第36話 運命の再会?! 消えたマジョンナとお疲れの間條さん! その1


 トイレを出た俺を出迎えてくれたのは、ミドリちゃんでもコクリちゃんでもなく……。


「え?」


「………はぇ?」


 ま。


(ま。)


 間條さんだああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーくぁwせdrftgyふじこlp!!!


(うわああああ!! 間條さん! 間條さんだ本物ホンモノほんものだなんでどうして帰ったはずじゃそもそも見間違いの可能性でもほんものホンモノ本物の間條さんだ!!!)


 だって見間違うはずがない!


 こんなに綺麗な銀色の長い髪……くすんでる。

 やわらかでハリ艶のある褐色の肌……くすぶってる。

 磨き上げた己に対する自信に満ち溢れた美貌……くらーい。


 唯一その輝きを失っていないふたつのデカメロンも、体育座りで押しつけられた太ももに、悲しげに潰されていた。



「………間條、さん?」


 発見した間條さんは、憔悴しきっていて。


「……あはっ」


「!?」


 そんな彼女が俺と目を合わせて向けてくれた、涙目の笑顔は……あまりにも痛々しくて。



「……間條さん」


 腰を落とし、床に座りこんでいる間條さんと目線を合わせる。


「何が、あったんですか?」


「………」


 俺は、自分の中に沸いた再会の喜びだとかをひとまず棚上げして。


(とにかく今は、彼女に協力しよう)


 間條さんのために動こうと、そう決めた。



     ※      ※      ※



 いゃっほーぅ! わたし、死ぬわ!

 だって、目の前に死神がいるんだもの!


「……あはっ」


 もう、笑いしか出ない。


(ダーク大帝からもらったチケットでここに来たら、これよ)


 きっとこれは、遠回しの処刑だったんだ。

 わたしという存在がもう、魔族の国デモニカエンパイアにとって不要になったから。


(やっぱり、やっぱり……!!)



「何が、あったんですか?」


「……役立たずは、消されるのよ!」


「えっ!?」


「うわーーーーん!! きっとあれは、地獄への片道切符だったんだわーー!!」


「間條さん、間條さん!?」



 だってそうじゃなきゃ、説明つかないじゃない!

 こんな都合よく化け物こいつに見つかったり、魔法少女リリエルジュのお子ちゃまたちに襲われるなんて、ありえないもの!!


(ここに定期的に来てそうな双子ちゃんならまだしも、中央の光の子と南の水の子まで来てるとか、ホント意味わっかんないし~~~~!!)


 そう考えればベビフェスが動物園ゾーンで暴れたのも、大帝陛下の指示かもしれない。

 私を植物園ゾーンに追いこんで、こうやって確実に息の根を止めるために!!


 なんて恐ろしい方! やっぱり噂は本当だった!!



「もう、わたし……どうしたらいいのよ!!」


「……っ!」



 詰んだ。わたしの人生詰んじゃったぁ。

 わたしはただ、誰よりも美しく、麗しくありたかっただけなのに!


 こんな無様で、ボロボロで、やつれた顔で死ぬの?


 こんな……こんなぶちゃいくな顔で終わり!?



「間條さん……」


「ひっ!! いやっ!!」



 伸びてきた死神の手を反射的に打ち払う。

 疲れきった今のわたしにはもう、このくらいの抵抗しかできない。


 やぶれかぶれの擬態で“間條凛凪”の姿を取ったけど、それがいつ解けるかもわかったもんじゃない。

 バレたら、リリエルジュの師匠やってるこいつが、魔族デモニカであるわたしを見逃すはずがない。



「ねぇ、わたしはどうしたらよかったの? どうしたら生きていけるの?」


「………」


「答えてよ、答えなさいよ! うわぁぁぁん!!」



 みっともなくわんわん泣き出す。

 女の涙は美しく流してこそなのに、今のわたしはバカみたいに泣くことしかできなかった。



      ※      ※      ※



「もーいやっ! 死ぬる子は眉目びもくよし! 瑠璃はもろし! 佳人かじん薄命~~~~!!」


「間條さん……」


 目の前で、間條さんが泣いている。

 大人の女性が、子供のように泣きじゃくっている。 


 そこから感じる悲痛なほどの苦しみと、絶望が、俺にも伝わってくる。


(間條さん……きっと、すっごく辛いことがあったんだ!!)


 そういえば、間條さんが弁当屋さんをやめた理由……家庭の事情だったな。

 俺の知らないところで、彼女は今日まで想像を絶するほどの苦労を重ねてきたに違いない。


 それを思えば、俺の理想とかけ離れたこの泣き崩れた姿にすら、愛しさがこみあげてきた。



(やっぱり俺は、この人のために力を尽くしたい!)


 俺にできることを考えろ。

 大して話もしていない、ほぼほぼ他人の俺に……何ができるのかを!!



「……間條さん!」


 俺は彼女の両肩を、手を叩きつけるくらいの勢いで掴む。


「ひぇっ」


「俺の目を見てくれ」


 いつか、泣いている姫様を勇者くんが励ましてた。その真似だ。


「大丈夫、ほら、大丈夫」


 俺は精一杯に優しく微笑んで、間條さんに笑いかける。


 絶望の淵に落ち込んだ人に必要なのは、傍に誰かがいるって伝えること。


 だから今回は、俺がそれを彼女に伝えるんだ!



      ※      ※      ※



「大丈夫、ほら、大丈夫」


 わたしの肩を掴んで逃がさないようにしながら、死神が笑っていた。

 泣きじゃくるわたしの無様が心底楽しいって感じで、アルカイックスマイルを浮かべていた。


(あ、悪魔。いえ、それ以上の…………!)


 涙が一瞬で引っこんだ。


 無だった。


 自分が理解できない強大な存在を前にしたら、矮小な個なんて動くことすら許されないのね。



「大丈夫です、大丈夫……」


 ぽんぽんと肩が叩かれる。

 大丈夫って何度も言っているところから察するに、介錯は任せろってことね。


「戸尾鳥、雄星……」


「! あ、わ、名前、覚えててくれたんですね」


 忘れるわけないじゃない。

 わたしを、いいえ、きっと世界すら殺してしまえる最強最悪の化け物の名前なんだから。


「あの、間條さん。俺、キミのことを全然知らなくて、それでこんなことを言うのもおこがましいかとは思うんだけど……」


 肩の拘束が外され、自由を与えられる。

 今からデスゲームでも始めるつもりかしら?


 死の鬼ごっこ。始まって秒でビャッてされてわたしが死ぬゲーム。



「俺でよければ、間條さんの好きに使ってください」


「………」



 ………。



「……え?」


「変に聞こえるかもしれませんが。俺は、間條さんの力になりたい。間條さんのために、協力させてください」


(何を、言っているの? …………ハッ!!)


 ここでわたしは、重要な情報を思い出した。


(こいつが、わたしに惚れている……可能性!!)


 それがここに来て、確信に変わる!


(こいつを、ここで篭絡すれば……!!)


 極限状態のわたしの思考が、一発逆転の最後の一手にGOサインを出す!!



(こいつに、わたしの欲望の種グリードシードを植えつければ……!)


 他の子たちみたいに、わたしの意のままに操れる最強の駒にできる!


「雄星、さん……」


「間條さん……」


 そう考えたわたしは、最後の力を振り絞り……グリードシードを作り出した。

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