シェアハウス・イチゴ館の生活は、甘くない!
一ノ宮なずなが、やってきた
俺は、自称・隠れボッチ
俺、
シックスパックに割れていた中学校の水泳部時代と異なり、体重は激増中。
体の重さが武器であるオフェンスラインというポジションにおいて、食べることも仕事の一つ。
花形ではない、縁の下の力持ち的なこのポジションにおいて、俺はあと一歩でレギュラーが取れる位置につけている。
部活の仲間はいい奴らだし、クラスにも友達は多い。女子の友人だっている。
そんな俺だが、自称『隠れボッチ』だ。
アニメや小説では『完全ボッチ』な主人公がラブコメ展開していくことが多いが、俺に言わせると現実離れしている。
確かに、クラスには完全ボッチがいる。そういう奴らの多くは、それでいいと思っているか、抜け出す努力をしていないのだ。
でも俺は違う。ボッチにならないために、戦略を持って行動をしている。
大きな成果は出ていないが……。
現状、彼女なし、交際経験なし、勉強は中の下、スポーツはレギュラーまでに至らず、だ。
彼女がいる連中がつるんで話をしていると、やはりボッチを感じる。成績発表の時期になると「勉強できるやつはいいよな」とボッチを感じる。
試合前のスタメン発表では、同じ一年生がレギュラーに入り、自分が入れないとボッチを感じる。
嫉妬深いのか、他人を
小学生の頃からこの思いは変わっていない。『〇んち事件』などの黒歴史を通して、俺はボッチ回避手段の必要性を感じた。
そこで立てた作戦が『THE・いい人』だ。これは戦略的に『いい人』を振舞うという作戦。
カップルが別れる原因は「性格の不一致が多数」が多いと、ネット記事で読んだ。いい人だったら、そうはならないはず。
急にイケメンになることはできないが、いい人になることはできる。
「
『いい人』になることを戦略とおき、次にそれを実現する『戦術』を考える必要がある。
「戦略と戦術は違う」
これは、父さんが酒を飲んでいるときに語ってくれたこと。『企業戦士』という、何だか昔のマンガに出てきた夢戦士のような、かっこいいのかどうだか分からない戦士の一人である父さんの言葉はとても印象深かった。
大きな戦略を立て、達成のための戦術を練る。これが、企業活動の根幹にあるらしいのだ。俺はこれをパクることにした。
『いい人』になるための戦術は次の三カ条
第一条 人を怒らない
第二条 人を助ける
第三条 人に合わせる
一つ目、怒らない。誰でも大声で怒鳴られるのを嫌う。特に女子は顕著だ。
俺だってムカッとすることはある。そんなときは、目を閉じ「怒りは収まる」と十回唱えるのだ。意外とこれでやり過ごせる。
しかし、これには例外規定がある。
『例外:人の尊厳を
『例外:人の安全が脅かされたとき』
だ。これらの場合は容赦なく怒ろうと思っている。滅多にないが。
二つ目、人助け。これも重要。元々、誰かが落とし物をすると「落ちましたよ」と無意識に言ってしまうタイプ。
なので、少し心がけると拡張は可能だ。エレベータで先に人をおろすだとか、老人に席を譲るとか、そんなの朝飯前。
三つ目、人に合わせる。これは、他人になびくという意味ではない。誰とでも話題を合わせられるように準備をしておくという意味だ。
俺は記憶力がいい。英単語は覚えられないのに、雑学、アニメ、楽曲、流行りの動画など、サブカルチャーについてはあっという間に覚えられる。
その特殊技能をフルに活用した戦術だ。俺はスマホで広範囲にマンガを読み、最新の歌謡曲、最新動画をチェックする。
アニメはあまり見ない。時間コスパが悪いから。マンガの方が短時間で確認できる。だが、アニメについても概要や評判はちゃんとチェックする。
苦手分野はファッション。だが、サブカルチャーをしっかり押さえておくことで、大体の男子や女子と話題を繋ぐことができる。
会話の最初にいくつか話題を振ってみると、その回答で何を話せば気が引けるかすぐに分かるようになった。
この作戦は、ほぼ成功しており。結果、友達は多い。運動部だけでなく、文化部の連中にも輪が広がっている。自称・隠れボッチだが、表立って俺をボッチだと思う奴はいないだろう。
『怒らない』を戦術の一つとしているが、最後に怒ったのが、二年前、なずなに対して。これは禁に反したからではない。
あいつが、例外規定『人の尊厳を
なずなの顔を見た瞬間に、一瞬でこのような思考が走馬灯のように駆け巡った。
このアマが、うちが運営するシェアハウスに入るだと!?
冗談じゃない。
俺は、新築への引っ越しに心躍らせていた、本日午前中からの出来事を回想した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます