第4章 魔法少女のお師匠様
第38話 師弟対決! 強くなった魔法少女ともっと強い師匠
コクリちゃんミドリちゃんとの、動植物園デートを過ごした日から、しばらく経った。
11月も後半となれば、季節はすっかり冬へと移り変わっていて。
日常である流町公園での夜の特訓の時間では、白く染まった吐息が零れるようになっていた。
「さぁ、アクアちゃん。『魔力操作』をさらに上の段階に押し上げるためにも、これからはコンビネーションに力を入れていくよ」
「はい! ガンバりますっ!」
オールシーズンかわいらしい魔法少女姿のアクアちゃんが、愛杖ディープアクアロッドを構える。
その先端が狙いをつけているのは、他ならぬ俺だ。
「何の遠慮もいらない。全力で来てくれ」
「はい! 雄星さんっ! 行きます!」
気合を入れたアクアちゃんが、自分の身の内に宿る魔力を高めていく。
「スキル『バリア』!」
「正解」
アクアちゃんがドーム状に全方位をカバーする障壁を展開すれば、直後、大きな破裂音が数発、アクアちゃんの周囲で巻き起こる。
俺が不意打ちのためにこっそり仕込んでおいた、スキル『爆裂』である。
「くぅぅっ」
「アクアちゃんは強い攻撃をその場でバカスカ撃つ固定砲台タイプの戦い方と相性がいい。そのタイプの戦い方の鉄則は、自分が害されない状況に自らを置くことだ」
「……はいっ!」
固定砲台タイプの基本戦術、陣地形成だ。
敵にバレない位置取りをするだとか、今みたいに『バリア』などで守りを固めることで、自分に有利な状況を作り出すこの戦術は位置固定の
特にアクアちゃんの場合は後者の、守りを固める戦術と相性がいいのを確認済みである。
「雄星さんから教えてもらった『バリア』があれば、無敵ですっ!」
「じゃあ、その無敵を今から崩すぞー」
「え? きゃあっ!!」
『爆裂』を無傷でやり過ごしたアクアちゃんから、驚きの声があがる。
「鉄壁の守りの崩し方その1。本人ではなく周りを狙う」
俺がスキル『黒魔法』ノームノックでアクアちゃんの足元に
「むぎゅるっ」
「鉄壁の守りの崩し方その2。受け止めきれない火力で押し潰す」
「ぇぁっ、きゃ~~~~~!!」
アクアちゃんの落ちた穴に向かってスキル『黒魔法』リトルスターを発動。
小粒の星屑を呼び寄せ滅多打ちしてやれば、しばらくののち。
バリンッ!!
「あわっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~~~!!!」
『バリア』が砕けた音と、多数の
そしてアクアちゃんのかわいい悲鳴があがった。
「ふぅー、ふぅー……」
「鉄壁の守りの崩し方その3。倒すんじゃなく封じる」
「はふ、え?」
穴からアクアちゃんが這い出そうとするのに合わせて、スキル『流砂』を発動させれば。
「あっ、いきなり地面が柔らかくっ、わぷっ、あっ、溺れ……ぷぎゅるっ!」
アリ地獄のようになった砂の流れに引きずりこまれ、アクアちゃんが土の中に埋められた。
「………」
すぐ近くの国道を走る、車たちの行きかう音が聞こえる。
(……やっぱりすごいな、アクアちゃん!)
心の中で感心しながら、その場から即バックステップ。
直後。
ドパンッッッ!!
直前まで俺が立っていたその場所に、猛烈な勢いで水流が吹き上がった。
※ ※ ※
巻きこまれれば空高くまで容易く打ち上げられただろう、強力な一撃。
「いや、これは……」
吹き上がる水流は、間欠泉のようで。
というか、間欠泉そのもので。
(『黒魔法』ウォータースプラッシュの水をお湯にアレンジした? ならこれは……!)
気づけば俺の周囲はすべて、白く濃い霧で覆われてしまっていた。
(『黒魔法』ウォーターミストに繋げたのか!)
アクアちゃんは未だ土の中だ。
つまり彼女は、土の中に沈められても『魔力操作』を途切れさせずスキルを繋げてきたのか!
(ますます仕上がってきてるな……!)
土の中にいるアクアちゃんの気配は移動している。
これは土を泥に変えて高速移動する『黒魔法』アシッドドライブを応用して使っているんだろう。
「複数の『黒魔法』をここまで立て続けに発動させるとは、『魔力操作』の精度が高い!」
さすがはアクアちゃん。
スキルのコンビネーション、バッチリじゃないか!
「行きますっ!」
「!?」
感心するのも束の間。
声がした方を見てみれば、そこではすでに魔力を練り上げきっているアクアちゃんが、上半身だけ泥の中から姿を現し、俺に向かってディープアクアロッドを構えている!
「スキル『黒魔法』……!」
「……スキル『水攻撃耐性』! 『神体通』!」
「ウォーター……トーレント!!」
霧が、攻性を持った激流となって俺を襲う!!
「うおおおおおお!!」
全方位から迫る熱湯の激流を、『神体通』で強化した運動能力でもって受け流す!
それでも捌ききれない分は『水攻撃耐性』で受け止める!
「我が運命! そして運命に育まれし水の星よ! オレも混ぜ」
「えいっ」
「ぐぉわああああああーーーーーーーー!!!!」
力に任せて無策で突っ込めば、ご覧の有り様だ。
一瞬も気が抜けない!!
「面です!」
「いっ!」
激流を操るアクアちゃんが、俺の真正面に巨大な水の壁を作り出し、放つ。
(うん、こりゃ避けらんないな!)
コンビネーションの締めくくり。
回避不能のフィニッシュブロー。
まさにトドメの一撃に。
「スキル『獣装』……コイの滝登り!」
俺は真っ向から飛びこみ。
「おおおお!!」
荒れ狂う水の暴力を、身を捩りながら登っていく!
そして!
ザッパーンッ!
見事水の壁を泳ぎきった俺は、空中でくるりと身を翻し。
「ふぅ……っ!」
下弦を過ぎた月が照らす夜空を、エコーのかかった吐息とともに、ポーズを決める。
あ、そうそう。
俺こと戸尾鳥雄星は、今月10日で27歳になりました。
「ええーーーーっ!?!?」
「続けてスキル『獣装』……竜の、爪!!」
間髪入れずにスキルのコンビネーション。
落下速度を攻撃の威力に加えての、強烈な振り下ろしを放つ!!
「! すぐに潜り」
「惜しい。本命はこっちだ」
「!? 背後!?」
タッチ。
「黒魔法『サンダーハンド』」
「しびびびびびっ!! ぷしゅ~~……」
直で電撃を浴びたアクアちゃんが、その場にぐったりと伸びて倒れ伏す。
それと同時に、空から攻撃をしかけようとしていた俺……の『
※ ※ ※
「しびび……い、いつからでしたか?」
まだピリピリしているアクアちゃんからの質問。
「アクアちゃんが霧張ったタイミング」
「あうぅ……」
「頑張った頑張った」
へにゃりと脱力してしまったアクアちゃんの頭を撫でてから、落ちてる帽子を被らせる。
「正直ここまでの練度があれば、異世界のドラゴンにだって負けないと思うぞ」
「本当ですかぁ~?」
「ホントホント」
立ち上がり、疑いの目でこちらを見るアクアちゃんに、本心から頷いてみせる。
『黒魔法』の連続使用も、ここまでの『魔力操作』も、並の魔法スキル使いにはできない領域だ。
それができる勇者くんパーティーの賢者ちゃんが、ドラゴンの単独討伐に成功しているのだから俺の言葉は間違ってない。
「アクアちゃんはもう、どこに出しても恥ずかしくないつよつよ魔法少女だ」
「そんな、私なんてまだまだです……雄星さんがいてくれるからここまで出来るだけでっ」
褒められて恥ずかしいのか、アクアちゃんがうつむいた。
ぐっとロッドを握る手に力を入れ、もじもじと体を揺らす仕草が愛らしい。
「大丈夫、自信をもっていいよ」
「あう……」
あとはこの、引っ込み思案気味なところがもうちょっと改善されれば、名実ともにつよつよ魔法少女を名乗れるのかな?
最近は寂しさからくる添い寝おねだりも3日に1回くらいになってるし、心の成長はじっくり見守っていくしかないんだろう。
“……わたしたちは、
「………」
いつかのミドリちゃんの言葉が、俺の脳裏をよぎる。
(何も疑わずキラキラな存在だと思って見てた女の子たちは、俺とは根本から違う存在だった)
そんな子たちを、アクアちゃんを。
俺は今も変わらず、小さな女の子だと思って扱っている。
「雄星さん?」
「ん? ああ、ごめん。考え事してた」
「……そう、ですか」
心配げな顔で俺を見上げるアクアちゃんに、大丈夫だよって微笑みを返す。
二人きりの師弟だったときにしでかした失態は、二度はしない。
ちゃんと相談する。
「実は、アクアちゃんたちを大人のレディとして扱うかどうか、考えてたんだ」
「…………ほああっ!?」
ボンッ。
アクアちゃんの顔が真っ赤になって、変身が解けた。
「お、おと、大人として扱うって、それって……!」
「言葉の通り、大人のレディとして扱うってことだよ。アクアちゃんたちって、魔法の国のルールじゃもう成人してるんだろ?」
「あ、は、はいっ。そうです。クゥちゃんはあと1年ですけど……」
「なら、節度をもってお付き合いしないといけないよなって」
「お付き合い!?」
アクアちゃんが前のめりになって急接近してきた。
至近距離から必死に俺の顔を見上げる姿は、どこからどう見ても背伸びしてる女の子だった。
「た、たとえば……どんなことをっ!?」
「そうだなぁ……」
まず改善しないといけないのは――。
「添い寝はもうやっちゃダメだよな」
「私はまだまだ未熟なので大人扱いしなくていいです雄星さん」
アクアちゃんは真顔だった。
「…………ホント、変わったわね。アクア」
「え?」
不意に公園に響く第三の声。
見れば、近くの外灯の上に、小さなシルエットが浮かんでいた。
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