第11話

 青い空と白いカーテン。その間に見えるゴミとガラクタの森。


 マンションのベランダは我が家の物置と化している。


 青い空を見ていると、母と母の彼氏と一緒に食べたかき氷を思い出す。母と彼氏はいちご。私はよくブルーハワイを選んだ。


 ハワイになんて行ったこともないし、ハワイの海がこんなに鮮やかなブルーであるかどうかもわからなかったが、ごみごみした暗い世界しか知らない私の目には憧れの色に映り、一瞬だけその青さが私を黒い現実から解放させてくれた。


 蛇のような眼をした母の彼氏に下卑た視線を向けられながら食べたあの味。夏の空と未知のハワイの海と冷たい甘さの記憶が相まって涙が滲んでくる。


 きれいな思い出には黒いシミのようなものが点々と付いていて、縋りたい宝物は誰かにいつも少し穢されている。いっそ真っ黒に染め上げてくれれば諦めもつくのに、半端にきれいだから余計に悔しいし、忘れられない。


 空亜がまた笑っている。笑っているのは本当に空亜なのだろうか。こちらに向けているあの目は本当に空亜の目なのだろうか。誰が私を笑っているのだろう?


 もう笑わないでほしい。


 私を見ないでほしい。


 私をこれ以上穢さないでほしい。


 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る