第2話
子の父親が誰かはわからない。
若いあの男だったのかもしれないし、前歯の無いやたらがめついジジイだったかもしれない。
他にも子の父親である可能性を持つ男たちはたくさんいた。
だが顔は誰一人はっきりと思い出すことができなかった。客であった男たちの顔は皆全員黒く塗りつぶされているような靄がかかったような風で、思い出そうとしてみてもいつもぼやけたのっぺらぼうが頭の中に現れるばかりであった。
顔を思い出せないのは客を人だと思っていなかったせいだろうか。でも相手を人だと思っていたらこの仕事は続けていけない。
情も手間もかけず、女の体を使った最低限のやり取りのみで報酬を受け取る仕事。
人でもなんでもない熱い吐息を吹きかけてくるナニモノかに身を委ねて毎日を生きることしか考えていなかった。仕事をするだけなら客とはその程度の関わりだけでいいと思っていたし、それ以上のことをしてあげようと思えるような連中でもなかった。
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