第49話 魔法少女で大怪獣? アルティメットサーヴァント・アクア!?



「ゆーーーーせーーーーー……さあああーーーーーーーーーーんっ!!!!」


「バッ、何よアレ!?」


 強まる雨脚を切り払い、一番現場から遠くにいた私が合流したとき。

 他のみんなはもうすでに、アレと戦闘を開始していた。



「あ、キララちゃん! こっち手伝ってぇー! アタシさんだけだと前衛キツイんだよぉ!」


「がんばれー、ネム、がんばれー」


「そう言うなら前後自在のクゥちゃんも前に立ってよぉ~!」


「うでがくるからむり」


「そっかぁ」


「もおおお~~~~~~~~~~~~~~~~!!」


「うわぁ! こっちにも腕が来たぁっ!!」


 でっかいアクア……みたいな何かの左足を、ネムが巻き起こした泥の流砂で封じこめ、もがき暴れて振り回される巨大な両腕を、クゥと一緒にどうにか凌いでいる。



「クゥ! そのまま炎でけん制し続けられる!?」


「ん、へーき」


「じゃ、よろしく! はぁーーー!!」


 アクアもどきの周囲に突如として現れる水弾を、クゥの援護を受けつつ放たれる前に叩き切り、私はそいつの顔面に思いっきり……キック!


「ぶぎゅる~~~~~~~~~!!」


 ちょっとへこみながらのけ反るアクアもどきが右足で踏んばって、おきあがりこぼしみたいにグンッと戻ってきたところで。


「キララ・リリィ・ボルテイン!!」


 真っ向から一刀両断してやろうと剣を振り上げ――。


「キララちゃん! 待ったぁーーーー!!」


「!?」


 ――コクリの叫び声に気づいて、振り下ろす直前で動きを止めた。

 っていうか、何!?


 視線を向けた先、コクリの隣に立っていたミドリが、慌てた様子で声を張った。


「報告! 『神眼通』と『透視』で見た結果! 敵従魔サーヴァントの中に、アクアちゃんを確認! これは、アクアちゃんを模したサーヴァントじゃなくて……アクアちゃんが核にされたサーヴァント!!」


「なっ!? なぁんですってぇ!?!?」


 あのへちゃむくれでかわ……危険なぬいぐるみみたいなヤツの中に、アクアがいる?!


「キララちゃん!!」


「! しまっ!」


「ああああああ~~~~~~~~~~~!!!」


 アクアもどきが叫びをあげて。

 雨粒すら利用して作り出されたとんでもない量の……ウォーターバレットの水弾が、一斉に私に迫ってくる!


「っしゃらくさぁい!!」


 来る弾来る弾叩き切る……けど!


「ぬぁぁぁぁーーーーっ!!」


 ドンッドンッドンッドンッ!!


 断ち切るたびに押し返されて、ついには吹き飛ばされて、私は近くの中継電波塔の上に降り立った。

 あ、ちょうどいい高さ。気に入ったわココ。戦場たんぼが見渡せる。


「あいつ、アクアの魔力を使ってるのね!?」


 そもそも魔法少女リリエルジュを核にしたサーヴァントって何よ!


「っていうか、私より先に出ていったあいつはどこ!? この状況、あいつが見逃すの!?」


「それが……」


 下にいるミドリが、困り顔でアクアもどきを見る。

 って、まさか……。



「アクアちゃん自身が、お兄さん除けのマジカル使ってるみたいで」


「……はぁーーーー!?」



「ゆーーーーせーーーーー……さあああーーーーーーーーーーんっ!!!!」


「……ぁー、もう!!」


 どうなってんのよ! この矛盾塊!!

 誰かこの状況! ちゃんと説明しなさいっての!!



「フゥン! オレの作った究極従魔アルティメットサーヴァントの力は、こんなものでは……なぁい!」


「!?」


 私たち全員を見下ろす高い位置。

 そこに浮かんでいたのは、最近また姿を見せ始めていた知謀のダーク四天王、ベビフェスだった。



      ※      ※      ※



「「「ベビフェス!!」」」


「ベビフェス様と言え! 礼儀を知らぬ羽虫どもが!」


 知らないわよ、敵への礼儀なんて!

 そんなことより!


「あんたがアクアをこんな姿にしたの!?」


「フゥンッ。チームピクシーのリーダー、ピクシーキララか。いかにも! このアルティメットサーヴァントを作ったのはこのオレ、知謀のダーク四天の」


「許さない!!」


「ぬぉっ!? 瞬時にあの距離を詰めただと!?」


 振るった刃が空を切る。


 チッ、逃げられた。

 こいつ、逃げ足だけは一級品なのよね。


「どうやらリーダーである貴様は、変わらず研鑽を積んでいるようだな。敵ながら見事だ」


「うるさいっ! とっととアクアを元に戻しなさいよ!」


「は? 戻さないが?」


「こいつ……っ!!」


「まぁそうカッカするな。あいつはお前たちの中でも落ちこぼれの役立たずだったのだろう? なら失ったところで損失など微々たるものだろうが」


「……は?」


 こいつ、何を言って……。


「むしろ感謝してもらいたいものだな。今この羽虫は、ようやく自分の願いである強さを手に入れたんだ。妙な声を上げているが、それは些末なこと。これからは、欲しがっていた強さを存分に振るい、強者の快楽という愉悦をたーんと味わえ」


「ゆーーーーせーーーーー……さあああーーーーーーーーーーんっ!!!!」


「………」


 あんたにはが、喜びの声に聞こえてるっていうの?


 だったらあんたは、人の上に立つ器じゃないわ!! ベビフェス!



「フゥン! そんな目をしても意味はない! さぁやれ! アルティメットサーヴァント! これまでお前を苦しめてきた者たちに、下剋上してやるのだ!!」


「ああああああ~~~~~~~~~~~!!!」


 アクアもどきの周りに、また大量の水弾が生成されていく。


「……ネム!」


「あいさぁ」


「クゥ!」


「はーい」


「ミドリ! コクリ!」


「任せて」


「ウン!」


「……アクアを、助けるわよ!!」


「ああああああ~~~~~~~~~~~!!!」


 水弾が放たれる。

 私たちはそれに、真っ向から立ち向かった。



      ※      ※      ※



 どこか遠くで、戦いの音が聞こえる。

 私じゃない私が、キララちゃんたちと戦っている。


(これは、夢?)


 まどろむように、頭の中がかすみがかっていて。

 胸に張りついた何かが、とても熱いことだけは感じられて。


 そこから、私じゃない私の声が聞こえてくる。 


(さぁ、みんなに負けないようにガンバろう!)


 そんな声に導かれるまま、いつの間にか戦っているのが私になった。

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