第33話 雄星さん大ピンチ?! 魔法の国の知りたがり少女 その2


「交尾しましょう、お兄さん」


 ベンチの上で仰向けに寝かせられたたまま動けない俺の上に跨って、ピクシーミドリが妖しく微笑む。


 っていうか交尾? 交尾って言ったかこの子!?

 なんで!?


「ぁ、ぅぁ……!」


(待て待て待て! 何がどうしてそうなった!?)


「さっきも言いましたが、わたしたち法族エルマ世界樹ユグドーラから生まれます。果樹のように実がなって、落ちて、割れて、中からわたしたちのような久遠少女エルジュか、この子みたいな魔法動物アニマが出てくるわけです。桃太郎ですね」


「キュッ」


 頭の中で、割れた桃からスポーンっとアクアちゃんたちが飛び出す絵が浮かぶ。


「そうです。そんな感じです。わたしたちはそうやって増えるので、地球アースの人たちがするような生殖活動を行なう必要がないんですよね」


 だから、とピクシーミドリが、手でまさぐりながら言う。


「興味あるんです。どういうわけか、エルジュの体は“そういうこと”ができるようになっているみたいですし、なら、やらない手はないですよね」


 ないですよね、ではない。


「? 何か問題ですか?」


 なおも抵抗する念を届ける俺に、ピクシーミドリは不思議そうに首を傾げた。


「お兄さんの国では、未成年者に対する淫行を禁じる法律がありますよね? でもあれは、心身の未成熟に乗じた不当な手段によって行われるものであると定義されています。ですがわたしの心身はともに成熟しており、お兄さんに向ける気持ちも興……好意があると自覚して行なっています。何より、故国においてそれぞれが正しく成人と認められているのですから、何も問題はありません。完璧な理屈です」


「!?!?」


 恐ろしいほどの理論武装。

 だが、俺は聞き逃してはいない!


(今、興味って言いかけただろ!)


「興味とは好意に至る最初の感情であると言われています。つまり広義においてはこれも好意。はい論破、論破です」


 ピクシーミドリがヘコヘコと腰を揺する。

 明らかに俺の一部分を狙い撃ちする動きに、俺は心を燃やした。


(こんなところでしでかして、誰かが来たらどうするんだ!)


「来るわけないじゃないですか。今の私、変身してますよ?」


(あっ)


 おまじない。

 魔法少女のために世界が都合よくいろいろやってくれるマジカルオブマジカル。


 それは今この瞬間も、魔法少女ピクシーミドリのために効果を発揮していた。


「そう、ここには誰も来ない。二人っきり。お兄さんに逃げ場なんてないんです」


(うおおおおーーーー!!)


 全身から危険信号が出まくっている!



「法的にも、物理的にも問題なし。今、すべての関門は突破されました」


(俺の自由意志!!)


「さぁ、お兄さん。大人しくわたしの実け……愛の確認作業に付き合ってください」


(本音がまったく隠せてない!!)


 抵抗の意志を強く強く送り続けると、不意にピクシーミドリの動きが止まる。


 直後。



「お兄さんは……わたしのことが嫌いなんですか?」



 ………。


「隙あり」


 ズボンのベルトが外された。


(あっ、こらぁぁぁぁーーーーーーーー!! って、うおっ!?)


 是が非でも体を動かそうとした俺だったが、気づいたときにはもう、手足を近くの植物たちに絡め取られていた。


「ダメですよお兄さん。暴れたら、かわいいみんなが傷ついちゃいますから」


 無詠唱の『黒魔法』、コントロールプラントだった。


「お兄さんがわたしたちに愛情をもって接してくれているのを知っています。わたしたちの成長を、大人として見守る姿勢を取ってくれていることもわかっています。でもそれじゃ、わたしの知的好奇心は満たされません」


 下半身の一部が、外気に触れた。


稀人レアブラッドに選ばれたあなただから……いえ、そんな風なあなただから……わたしは」



「スキル『黒魔法』コントロールプラント」


「え?」



 俺の体を拘束していた植物たちが俺を解放し、ピクシーミドリを磔の格好で縛り上げる。


「ええーーーー!?!?」


「ふぅー……暴れたらダメだぞ? かわいいみんなが傷ついちゃうからな?」


 驚く彼女を前に、俺は乱れた着衣を整え、深呼吸して息を整え勝ち誇った。



      ※      ※      ※



 突然の形勢逆転に、ピクシーミドリは大混乱しているようだった。


「なっ、なんで!?」


「なんでしゃべれるのか? なんで動けるのか? それはもちろん……スキルの力だ」


 俺の持つスキル『自動回復』には、受けた状態異常バッドステータスを時間経過で解除させる効果がある。

 異世界でも耐性系スキルを貫通してくる敵がいたから、その対策に用いたことがあった。


「そんな……!」


「これを覚えるのは中々に難しいんだ。なにしろ、必要があってなぁ」


「あっ」


 察してくれたようで何より。


「おイタが過ぎる弟子には、みっちりと指導してやらないとな?」


 今回はちょーっとやりすぎだし、少しはお仕置きしないとな。

 と、そんなことを考えていると。



「……お兄さん」


 ふと、真剣な口調でピクシーミドリが口を開く。


「なんだ?」


「わたしは間違ったことは、していません」


 真っ直ぐにこちらを見つめる目からは、一点の曇りもない。


「……そうだな。そっちの言い分はわかった。法的にも、物理的にも問題はないってことも含めて、な」


「じゃあ……!」


「でもな、それじゃ足りないものがある」


 そう、ピクシーミドリは条件を整えきれてなかったんだ。


「え?」


「人が交尾を行う際は、必ず両者間による合意を取りつけましょう!!」


 一方による強引な行為、ダメ絶対!!



「……好きですお兄さん! 交尾しましょう!」


「ダメ! やるなら俺をメロメロにしてみせるんだな」


「やっぱり銀髪ロングで褐色肌の乳の長い女じゃないとダメなんですか? ヤダーーーー!!」


 間違ってないがそうじゃない。


「お兄さん! わたしは諦めません! 必ずやお兄さんを小さくてかわいい女の子で発情できる人間にします!」


「まずは序の口、スキル『黒魔法』プラントバレットからな」


「ハッ、まさかこれは自分好みに調教してからいただくという遠大な計かイタタタタッ!!」


 このあと、めちゃくちゃピクシーミドリと特別修行した。

 『自動回復』は覚えられなかった。残念だったね。


「諦めません! 勝つまでは!!」


「まずは反省してから次に繋げような」


「アーーーーーーッッ!!!」


 ミドリちゃんは、クゥちゃんとは違った意味で気をつけるべき相手だった。

 魔法少女の新事実よりも、そっちの方が驚きだよ。

 本当になっ!

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