第51話 今、想いを伝えて。 魔法少女とお師匠様 その1
信じられないことが起こった。
「え、お師匠様?」
「ゆーせーだ」
「ゆう兄!」
「お兄さん!」
アクアもどきの前に、雄星が現れた。
「雄星!」
彼をここまで運んだ『転移門』が閉じる。
改めて見た雄星の体は、どこもかしこもボロボロに傷ついていて。
「っ!」
今この瞬間にも、肩に切り傷が生まれ、そこから血の雫が跳ねた。
(あいつ、無理矢理ここに来たんだ! 今もここは、アクアは、あいつを拒絶してるのに!)
でもあいつはそうじゃない。
そうじゃないあいつが、今この場所に立っている意味を理解して。
「ばっっっか!! あんた何やって……!」
思わず声を出そうとした私を、あいつは後ろ手を突き出して制した。
「アクアちゃん」
雄星が、アクアもどきに声をかける。
いや、それも含めたアクアの全部に向かって、声をかけている。
「俺が
「!?!?」
巨大アクアがビクッと身じろぎした。
ぬいぐるみみたいな表情は何一つ変わっちゃいないけど、間違いなく今、あの子はバツが悪そうな顔をしている。
「確かアニマールって、キララちゃんやネムちゃんたちの傍にいつもいる、あの可愛いマスコットみたいなヤツのことだよな? アクアちゃんにとってそれが、俺なのか?」
「~~~っっ!!」
巨大アクアが手に、ディープアクアロッドの紛い物を掴んで振り回す。
「うん、答えてくれるか?」
雄星がそれを受け止めた。
彼の左肩から先にゴリラの腕のオーラが重なって見えて、ダメージはないように見えた。
それでも、受け止めた瞬間に雄星から血が飛んだ。
「知りたいんだ。アクアちゃんのこと」
変わらない声音で、雄星がまた巨大アクアに声をかける。
あいつが問いかける度に巨大アクアが暴れて攻撃を仕掛けるけれど――。
「うん、うん。答えにくい問いをしてるってのはわかってる。でも、教えて欲しい」
そのすべてが、雄星のいろいろなスキルで止められて、封じこめられて、意味をなさない。
「ゆう兄すご……」
「圧倒的、だねぇ……」
この場で動いているのは、雄星と巨大アクアだけになった。
とっくに戦う力を失ってる私たちだったけど、それでもこの場から逃げる必要はないって、そう思えていた。
それくらい、あいつの強さは常軌を逸していた。
「アクアちゃん。俺と話をしよう」
巨大アクアを完封する雄星は、まるで駄々をこねる赤子をあやすみたいに、どこまでも優しくアクアに声をかけ続ける。
「……きっとキミの口にした言葉は、とても大事な言葉だったろうから」
「あ゛あ゛……っ!」
あいつの言葉に巨大アクアがかんしゃくを起こす。
そして。
「……これは驚嘆」
「おー、きれー」
再び展開されるアクアの
水面から次々と鎌首を持ち上げる9匹の龍と、のっぺりとした体の巨人。
今回はそれに加えて、星空を覆い尽くすほどの魔法陣。
そこに描かれているのは全部――。
「――ウォーターバスター。なるほど、飽和攻撃だな」
「ゆ゛ーーーーぜーーーーー……ざあ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーん゛っ!!!!」
叫びとともに、巨大アクアがすべての攻撃を放つ。
さっきまでの私だったら、さすがにこりゃダメか、なんて思ってたかもしれない。
けど。
「スキル『異次元収納』……魔砲杖スターセブン」
今は不思議と、恐怖も、諦めも、何一つとして胸に湧いてこなかった。
「俺を相手にするならまだまだ火力不足。つまりはもっと修行を積みましょう、だ!」
そんなことを、飄々と笑いながら私たちごと全部覆う『バリア』と、そして、綺麗な模様を描く“見たことのない新しい障壁”を張るあいつを見ながら、感じていた。
(ほんと、そっちだってよっぽど規格外よ。あんたたち……)
私じゃ作れない関係性に、ちょっとだけ嫉妬した。
※ ※ ※
それを見て、まぁ、そうだよねって、何より納得が最初に来た。
「飽和攻撃は相手の防御能力を越える火力を叩きこみ、ダメージを与えることでその後の戦局を有利にする戦術なわけだが……うん。さぁ、どう見る?」
でもまさか、田んぼにすらダメージの痕跡一つ残らないのは、予想外です。
「ちなみに同じ攻撃をもう一度……ってのは、残念ながら許されない。拘束済みだ」
雄星さんの言う通り、大きい私の全身は光のリングで拘束されていた。
「『白魔法』セイクリッドバインド。闇に属する
手足に首と胴回り、ついでに口をガッチリ固定されてしまって、本当に身動きが取れない。
「“視た”感じ、胸についてるそれが悪さしてる感じだな? だったら先にそいつを取っちゃおうか」
あぁ、また助けてもらうんだ。
そしてまた、優しいあの人に甘えて、あの人から私は……奪い続ける。
「っ! ぐっ!!」
雄星さんが後ろに飛び退る。
私が拒絶しても、もうそのくらいしか雄星さんを押し返すことができない。
でも、そうする私の心は、ちゃんと雄星さんに届いていた。
「これは、あれだな。俺に近づかないで、触れないでって言ってるってことだよな?」
確認するように私に問いかけながら、雄星さんが空を蹴り、また近づいてくる。
「つまり今のアクアちゃんは、俺の顔なんて見たくないわけだ」
「………」
違うけど、その通り。
だから、それがわかっているなら、どうか……。
「やなこった」
え?
「俺は、今のアクアちゃんを放っておくなんてできない。それで嫌われても知るもんか」
雄星さんが、大きな私の鼻先に辿り着いた。
そっと撫でてくれたそれは、安心する、優しい手つきだった。
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