第29話 主役交代? コクリの勘違いとミドリの秘密計画!


 とんでもなくいろいろなことがあった動植物園でのひと時も過ぎ、お昼。

 俺は園内のレストハウスで休憩していた。


「おー、アクアちゃんさすがだ」


 今日のためにとアクアちゃんが作ってくれたお弁当を開けて、中身に感嘆する。


(から揚げにミートボール、卵焼きにきんぴらゴボウ。酢の物はしっかり分けてあるし、ごはんが焼きおにぎりなのは手間がかかってる)


 多分これ、どれ一つとして市販のじゃないぞ。

 アクアちゃん、マジで家事スキル高い。



「いただきます」


 手を合わせ、箸を手に取りいざ実食。


「うん、うん……うん!」


 周りに誰もいないな? よし。


「んんーーーー! うーまーいーぞーーーー!!!」


 両手を突き上げ思いっきり叫ぶ。

 いや、本当に美味い!! マジで美味い! 


(味付けが完全に俺の好みに合わせてある!)


 甘めに仕上げられた卵焼きはもちろん、から揚げもジューシーさ優先されてるし、酢の物に海藻が多めなのも完全に俺のツボを押さえている。


「ヤバいな……胃袋完全に掌握されてしまったかもしれない」


 焼きおにぎりの醤油の塗り具合、焦がし方に至るまで完全に俺好みにされてる。

 完敗だ。


(もともと料理の腕前は確かだと思ってたが、ここに来て完全に優劣つけられたなぁ)


 趣味とはいえそれなりに長い期間続けていたものを追い越されてしまって、ちょっと複雑。


「でも、それくらい一緒に食卓を囲み続けたってことだよな」


 アクアちゃんと同居を始めてから、もう1ヵ月をゆうに越している。


「魔法少女……リリエルジュたちと関わって、もう3ヵ月目に入ったのか」


 思えば遠くへきたもんだ。

 なんて、ちょっとだけ遠い目をした。



「それにしても……みどりちゃんとこくりちゃん。時間かかってるな」


 レストハウスに居るのは、俺一人。

 今日のデート相手である二人は今、話すことがあるからと席を外していた。


 先に食べてていいということなので、こうして美味しくいただいているワケだが……。


「ま、ごはん食べてたら戻ってくるよな」


 チラと二人が歩き去っていった方を見て、再びアクアちゃんのお弁当に集中する。


「うん、美味い! 美味い! 美味い!!」


 一口食べ進めるごとに、大変だった午前の疲れが癒えていく気がした。



      ※      ※      ※



「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと。ミドリ! なになに~?」


「……ここまでくれば、大丈夫」


 お兄さんの前じゃさすがに話せない話題だと思って、わたしは妹……コクリを連れて近くの建物の中に入った。

 繋いでた手を離すと、コクリはしきりにお兄さんのいる方を気にして挙動不審だった。


「それ」


「それ?」


「さっきからずっと落ち着きがない。いつも落ち着きがないけど今はその比じゃない。理由を教えて?」


「ぴぇっ。な、ななななんでもないよ? ないって、えへへ……」


 わたしの指摘にコクリが顔を真っ赤にして言い訳し始める。

 ちょっと嬉しそうなのが気に入らない。


(間違いなく、お兄さんと何かあった)


 おそらくはきっと、逃げたダーク四天王をわたしが追っていたあの短い時間。



「……お兄さんに、何か言われた?」


「ぴょっ!?」


 コクリが、さっきから何度も鳥みたいに鳴いている。

 これは、何か隠し事があるときの癖だ。


 妹は、姉から決して逃れることはできない。


「ネタは上がっている。ここは素直に白状するべき」


「あぅぅ……」


「さぁ、なんて言われたのか教えて」


「え、えっと……それは」


「それは?」




「………………好き、って言われた」


「!?!?!?」




 ちょっと、聞き捨てならない言葉だった。


 でも大丈夫。お姉ちゃんは慌てない。

 慌てないで事実を確認。



「面と向かって?」


「面と向かって……うーん、こう、こっちを見ながら思わずこぼした感じだった」


「で、好きって言われたの?」


「うん、それは本当。ハッキリ好きって言われた……うわー、どうしよどうしよ!」


「………」


 うん。これは十中八九コクリの勘違い。

 この子は昔から、思いこんで突っ走るところがある。


 面白いから誤解は解いてあげないけど。



「えへへ。いやー、まいったねー、こりゃー。ゆう兄ー、ワタシのことが好きだったなんてさー?」


 残念ながら妹よ。お兄さんの好みはわたしたちのような魅惑のミニマムボディではない。

 お兄さんは銀髪ロングで褐色肌のナイスバディこそがへき


 つまり灰髪ロングのクゥちゃんはいい線行っている。

 日サロ行くと吉。



「うへへぇ、アクアちゃんにも悪いよねぇ。でも、えへへ~……ゆう兄がワタシを好き、うぇへへ~~」


 くねくねしている発情した雌そのものな妹については、この際どうでもいいとして。

 わたしはわたしの中に生まれた疑問を解き明かす方を優先する。


稀人レアブラッド認定のおかげで、いくらでもお兄さんに近づけるようになった現状、お兄さんと“そういう関係”になることも、多分ブライト様は推奨している)


 でも普段の振る舞いから察するに、お兄さんはわたしたちを異性として見ていない。

 もしそうだったら、とっくにアクアちゃんがお兄さんとねんごろになっているはず。


(アクアちゃんやキララちゃんみたく、同居したりぶつかったり、真正面から信頼を得てくパターンもないわけじゃない)


 正直に言えば、この線が一番仲良くなれる可能性がある。

 お兄さんは誠実な人だ。だからこっちも礼儀を尽くせば必ず応えてくれる。


(……でも、それじゃダメだ。わたしの知りたいことを知ることができない)


「なんだろ、胸がポカポカする。頭も熱い。なんだろ、なんだろー!」


 その場でジタバタ足踏みし始めた妹をスマホで撮影しながら、より深く考える。


 そうして出した結論は。


(……やはり今日、ここが勝負所)


 準備していた計画の実行を改めて決意する。

 なぜならば。


(今日のわたしは、お兄さんと禁断の関係になるための、大いなるステップを踏むのだから!)


 チームピクシーのみんなを出し抜き、お兄さんと“特別に仲良く”なる。

 それこそが、今日ここにいるわたしの、最重要達成目標なのである。



「ねぇねぇ、どうしようミドリ! ゆう兄とワタシが付き合っちゃったらさー!」


「うーん、そうだね。きっと楽しいヨ」


「そうかな? そうかなっ? えへへ、やったぁ~! ゆう兄はワタシを好き~♪」


 有頂天な妹をそのまま躍らせながら、わたしはレストハウスのある方へと目を向ける。


「スキル『神眼通』、加えてスキル『透視』」


 瞳を凝らし、壁の向こうを見通して、美味しそうにお弁当を食べるお兄さんの姿を確かめる。


(アクアちゃんのお弁当を食べるお兄さん……興味深い)


 いつ見てもわたしの関心をいてやまないその姿を、じっくり穴が開くほど観察。

 やっぱりわたしが知りたいことを知るためには、あの人から協力を得るのが一番いい。


(勝負は、植物園ゾーンにある常設施設……お花の休憩所!)


 わたしのデートは、ここからが本番だ。

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