第50話 ベビフェス絶叫!? ホントのアクアの胸の内



 私じゃない私の声が聞こえてくる。 


(さぁ、みんなに負けないようにガンバろう!)


 ……そう、そうだ。勝たなきゃ。

 私、私が、キララちゃんたちに勝たないとダメなんだ。



(キララちゃんとコクリちゃんが前衛。いつでも交代できる位置にネムさんとクゥちゃん。ミドリちゃんは大技の準備……あれは魔法少女技リリック・アーツかな?)


 だったら。


(まずは『バリア』で時間稼ぎ。キララちゃんがその対処してるあいだに、中衛の二人に『黒魔法』ウォーターバレット。『魔力操作』で平行して『黒魔法』ウォータートーレントを準備。ミドリちゃんのリリックアーツが発動する前にもう一度『バリア』。キララちゃんの足元から無宣言で『黒魔法』ウォータースプラッシュ。ここでトーレントを起動。コクリちゃんを巻きこみながらミドリちゃんのリリックアーツに対する防御を固める。足元崩ししようとしてるネムさんにもスプラッシュ……)


 思った通りに戦闘が進む。

 みんなを相手に、私が上手に戦えている。


 みんなが私を倒そうとしてくるのを、私が悠々と対応して、勝っていく。


(自由に動けて対応力が高いクゥちゃんは、『黒魔法』ウォーターミストで邪魔し続けて怒らせて、そこで『魔力操作』で霧の虚像を作成。ほら、わたしがそこにいるよー……残念、ネムさんでした。ネムさんが追いこまれてるなら、そのカバーに入るのは……そうだね。ミドリちゃんだね。だからこれで……ドーン)



「ここはわたしがカバーに」


「っ! お姉ちゃん!」


「!?」


(キララちゃんの真似。空から……『黒魔法』ウォーターバスター)


「やば」


「おねえちゃーーーーん!?」



 私、みんなに勝ってる?

 勝って、勝って…………だから、なんなんだろう?


 なんだったっけ?



「……あれ? 生きてる?」


「大丈夫? あんたら大丈夫よね!?」


「「キララちゃん!」」


「よしっ! ……こーの、バカアクア! いつまでそんなところに捕まってんのよ!!」


 キララちゃんが怒ってる。

 どうして怒るの? 私、こんなに強くなったんだよ?


 キララちゃんにだって、負けないよ?



「キ~~~ラ~~~ラ~~~~ちゃ~~~~~~ん!!」


「!? 私の名前を呼んだ? アクアーーーー! 私はここよーーーー!!」


 知ってるよ。


 だから、落とすね?



「「キララちゃん!」」


「ちょ、りゃああああーーーーー!!」


 うわー。

 あれだけのウォーターバレットの雨、対処しちゃうんだ。


 さすがはキララちゃん。

 やっぱり、私なんかとは全然違う。


 でも、それも全部作戦の内。

 キララちゃんが私より強いのは、計算の内。


 だから、ね。



「え?」


「水面……これって!?」


花道フローランウェイってことは、アクアちゃんのディープ・アクア・コールが来るよぉっ!?」


「みんな、にげて。にげろー」


「逃げろってどこにーー!?」



 今度はちゃんと、準備万端だよ。

 みんな私なんかより強いから、私はいつだって全力を越えなきゃいけないの。



「みーーんーーなーーーーーー! ずるーーーーーーいーーーーーーー!!」


「「「ずるいって、何がーーーー!!」」」



 水面から解き放った水の龍が、みんなを呑み込んだ。



      ※      ※      ※



 水の龍が呑み込んだみんなを、たくさんたくさん振り回して、地面に叩きつける。



「「「きゃあーーーー!!」」」


 バシャーンッ!!


 パシュンッ! パシュンッ!


「く、ぁ……変身が……解け……」


「ぁぃ、たた……動けな」



 あ、みんな変身が解けてる。

 私の勝ち?


(勝ち? 勝ったら、何かいいことでもあるの?)


 勝ち。

 私が勝ったら約束が……。


 勝ったら、雄星さんに……。


 雄星、さん……。


(…………雄星さんに、この光景を、見てもらう、の?)


 みんなを痛めつけて、苦しめて。

 追い詰めてる、この姿を?



「フゥン! さすがはオレのアルティメットサーヴァント! 羽虫共を相手に圧倒的ではないか!」


 誰? 男の人?


「さぁ、この調子でトドメを刺すのだ! 捻り潰せ! アルティメットサーヴァント!」


 なんか、ヤダ。


「おい、どうした!? お前はオレのサーヴァントだろうが! 命令に従え!」


 触れられてるのも、近くで声を聞くのも、ヤダ。


 私がそうして欲しいのは、こんなやつじゃなくて――。



「――従え!!」


「!?!?」


 痛いっ! 痛いっ! バチバチする! 胸が苦しいっ!


「お前はすでにオレのモノ。オレの命に従え! そうすれば最強の従魔の称号を欲しいままに」


 雄星さんは、こんなことしないっ!!


「ぐぁっ! なぜオレを掴む!!」


 雄星さんは、雄星さんなら、ちゃんと言葉で教えてくれるっ!

 指導だって、ちゃんと私に合わせてくれるっ!


「やめ、やめろぉーーーー!!」


 って、いうか。



「さーわーるーーーーなーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」


「ひ、ぎゃあああーーーー!!」



 バキベキボキゴキッ。ポイッ。


 あ。

 痛いの治まった。



「………」


「……アクア?」


「あ、あ、ああああ゛あ゛あ゛~~~~~~~~~~~!!!」


「アクア!?」


「ダメ、キララちゃん! アクアちゃんもどきはまだ暴走してる!」


「ゆ゛ーーーーぜーーーーー……ざあ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーん゛っ!!!!」



 苦しい。苦しい。


(会いたい……)


 雄星さんに会いたい。


 でも。


 会いたくない。会えない。会っちゃいけない。合わせる顔なんてない。


(私の勝手で、雄星さんを利用して、雄星さんの大事な時間も、全部奪っちゃったから……)


 私なんかの師匠になってしまったから。

 師匠になんてならなかったら、雄星さんは今頃もっと、ずっと、自分のために生きられたのに。


(雄星さん……雄星さん、雄星さんっ!)


 でも、欲しくて。

 欲しいなんて思っちゃダメなのに、欲しくて。


(これは、夢や希望なんかじゃない。ただの、どす黒い欲望……!)


 落ちこぼれの魔法少女だから持ってしまった、欠陥。


 キラキラなみんなとは違う証拠。

 私が誰よりも、魔法少女じゃないっていう、証!



(こんな私に、雄星さんとまた顔を合わせる資格なんて……)


「アクアちゃん!!」


「!?!?」



 雄星、さん?


「こりゃまた、随分とでっかくなったなぁ?」


 私の目の前。


「でも、やっと見つけた」


 なぜか全身ボロボロの雄星さんが浮かんでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る