第43話 幼馴染激突! スキルとマジカル、ドッカン大バトル!



 アクアちゃんVSキララちゃんの、幼馴染対決。

 互いにダメージを負いながらも、ようやくそれぞれが真っ直ぐに向き合う形となった。


「なんか、さっきとは雰囲気変わった?」


「わかる。気合十分」


「いやぁ~、こうなると……あたしさんじゃもう止められないねぇ」


「だいじょうぶ。ネムのでばん、しゅーりょーした」


「クゥちゃん言い方ぁ……」


 俺と一緒に戦いを見守っている魔法少女たちも、いよいよ二人の動きから目が離せなくなっている様子で。その瞳には興奮の色がうかがえた。



(アクアちゃんもキララちゃんも、せっかくの機会だ。思いを全力でぶつけて欲しいな)


 万が一には俺が動けばいい。

 そのために、一秒たりとも見逃さないで済むよう、必要そうなスキルは全部解放だ!


「ひぇっ、ゆう兄がヤバいことになってる」


「うぇ~。お師匠様の圧が、圧が強いよぉ~」


「お兄さん、せめて闘気は抑えてください。じゃないと……」


「ゆーせー、あれー」


「え? あ……」


 アクアちゃんとキララちゃんが目を点にして、俺を見ていた。


「「………」」


「ご、ごめんなさい」


 いかん。やりすぎた。

 いくつか発動させたスキルを解除し大人しくすれば。


「……ぷふっ。なによあれ。あんたの師匠とんでもないわね、アクア?」


「うんっ、雄星さんはとーってもすごいんだよ。雄星さんのおかげで私、ここに立ってるの」


 二人のあいだの張り詰めた空気が一度砕けて、ほんの少しだけ、和やかな時間が訪れた。


「そうね。あんたは強くなったわ。でも、勝つのは私」


 だがそれは、激戦の合間のわずかな休憩時間でしかない。


「私は、雄星さんの言葉を信じてる。その雄星さんが勝てるって言ってくれたの。たとえキララちゃんが今、もっと強くなったんだとしても……そのキララちゃんに勝てって、雄星さんが言ったんだから……っ!」


 片や笑顔で、片や真摯に、武器を構える。



「もう一度言うわ。勝つのは私よ! アクア!!」


「ううん。勝つのは私だよ。キララちゃんっ!」


 二人の放つ魔力が、あたりの木々を揺らした。

 役目を終えていた桜の葉が一枚、ひらりと千切れて舞い落ちて。


 カサッ。


 小さな音とともに地に触れた、次の瞬間。


「はぁぁぁぁっ!!」


「やぁーーっ!!」


 最高にかわいくてかっこいい魔法少女たちの、真っ向勝負が始まった。



      ※      ※      ※



「はぁぁぁぁっ!」


 再開と同時にキララちゃんが跳ぶ。

 光輝く剣を構えた彼女の動きは、開幕で見せた初太刀よりもさらに速い!


「やぁーーっ!」


 対するアクアちゃんは、『バリア』を張った。

 こちらも開幕で見せた行動より、さらに速くなるよう工夫がされていた。


「あっ、無宣言!」


「お兄さんがやってるヤツ!」


「でもあれじゃぁ……!」


 覚醒したキララちゃんが得た新たな魔法少女技リリックアーツ私が切りたいように切るキララ・リリィ・ボルテインの前には、アクアちゃんの『バリア』は紙切れ同然だ。


 だが、そこはアクアちゃん。転んでもただでは起きない子。


「おおー」


 その『バリア』は真正面にのみ展開させ、その分厚みが増していた。



「っしゃらくさいわ!!」


 キララちゃんが『バリア』を切る。

 さっきと同じく、それは簡単に割り裂かれ、砕け散る。


 が。さっきと違ってアクアちゃんとキララちゃんのあいだに、より大きな距離があった。


(なるほど。厚みのある『バリア』を使って、間合いをズラしたのか!)


 そうして間合いができたなら。



「スキル『黒魔法』!」


「!?」


「ウォーターバレット!!」



 アクアちゃんの距離だ。



「行ってっ!!」


「くぉんのぉぉ!!」


 至近距離からマシンガンのように打ち出される魔法の水弾を、キララちゃんが迎え撃つ!


「だぁぁぁぁっ!!」


 切る! 切る! 切る切る切る!!

 目にも留まらぬ早業で腕が振るわれ、放たれる弾丸のことごとくが真っ二つにされていく。


「っ!」


 不意に、キララちゃんが大きく後ろに飛びのいた。


 ドッ!!


 直後、彼女の居た足元から巨大な水柱が噴き上がる。

 ウォーターバレットを放つその裏で、アクアちゃんが練り上げたウォータースプラッシュだ。


 さっきはこれもぶった切って攻めてきたが、そこはキララちゃんも学んでいる。


「……フッ!」


 ゆらり。


 踏みこむと同時に、キララちゃんが爆発的な速度で移動を開始する。

 それは光の軌跡を残した高速移動。


 桜並木のあいだを縫ってジグザグに駆け回り、アクアちゃんの周囲を取り囲む!


「速い速い速い、目で追えない!」


「わたしは『神眼通』を使ってやっと……!」


 観るスキルが得意なミドリちゃんをして、目で追うのがやっとの速度。

 より磨きがかかったスピードを出すキララちゃんの狙いは……!


「……そこっ!」


「っ! ぁっ!!」


 刹那。

 アクアちゃんの警戒の隙を突いての一撃離脱。


「そこっ! そこっ! そこっ! そこっ!!」


「くっ! んんっ! ぅぁっ! ああっ!!」


 超高速で切られ、はじかれ、アクアちゃんの体がくるくる躍る。

 それはさながら緒戦でアクアちゃん自身が行なった“激流の檻”戦術への意趣返し。


 “あんたのやれることなんて、私にだってできるのよ”

 とでも言いたげな攻撃だった。



「うひー、キララちゃんも大概だけど、アクアちゃんもよく耐えるねぇ」


「アクア。なんかズルっこしてる?」


「お、気づいたか?」


 本来なら、キララちゃんの攻撃でとっくに倒れていてもおかしくない。

 それなのにアクアちゃんが無事なのは、彼女自身の対抗策が効いていた。


「さっきの休憩時間のとき、アクアちゃんは『白魔法』ウォーターリジェネをかけていたんだ」


再生リジェネってことは、持続回復?」


「そう。水系統が得意なアクアちゃんは、それに類する『白魔法』も修めているぞ」


「うへぇー。アクアちゃん、やりたい放題だぁ」


 ふっふっふ。

 なにせ、自慢の弟子だからな。



(だが、その辺の小手先の手品みたいなのは、もうバレてるだろう)


 そう俺が考えたタイミングで、キララちゃんが動きを止める。

 その場でトーンッ、トーンッと地を蹴ってリズムを取りながら、何事か考える仕草をして。


「……なるほどね」


「!?」


 気づいた。

 いや、気づいてるってことをわざわざ宣言した……!


 と、いうことは……!


(大技が来る!)


 そう考えた俺の目の前で、それは起こった。



「おー」


 クゥちゃんが感嘆の声を上げる。


「……キララちゃん、すごーい!」


 コクリちゃんが歓喜の声を上げる。


「アクア! 痛い思いさせちゃうけど……覚悟なさい!」


 そう告げるキララちゃんは。


「キララちゃんが、増えてるーーっ!?」


 太陽の光差す大地の上で。


「さぁ」「一気に!」「決める」「わよ!」


 四人になっていた。



      ※      ※      ※



 キララちゃんから大技が出る……とは、思っていたが!


「うわー、あれ全部本物だ!?」


「え、コクリ。それホント? 光の虚像とかじゃなく?」


「ひかりー。ほんものじゃないけど、ほんものといっしょー」


「ひぇー、キララちゃんってばそんなこともできるのー?」


 キララちゃんが増えた。

 もちろんこれは魔法の国の魔法、マジカルだ。


 こんな理不尽、マジカルじゃなきゃできない。



「「「「アクア!」」」」


 四人になったキララちゃんが、一斉にアクアちゃんへと向かっていく!


「スキル『黒魔法』ウォーターミスト!」


 対するアクアちゃんが、濃く白い霧を作り出して迎え撃つ。


「悪いけど!」「それがスキルなら!」「私には!」「無意味よ!!」


 四人のキララちゃんが刃を振るえば、まるで旋風が巻き起こったかのように霧が晴れる。


 が、そこにアクアちゃんの姿は、ない!



「……あっ。アシッドドライブ」


「あー! 確かに地中なら安全、かも!」


「アクア、かしこい」


「……いやぁ、これは悪手だねぇ」


「「え?」」


 霧を目くらましに地中へ潜るアクアちゃんの作戦をみんなが褒める中。

 この場の誰より考えが深いネムちゃんだけが、逆のことを口にする。


 その意味は、すぐさまキララちゃんが証明した。



「地中に逃げれば攻撃は届かない? そんな常識……知ったこっちゃないわよ!」


 四人のキララちゃんが一斉に剣を逆手に持ち。


「「「「逃がさないわよ、アクア!」」」」


 全員同時に地面に突き立てる!


 ビシャァァァァァンッ!!!


 瞬間。

 雷鳴とともに稲妻が走り、空気がはじけ強烈な衝撃波が俺たちの元へと届く!


 ボフッ!


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


 地中から、ぶすぶすと煙をあげながらアクアちゃんが飛び出してきた。

 その体はまさしく雷に打たれたような、そんな有り様で。


(大地がアクアちゃんの水魔法で濡れていたとか、そういうのは全部……後づけ、か)


 マジカルは、強引に結果を作り出す。

 次期女王候補アンジェリケとうたわれる、キララちゃんの絶好調な魔力がゆえの無茶苦茶な世界改変だ。


「……すごいな」


 アクアちゃんの幼馴染ライバルは、掛け値なしの魔法少女リリエルジュだった。



「くっ、うぅ……」


 スキル『飛行』で坂から離れ、空中へと逃れるアクアちゃん。

 そんなアクアちゃんに向かって、一人に戻ったキララちゃんが吠える。


「アクア! 最大火力のバスターで来なさい!」


「えっ!?」


 その提案は予想外だったんだろう。

 アクアちゃんの表情が驚きに染まり、けれどすぐに口を結んで歯を食いしばった。


「どうなっても、知らないよっ!」


 挑発に乗る形で、アクアちゃんがロッドの先に魔力を集めていく。


「『魔力増幅』! 『魔力収束』! 『魔力操作』!」


 いつもの強化に強化を重ね。


「……『魔力解放』!!」


 そこに、新たな力を加えれば。


 ブオンッ!


 ロッドの先に収束した魔力が、その質と量を高め、青い輝きを放つ。



「あれ、やばくなぁい?」


「ゆーせー、たいしょっくぼうぎょー」


「ミドリ、ワタシたちも!」


「OK、コクリ」


 観客である俺たちは、一斉に守りを固めた。


 

「ディープアクアロッドフルパワー!」


 同じく空へと飛びあがったキララちゃんに狙いをつけて。


「……っ!」


 アクアちゃんが、力を解き放つ!



「『黒魔法』! ウォーターーーバスタァァァァーーーーーッッ!!!」


「キララ・リリィ・ボルテイーーーーーーーーンッッ!!」



 アクアちゃんから放たれる強大な青の波動と、キララちゃんの振るう白く輝く刃が衝突した!


 勝ったのは……。



「あんたのそのスキル。火力不足なのよ」


「!?」


 青い波動を切り裂いて、その眼前まで迫っていた……キララちゃん。


「それじゃ、私は倒せないわよ。アクア?」


 無造作に刃を振るい、アクアちゃんを切れば。


 ピシャンッッッ!!!


 アクアちゃんの全身を、剣で切られた痛みと雷光の衝撃が襲う。


「っーーーー……!!」


 声にならない声を上げ、アクアちゃんは段々になっている田晴坂の急斜面へと墜落した。

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