二度と逢わない

千秋静

第1話

 身籠った時のことを思い出そうとしても思い出せない。


 強いて言えば、自宅のトイレの便座に座ったまま妊娠検査薬を見たときの、あの驚愕した瞬間がソレにあたるのかもしれない。その瞬間は感動的であったわけでも待ちに待っていたわけでもない。ただただ『失敗した』という悔しさだけが沸き上がってきただけだった。


 思い出せないのではなく思い出すことを脳が拒否していると言ったほうがいいのかもしれない。


 業の塊を宿してしまった忌まわしい記憶。


 母体からもこの世からも拒まれた記憶はどこにも残す必要などない。

 

 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る