第16話 歓迎はされたようです


「新入生歓迎会とかダルすぎる」


 まだ四月の上旬とあっては肌寒い日も多いというのに、体育館に集まって一年生を歓迎してくれる催しをする。と言うのだから何とも面倒だ。生徒会主催であるから椅子など並べられてはおらず、変な緑色のシートが敷かれているだけだった。そこにクラスごとに座らされて、オメガクラスはやっぱり最後に入場させられて、準備がいいのか何故か座布団持参だった。

 と、言うのもオメガクラスには座布団とクッションがあるのだ。普段は休み時間に使用しているのだが、こう言った催しの時には持参して椅子がわりにするのだ。ベータの女子生徒からすれば狡いと思われがちだが、これらは同学年のアルファの生徒からの差し入れなのだ。この時点で既にアルファがオメガにしか興味がないことを、ベータの生徒は悟るべきなのである。


「なんか俺、すっごい見られてる気がする」


 あくびをしながらクッションを抱きかかえる光汰の横で、蒼也はそわそわと落ち着かなかった。強いオメガになると宣言してはみたものの、実際はオメガとして過ごすなんて未だ未経験で、こうやってオメガだけが特別扱いされるのを平然とやり過ごせないでいるのだ。


「石川くんそんな頭にしておいてよく言うわぁ」


 クラスの女子が呆れたような言い方をするけれど、顔を見れば笑っているのだ。


「石川くんのお陰で私たちに注目してこないから助かってるけどね」


 そう言ってきたのは同じシェルターの女子たちで、中学までは光汰の後ろに隠れていたらしい。男オメガが珍しいからか、上級生のオメガクラスから蒼也に視線が集中していた。クッションを抱えて座る光汰は、ぱっと見女子の集団に紛れ込んでいるようだ。


「もぉ、ズボンなのマジで俺だけじゃん」


 確か三年生に一人オメガ男子がいたと聞いていたのに、蒼也のようにズボンを履いている生徒の姿は見当たらない。あるいは発情期で休んでいる可能性もあるけれど。

 生徒同士の催しなので、舞台は使わず上級生と一年生が向かい合う形で体育館の床に座っている。それぞれのクラスの前に、看板が立っているからどこが何組かわかるのだが、困ったことに蒼也は姉のクラスを知らなかった。留年はしていないようだから、二年生のどこかのクラスにはいるのだろう。

 けれど、ぶっちゃけた話、ベータ女子なんて似たり寄ったりでまるで区別なんてつかなかった。これじゃあ母と姉に文句は言えないな。なんて思ったけれど、光汰に言わせればそれが普通らしい。アルファとオメガはお互いのフェロモンを無意識に感じ取っているから、姿形よりも無意識下で匂いで判別しているそうだ。

 そんなわけで蒼也は生徒会役員の自己紹介から始まり(四ノ宮優斗が生徒会長だった)部活動紹介に至るまで、ひたすら光汰と解説しあいながら見たのであった。それでも、委員会紹介の時、姉の姿を見つけてしまった。やはり生まれた時から共に過ごしてきたわけだから、視界に入れば嫌でも認識できてしまった。そしてそれは姉も同じだったようで、蒼也の姿を認識した途端、大きく目を見開いて口に手を当てていた。

 姉が所属していたのは緑化委員会とやらで、花壇の整備なんかをしているらしい。女子に人気なのは花が好きな人アピールのためなんだとかで、姉の思惑が透けて見えただけだった。


 結局、部活動は任意だから入らなくてもいいそうで、委員会だけは強制らしい。ただ、オメガクラスは人数が少ないため、好きな委員会を選んでいい。と聞かされて光汰と蒼也は喜んだ。環境美化委員会は人気があったが、緑化委員会に人気がなかったのが笑えるところだった。

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