第35話 倒せマジョンナ! 幼馴染は最強最高? その2



「逃がしません、マジョンナ!」


「今日はオフなのよ! 欲望の種グリードシードだってライオンとユキヒョウと飼育員の3個しか使ってないんだからーーーー!!」


「それもあとで浄化します!! スキル『黒魔法』ウォーター……」


「撃たせないってーの! ナインテイル!!」


 溜めた大技を放とうとしたアクアに、またマジョンナの鞭攻撃が迫る。

 それをアクアは、また真正面から受けて立とうとして。


 誰かの影が、それに重なった。



「滅多打ちにしなさい!!」


 マジョンナの鞭が9つに分裂してアクアを襲う!

 アクアは……微動だにしない!?


「アクアっ!?」


「大丈夫、ですっ!」


 アクアは迫り来る鞭をじっと睨みつけたまま。

 ディープアクアロッドの先端に溜めた魔力はそのままに。


「スキル『魔力操作』……そして、スキル『バリア』!!」


 あいつが使う守りのスキルを使って。


「はぁぁぁぁっ!!」


 バヂィィィンッ!!


 そのすべての攻撃をはじき返した。



「いやぁぁぁぁーーーー!! やっぱり防いだぁぁぁぁーーーー!!」


「雄星さんから学んだこの力は……無敵ですっ!」


「………」


 なるべく、アクアとあいつが特訓しているときには、顔を出さないようにしていた。

 アクアの戦績がどんどん上がっていくのを聞いても、聞かないふりをしていた。


 でも。

 こうしていざ、目の前で見てしまったら。


「これでフィニッシュですっ! 麗しのダーク四天王マジョンナ! 覚悟ーーっ!!」


 あんなに厄介で、したたかで、脅威だった敵幹部を圧倒するその姿に。


 私は……。



「うわーーーーん! もうダメ! 美人薄命よーーーーーー!!」


「『黒魔法』ウォーター……バスターーーーーーッッ!!」


 出てきた建物へと逃げ帰るマジョンナに狙いをつけて、アクアが必殺のスキルを放つ。

 私のキラライト・パニッシュにだって負けてない威力のそれが、逃げるマジョンナの背中を追いかけて……。


 そのときだった。



「植物さん!」


「動物さん!」


「「建物を守って!!」」


「えっ?」


 いきなり響く、聞き慣れた声。

 そしてその呼び声に応えて現れた、あの子たちのマジカルで作り出された障壁が、アクアのスキルを受け止めた。


 ゴォォォッ!!


「!?」


 強烈な衝突音。

 ブット・バスがビルを一撃で吹き飛ばしたときみたいな音が響いて、力同士が打ち消し合う。


「……っ」


 強大な力の波動にちょっとだけ目を伏せてしまって。

 私がようやく再び視線を上げたときには、もう。


 マジョンナの姿はなくて。

 代わりに建物前の門柱の上に、双子が立っていた。



「アクアちゃん! いくらアクアちゃんでも動植物園の施設を壊すのはダメーー!!」


「こちら、破壊禁止オブジェクトです。よしなに。……それで、アクアちゃんはどうしてバスター撃ってたんですか?」


「コクリちゃん、ミドリちゃん! 今、そこの建物の中にマジョンナが逃げたんですっ!」


 ………。


「「なんだってー!?」」


「あんたらが邪魔しなかったら倒せてたのよ!」


 アクアが、一人で敵の幹部を圧倒して、ね。


「うわー、ゴメーン! でも……」


「あ、はい。わかってます! ここが大事な場所、なんですねっ」


「ごめんねアクアちゃん」


「大丈夫です。私にも……絶対に守りたい場所、できましたからっ!」


 必死に謝るミドリとコクリに、笑顔で大丈夫だと対応するアクア。

 ここに来てすぐのころは、まったく逆のことばかりが起こっていた。


 って、あれ? そういえば……。



「ねぇ」


「うん? 推定アクアちゃんに誘われてホイホイついてきたキララちゃん。どうかした?」


「うっさいわね! あんたらがいるってことはいるんでしょ? あの人。どこにいるの?」


「! そうです、雄星さんはどこにっ?」


「ゆう兄? ゆう兄はトイレ……」


 コクリとミドリの視線が、すぐそこの施設の方を向いた。



 ………。



「お兄さんが!」


「ゆう兄が!」


「雄星さんがっ!」


「「「危ないっ!!!」」」


「……いや、危なくはないでしょ」


 あいつが負けるところ、まったく想像できないし。


(むしろマジョンナが、年貢の納め時ね)


 そんなことを考えながら、私はすぐそばでわちゃわちゃしてる仲間たちを、アクアを見る。


「雄星さんっ! 今すぐ助けに行きます!」


「ダメダメダメ! アクアちゃん最近火力過多だから施設が壊れちゃーう!」


「とりあえず、そのディープアクアロッドの先に溜めてる魔力をなんとかして。話はそれから」


「雄星さーーーんっ!!」


「………」


 必死に自分の師匠の名前を呼ぶアクアは、やっぱり私の知らないアクアで。


「……ん」


 輪から外れて、私は一人。

 胸を締めつけられる苦しさに、グッと唇を噛んだ。



      ※      ※      ※



「ふぅー、スッキリ」


 用事を済ませた俺は、さわやかな気持ちでトイレから出る。

 お礼とばかりにトイレ全体に『洗浄』を使用、業者さんがやったようなピカピカにしたから、後始末もバッチリだ。


(これも郷土愛、郷土愛だ)


 トイレに落書き、ダメ絶対。



「さて、みどりちゃんたちと合流しなきゃなー……」


 発動していたスキル『消音』を解除して、元気な二人が変に遠くへ行ってやしないか、探知系スキルでチェックでもしようかとした……。


 そのときだった。



「え?」


「………はぇ?」



 真正面、ちょうどエレベーターを内包する大きな柱の背中側にあたる、その場所で。


「………間條、さん?」


 俺は、体育座りしてうつむいている間條さんを発見した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る