第32話 雄星さん大ピンチ?! 魔法の国の知りたがり少女 その1



 くまモト市動植物園。

 植物園ゾーン、“お花の休憩所”内、放鳥コーナー。


「………」


「それでね、オウギバトさん。ゆう兄がー」


「………」


「そうそう、うんうん。ワタシもそう思う!」


「………」


「え、ホントに? えへへ~、やっぱりそうかなー」


 双竜こくりピクシーコクリが、オウギバトと話をしている。

 妙に浮かれているのか、彼女は“彼女”に気づいていなかった。


「………」


 その人物は息を潜め、気配を殺し、擬態をフルに使って背景と一体になる。


(あいつら、あいつらあいつらあいつら! やっぱりこっちに来たじゃないのーーーーーーー!!)


 泥にまみれて、跳ね水に濡れて。


(やっぱりこれ、仕組まれてたやつだー!! うわーーーー!!)


 麗しのダーク四天王マジョンナは、己が運命を呪っていた。


(……もう嫌だー! 帰りたいー! とっとと出てけーーー!)


 心で泣き言をわめく彼女は、このあとさらに何十分もコクリがここに居座るなどとは、思ってもいなかった。



      ※      ※      ※



 くまモト市動植物園。

 植物園ゾーン、“お花の休憩所”内、庭園コーナー。


「ぁ、ぇ……」


 その休憩用ベンチの上で、俺は魔法少女にマウントを取られていた。


魔法の国マジックキングダムは、法族エルマという存在たちが暮らす世界です。彼らは国内に点在する世界樹ユグドーラから生まれ、夢と希望を糧に、回帰の眠りニルヴァに至るまで生を謳歌しています」


 俺の上にまたがっている魔法少女……ピクシーミドリが、自らの故郷について語っている。

 それはこうなる直前に、俺が彼女に故郷について尋ねたからだ。


「ユグドーラからは久遠少女エルジュ魔法動物アニマが生みだされ、それらをまとめてエルマと呼びます。わたしがエルジュで、この子がアニマです」


「キュー!」


 霞む視界でピクシーミドリが微笑むのと、その隣で鳴き声を上げる、彼女の使い魔を捉える。

 指を動かそうとしたが、指先がピクリと動いた気がしただけで、実際に動かせたのかどうかすらわからない。


「エルジュはみんな、この姿……お兄さんの世界でいうところの10才くらいの女の子にまで成長すると、それ以降、基本的な姿はもう変わりません。マジックキングダムではそれが成人の証になります。ほら、わたしたちと、同じ年月を生きた地球人アーシアの子とでは、だいぶ心の在り方も違いますよね? わたしたちの方が“大人”なんですよ」


「ぅ……」


「あぁ、無理に動いちゃダメですよ。魔法の毒マジカルポイズンはこれでもギリギリに配合したものなので、必要以上に毒が回ったら、お兄さんでもちょっとどうにかなっちゃうかもしれません」


「!?」


 驚きに目を見開けば、刹那に目の焦点が合い、相手の顔を一瞬だけだがハッキリと見ることができた。


(あの目は……!)


 ピクシーミドリが俺に向けていた視線は。


「お兄さん。わたしたちを、今日までどういう目で見ていましたか?」


 あれはまるで、実験動物を見るような――。


「かわいくて、未熟で、発展途上な……アーシアの女の子と同じように見てましたよね?」


 覆いかぶさられ、至近距離までピクシーミドリの顔が迫る。


「ぶっぶー、残念。わたしたちは、エルマ。アーシアじゃありません。そもそもが、別の生き物なんですよ」


 触れ合っているところから、体温が伝わってくる。

 俺よりもやや温かいそれは、寒さを感じ始めてるこの季節には心地いい湯たんぽのようで。


 それはこの世界の子供が持つそれと、何も違わないもののはずなのに。


「ふっふっふ。もっと、ちゃんと、わたしたちを見てください」


 こちらを射抜くほど強く見つめるその視線が。


「……ね、おししょーさま♪」


 彼女がそれらとはまったく別の、異質なものであるという事実を、俺にこれでもかというほどに訴えていた。



      ※      ※      ※



「さぁ、お兄さん。もっともっとわたしの“したいこと”に、付き合ってください」


 そう言ってピクシーミドリが、俺の上着に手をかける。

 しっかりと服の造りを学んでいるんだろう、あれよあれよという間に脱がされて、はだけさせられてしまった。


「これが……お兄さんの体。さっきワゴンでわたしを押しつぶした、たくましい……肉体」


「ぅ……」


 抵抗しようにもまだ体が動かない。

 今はただ、ピクシーミドリにされるがままだ。


「お兄さん。わたし、とても興味があるんです」


 彼女の手が、はだけた服の隙間から俺の素肌に触れて、撫でまわしてくる。

 温室で温められた手は、少し汗ばんでいるように感じた。


 その手が目指す目標地点は、俺のお腹よりもっと下。



「ぅぁっ」


「あ、痛かったですか? ごめんなさい、加減がその……わからなくて」


「ぅ……ぁ……」


「あ、そうですね。痺れてたら意思疎通が難しいですよね」


 悶える俺に対して何かひらめいた様子のピクシーミドリが、不意におでことおでこを触れさせてきて。


あなたとお話したいリリエスペラ


「!?」


 直後、何かの補助魔法がかけられたような感覚があった。


「はい。お兄さんの話したいことが、わたしに伝わるようになりました」


(!? なんだって!?)


「聞こえます。驚いてますね」


 どうやら念話のような状態になったのだと理解して、俺は迷わず思念を送る。


(ピクシーミドリ! こんな真似して、いったい何をしようっていうんだ!?)




「交尾です」


「!?!?!?!?」



 直球ドストレートオブドストレート。

 あまりにも直接的な一言に、俺の頭がスポーンっと真っ白になった。

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