第52話 今、想いを伝えて。 魔法少女とお師匠様 その2
大きな私の鼻先まで辿り着いた雄星さんは、私に寄りかかりながらどこまでも優しい手つきで私を撫でて、そして優しい声音で声をかけてきた。
「これだけ派手に暴れまわれるってことは、アクアちゃんにはまだまだ全然強くなれる余地があるってわけだ」
今この瞬間も傷つき続けている雄星さんは、それでも楽しそうで。
「いや、こりゃ本当に、あのときお師匠様辞めますって言わなくてよかった。こんなにも育て甲斐のある子を手放すとか、もう考えられないよな」
ゆっくりと、雄星さんが私の体を撫でながら、私の胸元……“私”が囚われている場所の前まで降りてきた。
「アクアちゃん」
傷つきながら、雄星さんが告げる。
「俺は、多分だが、キミの使い魔じゃあない」
!?
「でも、俺はキミの、お師匠様だからさ」
瞬間。
大きな私の胸元が、雄星さんの『魔砕の手』で切り開かれて、囚われている私が姿を現す。
目を開けたら、雄星さんが“私”に向かって笑いかけていた。
「話をしよう、アクアちゃん。良いも悪いも正しいも間違ってるも関係なく、まずは、アクアちゃんの思ってること、ぜーんぶ俺に、しっかりと聞かせて欲しい」
「……ぁ」
「じゃないと、アドバイスすることも、一緒に悩むことだって、できないだろ?」
「でも、それは……」
「キミをここまで育てた……変えたのは、俺の責任だ。俺はそれを後悔していない。それはこれからも変わらない。変えたくない。だから――」
優しい笑みが、ちょっとだけ照れくさそうな、悪戯っぽい笑顔に変わった。
「――アクアちゃんが嫌じゃなかったら、これからも、キミの師匠をやらせてくれないか?」
「……っっ!」
その言葉は、とっても嬉しくて。
でも、私には……眩しすぎて。
「ダメ、です」
「え゛っ!?」
「だって、私は……弟子失格で、魔法少女失格の、出来損ないの、落ちこぼれで……」
「は、いやいやいや。待った待った。どこが? どの辺が!?」
「だって、私ばっかり雄星さんと一緒にいたいとか自分勝手なことばかりして……」
「クゥちゃんとコクリちゃんは言わずもがな、ネムちゃん隙あれば俺に甘えてくるし、ミドリちゃんに至っては俺でいろいろ実験しようとしてるぞ?」
「みんな強くて、私が覚えたこともすぐに覚えて、追い越してって……」
「得意不得意! 戦術眼と『魔力操作』関係でアクアちゃんの右に出る子いないぞ!?」
「すぐに、その、雄星さんと仲良くなって……」
「そりゃブライト様によしなにって言われてるし。みんなアクアちゃんみたいにいい子だから」
「違うんですっ! 私は、みんなと違って、ぜんぜん……キラキラじゃな」
「誰がそんなこと言った!?」
「くて……えっ!?」
雄星さんが怒っていた。
本気で怒ってる顔を、そのとき初めて私は見た。
「そんなこと言ったやつがいるのか。そいつにはちょっと、“おはなし”が必要だなぁ?」
「えっ、えっ?」
考えが追いつかない私の肩を掴んで、雄星さんが言う。
「……いいかい、アクアちゃん? これはとても大事なことだから、心して聞いて欲しい」
「は、はいっ」
「俺が言うキラキラしてるって存在は、なにも派手で煌びやかで、明るくて……って、そんなポジティブな人のことだけを言ってるわけじゃないんだ」
「は、はい……」
「中には内気で自分の気持ちを口に出すのが苦手な子だっている。でも、そんな子が悩みながらも、迷いながらも、諦めないでひたむきに頑張って、一生懸命に前に進もうとする姿だって、俺はとっても輝いてるって思うんだ。いつも“ガンバる”、アクアちゃんみたいに」
「私、が……?」
「そう。俺からしてみたら、アクアちゃんなんてもうキッラキラに輝いてる、最高に素敵な女の子なんだよ」
「!?」
心臓が、飛び跳ねた。
「みんな、アクアちゃんが一生懸命な子だって知ってる。そんなアクアちゃんの実力も、魅力も、もうとっくにみんなわかってるんだ。だから……」
「……だから?」
「俺も、キララちゃんたちも、ブライト様も、みんな――」
雄星さんが、本気の目で私を貫きながら、告げる。
「――みんな、今ここにいるキミが、アクアちゃんのことが、大好きなんだよ。おーけい?」
「………」
へ?
だい、す、き?
みんなが、私を?
雄星さんが……私、を?
「す、きぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!?!?!?」
「あっ、
あまりにも衝撃的な一言に、私の頭はスポーンっと真っ白になった。
※ ※ ※
「すすすすす、すき、すき、すき!? すきってなんですか!? ススキですか?!?」
「そういうところも含めて、アクアちゃんのことがみんな好きって言ったんだよ」
「~~~~っっ!!」
「そんな、みんな、ゆうせいさ、す、すき……!」
絶賛混乱中のアクアちゃんの頭をポンポンと撫でてやりつつ、様子を確かめる。
頭から湯気が出る勢いでポッポポッポとなっているのを見る限り、気鬱さはなくなったと見ていいだろう。
(とりあえずこれで、一段落ってところか)
核を失ってもうピクリとも動かない巨大アクアちゃん、もとい
「なら、この辺で力尽きてもいい、な……」
「え?」
キョトンとこっちを見るアクアちゃんには、申し訳ないことをするが。
「いやぁ、も、限界で……」
「雄星さんっ!?」
もう世界から“ここに居座るんじゃねぇ!”とは言われてないから、楽なんだが。
魔力もすっからかんなら、下手すると俺の存在自体が薄れてる気すらしてる。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ、休ませ……」
そう、意識を手放そうと、したときだった。
「…………アクアちゃん!!」
「!?」
とっさに、体が動いた。
「ヘハッ!!」
アクアちゃんの背後に、俺以上にズタボロで、絶賛肉体崩壊中のベビフェスがいた。
その手に、グリードシードを握って。
「雄星さんっ!?」
アクアちゃんを突き飛ばし。
「『浮遊』!」
落ちてく彼女に、落下の衝撃をなくすスキルを使ったところで。
「どけぇ!
「がっっっ!!」
俺自身もベビフェスにみぞおちを蹴られ、崩れてもげたあいつの脚と一緒に、寄りかかっていた従魔の体からはじき出され墜落する。
(自動発動のスキル……は、期待できない、か?)
さんざっぱら世界からの干渉に抗い続けた代償が、ここに来て響いてる。
力の流れをどうにかできるほどの意思力は、俺にはもう残っていない。
(これはちょっと……後悔が、ある、な)
グヂャリッ!!
俺の意識はそこで、唐突に断ち切られた。
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