第34話 倒せマジョンナ! 幼馴染は最強最高? その1



 おやつ時。

 学校の授業も終わって、あとは委員会のお仕事をしようかってときに、あの子を見つけた。


「アクア?」


「あ、キララちゃーんっ」


 校門の真ん中で、私を見つけたアクアは元気に手を振っていた。

 ただでさえ他校の制服は目立つのに、あの子ってば元がいいから人目をすごく集めてる。


 当の本人はそれをぜんっぜん気にしてないけど。



「どうしたのよ? あんたが私の学校に来るなんて初めてじゃない」


「あう、えっと……えっとね」


 下駄箱のところで合流した私の質問に、アクアは少しだけ、いつもみたいなもじもじあわあわをしてから。


「一緒に、来て欲しいのっ!」


 突然、私の手を強く掴んできた。


「!?」


 アクアの方からそんなことをされたのは、初めてのことだった。



「ちょ、ま」


「お願いっ、キララちゃんにも一緒に来て欲しいのっ!」


「なに、えっ……!」


 そのままぐいぐいと引っ張っていこうとするアクア……って。


「ちょ、まち、まち……待ちなさいってば! 委員会の仕事預けてくるから!」


「え、あっ!」


 私が胸に抱いてる資料が挟まれているバインダーに気づいて、アクアが慌てて手を離す。


「ご、ごめんなさい! ごめんなさいっ!」


「いいわよ。アクアのすることだもの」


「あぅ……」


 ふふっ。

 この辺のドジっぽさは、あんまり変わってないわね。



「とにかく、待ってなさい。すぐ行くから」


「う、うん……」


 とりあえずアクアを待たせて、私は仕事を丸投げしに秒で委員会中の教室へと跳ぶ。


「え、鳴神なるかみ委員長……今、窓から」


「悪いけど、“あんたたちでこの仕事、しっかりやるのよ”」


 キィィィン……。


「「はい……」」


 魔法の力……最近はマジカルっていうんだっけ?

 それも使って委員会のみんなを従わせ、私はアクアの元へ切って返す。


「待たせたわね」


「う、ううん。全然……やっぱりキララちゃんって、速いね」


「当然よ。で、どこに行くのよ?」


 なるべくいつも通りになるように、女王候補生アンジェリケらしく毅然とした態度で向き合う。

 そう、アクアの前ではいつだって、私は最強最高じゃないとダメなんだから……!



「あんたと二人のお出かけなんて久しぶ」


「えっとね、一緒に動植物園に来て欲しいの」


「………」


「キララちゃん?」


「………」


「キララちゃーん?」


「…………………………はぁ」


 まぁ、わかってたけど~~~~~~~~?


(どーせ雄星あいつ絡みだってわかってましたけど~~~~~~?)


「?」


 別にね、もしかして私と一緒にアーケード街デートしたいとか言ってくるかなー、とか?

 そういうのはこれっぽっちも、1ミリも想像してなかったけど~~~~~~?


 ……ふんっ、だ。



「……たしか、今日はミドリたちとデートしてるんだっけ?」


「う、うん」


「確かあんた、お弁当3人前作って渡すってチェインで書いてたわよね?」


 私たちにとって、地球人アーシアの食事なんておまけみたいなものなのに。


「だって、今日のデートは私たちがドライブに行ったその代わりだーって、二人が……」


「なら、今日は二人に任せればいいじゃないの」


 稀人レアブラッドとの交流は、別に誰がやってもいいじゃない。


「……でも、気になるんだもん」


「もしかして、午前中にあった強い従魔サーヴァント反応のこと? あれもすぐ倒されてたでしょ?」


「そうじゃなくて、でも、うぅ……」


「………」


 なんでそんなに、ガンバろうとするのよ。


 あんたは私の……。



「…………はぁ~~~~~~」


「キララ、ちゃん?」


「行くんでしょ? ならちゃっちゃと行くわよ?」


「あっ! うんっ! ありがとう、キララちゃんっ!」


 幼馴染アクアが、私の知らない顔で笑っていた。



      ※      ※      ※



「せーのっ」


「「リリエルジュ、エマージェンス!」」


 時短のために変身した私たちは、堂々と空を飛んで動植物園へと向かう。


「飛ぶのも安定したじゃない」


「うん! 『飛行』のスキルを使っているの!」


「……あ、そっ」


 信号も何もない空を飛べば、ものの数分で私たちは目的地に到着した。



「わ、綺麗なビオラ」


「ほら、何やってんのよ。人探しするなら足で稼がなきゃ――」


 地上に降りて、さぁこれからってタイミング。



「えっ?」


「えっ?」


「えっ?」



 目の前の建物から、やつれた顔の麗しのダーク四天王、マジョンナが出てきた。



「ばっ!? ちょっ! まっ!」


「マジョンナ!」


「スキル『黒魔法』ウォーターバレット!!」


「!?」


 この場で誰よりも“早かった”のは、アクアだった。


「ひえぁぁぁぁ~~~~~~~!!!」


「待ちなさい!」


「アクア!?」


 ディープアクアロッドを即座に構えたアクアが、出会い頭で驚いていたマジョンナに容赦なく水の弾丸を叩きこむ。

 たまらず逃げだすマジョンナに、私が名前を呼ぶそのわずかな時間で、アクアは大技を決めようと力を溜めていた。


「スキル『黒魔法』――」


「死んでたまるかってのよ~~~~~~~~!!!」


「そんなの効きませ」


「アクア危ない!!」


「んへぁっ?」


 マジョンナの鞭を使った破れかぶれの攻撃から、思わずアクアを庇っていた。

 直前までアクアがいたところを鞭が叩き、タイルの石が砕けて跳ねた。


「キララちゃん!?」


「あんた! 今あいつの攻撃真正面で受けようとしてたでしょ! 危ないじゃない!」


「え、うん」


「うん!?」


 この子はまた無茶しようとして……!


「キララちゃん」


「なに!? ……!?!?」


 呼ばれて顔を向けた。

 また、知らない顔がそこにあった。


「大丈夫。大丈夫だよ」


 まるで私を分からず屋の子供みたいになだめすかしてアクアが笑う。

 いつも通り優しい、でも、これまでとは違う微笑みで。



「私はもう、大丈夫」


「!?」



 その言葉が。

 私の心のすごく深いところを、ザックリと容赦なく、鷲掴みにした。

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