第56話 夢と希望を諦めない! チームピクシー全員変身! 想いが重なり目覚めた奇跡!! その1


「「「「「「リリエルジュ! エマージェンス!!」」」」」」


 6人の魔法少女リリエルジュのコールが響き、同時に流れ始めるBGM。

 縦2列横3列に分割された6つの小画面にそれぞれが変身する最初のプロセスが映し出され、少女たちのまとう衣服が、光に染まってはじけ飛ぶ。

 眠る胎児のようにうずくまる少女たちを、流水が、稲光が、炎帯が、土砂が、鉄爪が、蔓草が、それぞれに包み込み球体を形作り、爆ぜ。


「……っ!」


 中からインナー姿の魔法少女たちが飛び出した。


 流れる清水が、青髪の魔法使いを撫でてミニスカートに変わる。

 轟く雷鳴が、金髪の剣士の交差する腕に純白の手袋をまとわせる。

 燃え点る火が、灰髪の小悪魔の耳にイヤリングを取りつける。

 崩れ落ちる砂が、赤髪の騎士の足にニーソックスを張りつけさせる。

 百獣の演武が、緑髪の拳士に武闘着を羽織らせる。

 若草の舞踏が、緑髪の術師に靴を履かせる。


「えへへっ」


 魔法使いが大きな帽子を被り。


「ふんっ!」


 剣士がはためくマントを羽織り。


「……んぅ」


 小悪魔がヴェールを衣装へと変え。


「んっ」


 騎士が腰鎧から飾り布を伸ばし。


「ふぅー……」


 拳士の髪がお団子サイドテールに編み上げられて。


「ふぅー……」


 術師の髪がより明るい色へと染まっていく。


 そして。



「「「「「「んっ」」」」」」


 少女たちそれぞれの胸に触れる印章クリサリストーンが輝きを放てば、いよいよもって変身は大詰め。


 やや機械的なガジェットを見せつけながら、愛杖“ディープアクアロッド”が完成すれば、うつむいたままでそれを掴み、真剣なまなざしが前を向く。


 目の前でクルクルと回って出現した、相棒の双剣“ツインキララブレード”をそれぞれの手に掴み、鋭いまなざしが前を向く。


 異空間へと手を突っ込んで、中からずるりと大鎌“クゥサイズ”を取り出せば、それをポールのように立て、底知れぬ瞳が前を向く。


 三つの部位で構成される組み立て式の長槍“デクスタルネムスピア”を手に、ガチャリガチャリと金音かなおと鳴らし組み上げて、挑発的なまなざしが前を向く。


 手袋の代わりに装着される指貫グローブに、シャープなデザインの篭手“コクリテッコウ”が重なって、元気なまなざしが前を向く。


 どこからともなく伸びてきた、木の枝の先に掛けられている円月輪“サークルオブミドリ”を受け取って、不敵なまなざしが前を向く。



 くるり、くるり、リリエルジュが舞い踊る。


 6人の魔法少女キラキラが、ここに集う!



「夢と希望が大海を埋め尽くす! ピクシーアクア、ガンバりますっ!」


「夢と希望が天地を駆ける! ピクシーキララ、トバすわよ!」


「ユメとキボーがぐれんにそめあげる……ピクシークゥ、おきたよ」


「夢と希望が砂粒だって宝石に変える。ピクシーネム、きらめくよ! ……なんてね?」


「夢と希望が咆哮を呼ぶ! ピクシーコクリ、あーばーれーるーぞー!」


「夢と希望が繁栄を呼ぶ。ピクシーミドリ、せーちょうちゅうー」


「……私たちが!」


 ピクシーキララの呼び声に、6つの声が重なった。



「「「「「「リリエルジュ!!!」」」」」」



      ※      ※      ※



「な、な、な……なんだとぉぉーーーーー!?!?」


 ベビフェスが動揺している。


「バカな、バカなバカなバカな!! お前たちはみんな瀕死だったはず! そこの出涸らしだけが変身するならともかく、全員が変身する余力など!!」


「それについてはぁ、アクアちゃんの魔力がとんでもなく成長してたって話だねぇ」


「ホントすごいよねー! ワタシたちみんなが変身してもまだまだ余ってるんだもん!」


「同意。しかも分配できるとかそれだけで役割持てる」


「えへへ」


 仲間たちからの惜しみない賛辞にアクアちゃんは照れくさそうで、それでもしっかりと胸を張っていた。


「おかしい! そこの青いのは落ちこぼれで、役立たずだという話ではなかったのか!?」


「あー、それなんだけど。あんた、情報遅くない?」


「!?」


「うちのアクアはねぇ……チームピクシーでもトップクラスに、強いんだから!!」


 キララちゃんがぶ。 

 二つの白く輝く刃が、変質したベビフェスの白い肩パットを切り裂いた。


「ぬぉぉ!!」


「おっと、さっきみたいなジャンプはもうさせないよぉ?」


「ぬぅ!? 足が沈んで……!」


 気がつけば、ベビフェスの両足をネムちゃんの『流砂』が捕らえ、膝下まで田んぼの中へと引きずりこんでいた。



「フゥンッ! 足を取られようと、オレは攻撃できる!!」


 ベビフェスが八つの目を見開き、強烈な熱線を放射する。 

 その攻撃はすでに見て対応できる、と思う魔法少女たちに向かってヤツは嗤う。


「カァァァーーーー!!」


 カッ!


 ベビフェスの肉体が赤く燃え上がり、膨張し、収縮する。

 その際に発生したエネルギーがすべて、ベビフェスの熱線へと加えられた。


「焼け消えろ! 羽虫どもぉぉ!!」


 辺りを焼け野原にするだけでは足りない、大火力の一撃!


「させませんっ!」


「アクアちゃん、助力する!」


 そこに対応するのはアクアちゃんとミドリちゃんのペア。


「みんな、わたしの呼び声に応えて!」


「植物さんたちが壁に……! ならそこに……『バリア』!!」


 ミドリちゃんが召喚した巨大な魔法植物の壁を、アクアちゃんの大魔力で展開される『バリア』が補強し、鉄壁となって熱線のことごとくを受け止める!


「なぁっ!?」


「よそ見してて……」


「……いいのかしらね!」


 最大級の一撃を受け止められたベビフェスに、驚く暇は与えられない。


「『獣装』猫の爪! 全力っ! ぜんかーーーーい!!」


「キララ・リリィ・ボルテイン!!」


「ぐぎゃおおおおーーーーー!! オレの腕がーーーーーーーー!!」


 左右からの同時攻撃。

 鋭い斬撃がベビフェスの強靭な肉体の筋を断ち、あるいは切り裂いた。



「ぐおおおお!!!」


 たまらず上半身を暴れさせ、魔法少女たちを追い払う。

 だが、そのすべてが予定調和だったということを、ヤツは知らない。


「クゥちゃん! お願いしますっ!」


「おーけぃ」


 アクアちゃんの号令に応える、クゥちゃんが空に掲げた掌の上には。


「なっ、なぁぁっ!?」


「やっぱり花道ふろーらんうぇーでない。でも、じゅーぶん」


 クゥちゃんの魔法少女技リリックアーツで生成された、巨大な太陽の如き火球が燃え盛る!


「その技は、オレの部下たちを燃やし尽くした……!」


「さっきのおかえし。クゥリムゾン……フレアー……!!」


「う、うおおおおお!!!」


 放たれた火球に向かって、ベビフェスが再び熱線を放つ。

 強大な熱と熱のぶつかり合いが、辺りの空気すら燃やして強烈な風を巻き起こす。


「ふ、ふ、フゥンッ! オレの力はやはり強」


「あ。『魔力解放』ー」


「はぁっ!?」


 拮抗していたかに見えたそれは、思い出したように発動したクゥちゃんのスキルで崩れ。


「ぼぎゃああああーーーーーーーーーーー!!」


 火球がベビフェスを呑み込み、大炎上した。

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