第12話

 この子は帰るべきだ。忌み嫌われるこの世で生き続けず、本来の居場所であるあの青い空へ帰るべきなのだ。


 随分と前からそう考えていた。ただ返し方がわからなかった。でも今朝、マンションから転落して空亜と歳の変わらない子が死亡したというニュースを見た。恐らく事故なのだろう。恐らく・・・。事が起きてしまった今、事件でも事故であっても、その子が空に帰っていったという事実は同じだ。うちの空亜も帰ってほしい。そして二度と帰ってこないでほしい。


 ニュースの詳細では、幼児が無施錠だったベランダに自力で出て、ベランダに置いてあった物によじ登って手摺にまでたどり着き、そこから転落したのだと説明していた。それで私は閃いた。


 ベランダのゴミやガラクタは天国への階段になるらしい。


 あの子のために私がそうしてあげよう。ここから天国へ送り出してあげよう。その方が空亜のためになる。そして私も救われる。


 自分の中にこんなに優しい感情があったことに気付いて感動した。最期の最期に普通というものに少し触れられた気がした。もしやこれが愛であり、母性というものなのか・・・!!


 弾んだ心でベランダに出て、目いっぱい外の空気を吸った。


 幼児用のパンを食べずに握りしめてテレビを夢中で見ている小さな背中に向かってベランダから声をかけた。


 

 「空亜、ベランダで遊ぼう!」

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