第41話 幼馴染バトル開始! アクアVSキララ、決戦の地は田晴坂!


 田晴坂たばるざか

 越すに越されぬなんとやら、という歌も残るほど、かつての戦で激戦地となった場所。

 いわゆる古戦場であり、日本史の教科書に載ったこともあるところである。


 冬枯れが始まり、あたりが落ち葉で満ちる山間部内でも拓けたところに存在する、田晴坂記念公園。

 坂の名が示す通りの急斜面から見下ろせる絶景や、当時の戦について記した記念館もあり、普段ならば人の往来のあるその場所も……今日に限っては働く人も含めて、無人。


 それもそのはず。


「はぁ~、まさかこんなことになるなんてねぇ」


「ふぁぁ……」


「ねーねー。ミドリはどっちが勝つと思う?」


「普通に考えれば、アクアちゃん」


 激戦に参加したとされる“美少年の像”の前に陣取る俺の周りに集まる、4人の魔法少女。

 彼女たちの力で、このあたり一帯に人払いの結界が張ってあるのだ。


「あたしさんも、今のアクアちゃんの強さは頭二つ分くらいは抜けてるように感じるねぇ」


「ん。アクア、つよくなったー」


「ゆう兄はどう思ってるの?」


「うーん……」


「コクリ。お兄さんは今回立会人だから、どっちかに肩入れした意見は言えないよ」


「あ、そっか」


 そう、俺は今回立会人。

 二人の戦いを見届けるのがその役割だ。


 なるべく二人の戦いに水を差さないようにしたいと思っている。


「ゆーせーさーーんっ!」


 だからアクアちゃん。そんなに元気に手を振らないでくれ。


「……ふんっ!!」


 あぁほら、キララちゃんがプンプンしちゃってる!

 ただでさえアクアちゃんとの時間を俺が奪っちゃってるんだから!


「私、ガンバりますっ!」


 それでもいつも以上にアピールしてくるアクアちゃんに、せめてもと手を振り返せば。


「んんーーーーー!! ガンバるぞっ!」


 すっかりやる気MAXになったアクアちゃんが、これでもかってぐっと力の入った愛らしい握りこぶしポーズをとった。



(正直、アクアちゃんにここまで気合が入っているのは予想外というか……)


 なんだかやる気が空回りしそうてちょっと心配。


「アクア! あいつのところでいっぱい特訓して強くなったその力、見せてもらうわっ!」


 対してキララちゃんは、あの日別れ際に見せた気迫そのままといった様子でアクアちゃんを捉えている。

 こっちもこっちでちょっと気負いすぎというか、焦っているように見えて心配だ。


(なんていうか、幼馴染っていうだけあって、どこか似てるんだよな)


 俺にはそう呼べる人がいなかったから、ちょっとだけそれが眩しく映る。



「うーん、これは……あたしさん二人が必要以上にケガしないようにちゃんと見てるねぇ」


「そうしてくれると助かるよ」


 同じように二人を心配してくれてたネムちゃんにも注視するようお願いして、前に出る。


 かつての激戦を記した石碑を挟んで向かい合う、アクアちゃんとキララちゃん。

 二人の顔をそれぞれに伺えば。


「雄星! いつでもいいわよ!」


「こっちも大丈夫です。雄星さんっ!」


 改めて気合の入った言葉をもらい、ここに、準備はすべて整った。



「「「………」」」



 魔法少女たちの視線を一身に受けながら、俺はゆっくりと右手を持ち上げ……。



「……始めっ!!」


 振り下ろす。



「! 『バリ」


「はぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


「!?」


 開始と同時に『バリア』を使おうとしたアクアちゃんの、その動作をし終えるよりも早く。


「……っっ!?」


「これで終わりよ、アクア!」


 まさに神速と呼ぶにふさわしい速度で接近した、キララちゃんの二刀……ツインキララブレードの刃が翻った。



      ※      ※      ※



 神速の初太刀。

 俺の予想を超えた速度での一撃には、確かに戦いを決着させるだけの力があった。


 だが、俺の育てた魔法少女アクアちゃんはそのくらいじゃ負けない。


「はぁっ!」


「なっ!」


 キララちゃんが振り下ろした刃を、アクアちゃんが受け止めた。

 その手に持っていた、ディープアクアロッドで。


「甘いよ、キララちゃん!!」


「そん、くぁっ!!」


 体を捻りキララちゃんの剣を逸らし、砂利を踏みしめすり足で一歩分距離を詰め、アクアちゃんが体ごとぶつかってキララちゃんをはじき飛ばす。


「アクアちゃんが、体術ぅ!?」


「いつの間に……」


 驚く双子ちゃんの声を背に聞き、ちょっと得意顔の俺。

 砲撃型の魔法少女だったならなおのこと、敵に近づかれた時の対処法も覚えておかないとな。


 修行の成果がしっかりと発揮されているようで安心。



「スキル『バリア』! さぁ、勝負だよ、キララちゃん!」


「くっ」


 キララちゃんが体勢を立て直すあいだに『バリア』を使ったアクアちゃんは、盤石の構えだ。

 ロッドを向け、すでに魔力を集中させ始めている。


「スキル『黒魔法』ウォーターバレット!」


 弾数が多く使い勝手がいいのか、アクアちゃん愛用の『黒魔法』ウォーターバレットは、使いこんだ習熟もあって狙いが鋭い。


「くぁぁぁっ!!」


「おー、よけてる」


「あの速度躱せるのは流石だねぇ~」


 怒涛の如く撃ち放たれる水弾の雨を、キララちゃんは得意のスピードで回避するが、広範囲にばらまかれる攻撃に、次第に距離を離されていく。


 そうなるともう、アクアちゃんの得意な状況だ。



「いくよ、キララちゃん! スキル『魔力増幅』! 『魔力収束』! 『魔力操作』!」


 次々と強化バフを積み上げ、魔力を高めては。


「スキル『黒魔法』ウォータースプラッシュ!!」


 キララちゃんの逃げ道の先に、設置罠のように仕掛けていた水柱を立たせる!


「こんなものぉーー!」


 キララちゃんがブレードを振るい、水柱を切り裂く。


「……今っ!」


 だがそれも、アクアちゃんの狙い通りだ。


「なっ!?」


 ボフッ!!


 キララちゃんが水柱を切り裂いたその瞬間、切られた水柱が霧散してキララちゃんの視界を奪う。


「むむ。スキル『神眼通』、『透視』」


「あ! ミドリだけズルーい!」


 ミドリちゃんに倣って俺も視界を確保すれば、霧自体を攻撃だと思ったキララちゃんが、足を止めて警戒している姿を捉えた。



「キララ、それはだめー」


「うぇー?」


 クゥちゃんが指摘した、その瞬間。


「『黒魔法』! ウォータートーレント!!」


 つい先日も俺を追いこんだ、アクアちゃんの凶悪水魔法コンボが発動した。


「っ! ガードを……きゃあああーーーーーー!!」


 キララちゃんもとっさに守りを固めようとしたが、判断が遅れた。

 何しろ全方位からの激流攻撃だ。


 あのムキムキデモニカさんですら余裕で吹き飛ばす威力のそれを、受け止めちゃいけない。


「はぁぁぁっ! えぇーーいっ!!」


 アクアちゃんがロッドを振るい、巧みに激流を操って攻撃を重ねていく。


「くっ、このぉっ! あつぅっ!」


 キララちゃんも懸命に対応しようとするが、もはや彼女は籠の中の鳥。

 得意のスピードも活かす前から潰されてしまっては、致命傷を避けるので精いっぱいな様だった。



(これは……ここで決着、か?)


 下馬評通り、アクアちゃんが勝つ。

 そんな雰囲気が俺たちの中で自然と生まれてくる。


 このままアクアちゃんの勝利を見届けて、師匠として弟子の勝利を祝う。

 予想通りで想定通りな、そんな結末がもうすぐそばに来ている。


 だが俺は、それじゃダメなんじゃないかと、そんな気持ちになっていた。


(このままこれで終わるのは、よくない気がする)


 そんな漠然とした不安に、どうするべきか頭を回し始めるのだった。



      ※      ※      ※



 おかしい。

 何かがおかしい。


 戦っていてずーっと違和感がぬぐえない。


 考えていることと、目の前で起きていることがまったく噛み合ってない。


(キララちゃん? キララちゃん?)


 私の見つめる先で、キララちゃんが激流の檻の中、踊らされている。

 3回に1回は、私の操る水の魔法がキララちゃんの体を掠める。


(どうして、キララちゃん?)


 おかしい。

 何かがおかしい。


 だって、こんなはずがない。


(これで、終わり?)


 勝てる。

 そんな気持ちが私に湧き上がる。


(誰が、誰に?)


 キララちゃんに、私が勝つ?


 気持ち悪さでちょっとだけ吐き気がした。



“アクアちゃん。キミは決闘を受けるべきだ”


「!?」


 不意に、雄星さんの言葉が頭をよぎった。

 その言葉の意味を、今このときになってようやく理解する。


(そうか。雄星さんは、こうなるってわかってて……)


 雄星さんは知ってたんだ。

 私がもう、キララちゃんよりとっても強くなっているってことを。


 なのに私は、ずっとキララちゃんの背中を追っているつもりで、自分を弱いって決めつけてて。


(こんなの、キララちゃんにだって失礼だ!)


 ちゃんと相手を見ていなかった。

 ちゃんと自分を見ていなかった。


 色眼鏡で見て、勝手に決めつけて。

 考えなしに、過ごしてた!



(……わかりました、雄星さん)


 やっぱり雄星さんは、すごい。


 私を、こんなに強くしてくれた。

 私を、ここまで導いてくれた。


 なら、私はそれに、全力で応えるんだ!



(私は強い。これからはみんなを…………キララちゃんだって、私が守る!!)


 決意を固める。


「キララちゃん! これからは私が……!」


 そのときだった。



「キララちゃん!!」



 雄星さんが、私じゃなくて、キララちゃんに声をかけていた。


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