第40話 絶対ですよ、雄星さんっ! アクアと雄星と不確かな約束
白くて丸いLEDライトの下で、俺はアクアちゃんに語りかける。
「確かに、キララちゃんは強いよな。あのスピードは脅威だ」
「はい。キララちゃんはとっても強いんです!」
俺を真っ直ぐに見つめて、キララちゃんを全力ヨイショするアクアちゃん。
でもそれは、色眼鏡を通して見た間違った景色だ。
「アクアちゃんの方が強いよ」
「え?」
「今は、アクアちゃんの方が強いよ」
「はい?」
二人と何度も手合わせしている俺だから、言える。
今、アクアちゃんとキララちゃんがぶつかり合えば、まず間違いなくアクアちゃんが勝つ。
「キミが自信をもってキララちゃんにぶつかれば、まー、勝つだろうな」
「え、あの、あぅ、そんな……私なんかがキララちゃんに勝つなんて……」
「それを確かめるためにも、アクアちゃん。キミは決闘を受けるべきだ」
「雄星さん……」
強い口調の俺の言葉に、けれどアクアちゃんはなおも不安げに俺を見る。
半信半疑、といったところか。
ならここは、あと一押し。
「すぅー……」
ゆっくりと、息を吸う。
「………………アクアちゃんは、強い!!」
「ふぇっ」
「アクアちゃんはーーーー!! つよーーーーーーーい!!!」
「え、ええ~~~~~~!?!?!?」
立ち上がり、大声で叫び始めた俺に、アクアちゃんがアワアワし始める。
「アクアちゃんは強い! 強いったら強い! 負けない!」
「あわ、あわわっ、雄星さんっ!」
「だって、俺の弟子なんだぞ!」
「!?」
アクアちゃんの顔が、ハッとなる。
「俺が今日まで育てた最強の魔法少女なんだ。きっと勝てる!」
勝てるったら勝てる。
師匠である俺が言うんだから間違いない!
「……本当に、そう思いますか?」
俺を見上げる濃い海色の瞳は、最後の一押しを欲していた。
「ああ、アクアちゃんを鍛えた俺の言葉だ。信じてくれ!」
「っっ!!」
だから迷いなく、押し上げる。
とっておきのダメ押しで。
「なんだったら、そうだな。もしもアクアちゃんが勝てたら、ご褒美に何かプレゼントしよう」
「えっ!?」
「料理……はいつも通りだし、旅行……は、あんまり連れまわすのも疲れさせちゃうかな」
ガンバッたらなでなでだったりご褒美を欲しがるのがアクアちゃんだ。
なら、先にご褒美を提示したならきっと頑張れるはず!
「あの、雄星さんっ」
あれこれ悩む俺に、アクアちゃんがシュビッと手を挙げた。
「ん? アクアちゃんから何かリクエストがある?」
「はいっ。あの、あのですね……私」
「うん」
「わたし、ずーっと雄星さんにお願いしたいことがあったんです。それをお願いしても、いいですか?」
「そうなのか?」
そんなお願いがあっただなんて、知らなかった。
「どんなお願いなのか、聞いてもいいかい?」
「それは……できたら、勝てたそのときに。でも、できたら断らないでもらえたらって……」
「む……」
口に出したら拒絶不可のお願い、か。
つい最近、その手のお願いでとんでもないのを叩きつけられたからなぁ。
「ぁ……すみません。ずるい言い方でしたよね……」
「え、あ、いや。大丈夫だよ! 大丈夫!」
ここにきてシュンとしてしまったアクアちゃんに、俺は慌ててしまって。
「いいよ。わかった。そのお願いを聞こう!」
「本当ですか!?」
「うおっ、あ、ああ……その願いを叶えるために全力を尽くすって誓うよ」
思わず答えた返事に、想像以上の食いつきでキラキラしだしたアクアちゃん。
俺はその勢いに圧される格好で、誓って頷いた。
「わ、わぁ、わぁぁ……!」
「そ、そんなに嬉しいのか?」
「はいっ、はいっ。私、キララちゃんに勝てるかどうかはわからないですけど……一生懸命、全力でガンバりますっ! ううーっよしっよしっ!!」
「……ははは」
アクアちゃんのことだから、そんな変なお願いはないはず。……ないよな?
(お願いされる中身が、どうかミドリちゃんパターンじゃありませんように!)
すんごいキラキラハイテンションのアクアちゃんをよそに、俺は天を仰ぎ、祈る。
去り際の、アクアちゃんに重い気持ちを向けていたキララちゃんの顔を、思い出す。
(……でもこれで、少なくともキララちゃんが望む真剣勝負には、なるよな)
決闘を挑むあの子が望んでいるものが、本気のアクアちゃんとの戦いなのは間違いない。
だが本気のアクアちゃんは強い。最悪初手で決着がついてもおかしくないと俺は思っている。
(あの子がアクアちゃんにどういう気持ちを向けているのかまではわからない。でも)
願わくば、この戦いの先で納得のいく答えを得られるよう想うばかりだ。
(そして、アクアちゃんも……)
みんなの足を引っ張らないだけの魔法少女から、みんなと同じ競い合える魔法少女になったって思えるようになれたらいいなと、俺はすっかり師匠心で考えるのだった。
※ ※ ※
くまモト市中央区。
市街地と隣接する高級高層マンションの一室……私の家に帰ってから、ソファに倒れる。
この町に降り立った際に潜りこんだ、代々政治家の家系である鳴神家に借りさせた部屋に、私は一人で住んでいる。
その方が都合がいいから。効率的だから。
ここでなら、どれだけ弱気な顔をしてもバレないから。
「はぁー……」
また、ツンケンした態度でアクアに当たっちゃった。
もっと上手に対応する手段なんていくらでも思いつくのに。
この町に来てからの私は、いろいろなことが上手にできなくなっていた。
「……アンジェリケなんだから。もっとしっかりしなきゃ」
こんなんだから、アクアが私を頼ってくれないのよ。
「アクア……」
いつも私の後ろをちょこちょこついてきて、いつも私の背中を見てくれた幼馴染。
あの子を守るのは私の役目で、私の活躍を見守るのがあの子の役目だと……そう思ってた。
(きっと、今のアクアは私よりも……強い)
アンジェリケである私以上に強いということは、彼女はもう、一人前だってこと。
悔しいけど、あいつの教える技術は段違いで、そしてアクアと相性が良かった。
(認めなきゃ。あの子はもう、私に守られる必要なんてまったくない……)
動植物園で、私に大丈夫だよって言ったアクアの顔を思い出す。
敵を探知したり、
(でも……アンジェリケは、私)
それはあの日、あの子の前で誓ったときから、揺るがない私の目標。
(
アクアが強くなるのなら、私はそれ以上に強くなって、その前を行くのよ。
「強くならなきゃ……」
今度の戦いで、証明しなきゃいけない。
「私は強いって、女王になるにふさわしいのは私だって、示さなきゃ……それに」
それに、私はあの日、アクアと約束したんだもの。
私が女王になったとき、あの子は……。
だから。
「私は女王になるの。そのためには、たとえアクアにだって、負けられないんだから……!」
手の中に呼び出した印章を、力強く握りしめる。
(勝てない戦い? それがどうしたってのよ!)
私の想いに呼応して、印章が淡く光を放つ。
「私は、私の信じる力で、あの子に勝ってみせる」
勝って、私はこれからもアクアの前に立ち続けるんだ!
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