戦などしたくない僕は一歩前に出て、二人の武装警備員の瞳を交互に見つめる。

意思をもってみつめると彼女らはみるみる間に頬を赤らめる。

「あやしい者ではありません。僕は種子島豊久と申します。こちらの施設には精子提供の件で相談したくて伺ったのです。そうしたらお二人の親切な方が案内をかって出てくれたのです」

ペコリとお辞儀し、また交互に二人の眼をみつめる。

もうすでに彼女らの顔はゆでダコのように真っ赤だ。


「お兄ちゃんやるね。スキルをつかいこなしてるじゃない」

白が褒める。

なんとなくこつみないなのもが掴めてきた。

こつはこの人にこうしてほしいと強く心のなかで思うことだ。

思いが強ければ強いほどこの特技スキルは力を発揮するようだ。

「そうだよ、お兄ちゃん。マジックポイントの根源は心のエネルギーなんだ。より強く思うことが、魔術の根幹なんだ」

と白は説明した。


「そ、そうなんですね。それでは私たちも所長のところまでご案内させていただきます♡♡」

二人の警備員はピストルから手を離す。

甘ったるい声でそう言う。

彼女らは嬉々として僕を案内してくれた。

合計四名の警備員が案内してくれる。


ピロロッン!!

脳内で甲高い音がする。

なんだ、この音は。

僕は思わずキョロキョロしてしまう。

ぐっと白が僕の手を握る。

「あはっお兄ちゃん。さっそく派生スキルを獲得したよ。はじめの魅了チャームから枝分かれして催眠の特技スキルを獲得したね。これは一定期間任意の相手に命令し従わせることが出きるようね。ちょうどこの四人がその状態だね。自殺自傷なんかはできないから気をつけてね」

白は説明する。

魅了チャーム特技スキルを持つ僕はそれを一定期間使用するといろいろな特技に発展していくのだという。



また漸く歩き、階段を登りきるとスーツを着た細身の人物と遭遇する。

「あっ副所長」

警備員の一人が言う。

眼鏡をかけたいかにも官僚的な雰囲気の女性だ。

「おっ、おまえたち何をしているのだ」

驚愕し、彼女は言う。

それもそうだろう。

本来ならこの施設を守るべき警備員たちが率先して不審者である僕たちを案内しているのだ。

「この方たちは所長にご用件があるようなのです。けっしてあやしい方々ではありません」

警備員の一人が言う。

これも特技スキル催眠の効果だろう。

彼女は自分の中で整合性がとれていると思う答えを言っている。

端からみたら整合性なんてとれていないが。

「そうなんです。こちらの方々は所長にお会いしたいそうなんです。けっしてあやしい方々ではありません。特にこちらの男性の方はとても素敵なのです♡♡」

さらに警備員の一人が言う。

「本当に素敵♡♡」

「こんなにきれいな男性がこの世にいるなんて♡♡」

「この方のお役にたてるならなんだってしちゃう♡♡」

警備員の四人は口々に言う。

凄まじいなこれが魅了から派生した催眠の効果なのか。


僕は顔を真っ赤にしている四人をかき分け、副所長の前に立つ。

意識を集中し、彼女の瞳を見る。

不審に顔を濁らせていた副所長はだんだんと笑顔に変化する。

「笑顔の方が素敵ですよ」

僕は歯の浮くセリフを言う。

前の世界なら気持ち悪いと言われていただろう。でも魅了チャームのスキルを持つ僕は一味違う。

副所長は耳の先まで赤くする。

熱っぽい瞳で僕を見ている。

僕は正面からその視線を受け止める。

「副所長さん、お願いがあります。きいてくれますか?」

僕は言う。

「な、なにかしら♡♡」

よし、あの甘ったるい声になったぞ。

そう言えばあやの先生もよくこうなるな。

「その所長さんの所に案内してくれませんか?」

僕は言う。


少し考えてから彼女は答える。

「いいわよ♡所長の部屋に入るには副所長である私のIDが必要だからね。そこまで案内させてもらうわ。あなたの役にたてて幸せだわ♡♡」

よし、この人も墜ちたぞ。

風邪で熱でもあるかのような赤い顔で僕のことをじっと見ている。


副所長を含めた五人の案内により、僕たちはスムーズにこの施設の責任者である所長がいる部屋に到着することができた。

壁にある解除システムに副所長はIDを当てる。

自動ドアは静かに開く。

「所長お客様をお連れしました」

副所長は言う。


室内はプラモデルやモデルガンなどが散乱していた。

事務机の上にはポテトチップスやチョコレートなどのお菓子が散乱している。

椅子に座り、コントローラーを握りゲームに熱中している小太りの少年がいる。

副所長が言うにはこの小太りの少年がこの施設の所長だということだ。

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