第28話 守りたい! みんなが作った、大切で素敵な場所 その2



「フゥン! 覚悟はいいが、防戦一方では最後は突破されるのみ! やれ!」


「グンッグンッ!!」


「負け、ないーー!」


 爆発、爆発、また爆発。

 辺り一面手当たり次第に破壊しようとする促成従魔グングンサーヴァントの攻撃を、ピクシーコクリが必死に防ぐ。

 魔力を使って動物たちを呼び出して、みんなの助けを借りながら、何度も何度も。


「くぅ、うぅぅぅ!!」


 時に自分の体すら盾にして、爆発からこの場所を守る。


 それを俺は、欲望を抜かれ満身創痍の被害女性を庇いながら見つめていた。



(これは、コクリちゃんの“意地”の戦いだ)


 魔法少女のおまじないがあれば、戦いの爪痕なんて跡形もなく消え去る。

 だから今、彼女がやっていることに、極論意味なんてない。


 でもこれは、そんなお利口さんな話じゃない。


(コクリちゃんはここを守りたいから、絶対に傷つけたくないから、この戦い方を選んだんだ)

 

 俺はそれこそが、魔法少女の戦い方なんだと理解する。

 そして、彼女がなぜそうするのかを想えば、俺の胸の中に熱いものが沸々と湧き上がった。


(だったら、俺にできることは……見えない範囲でその手伝いを――)


 なんて、スキルを準備していたその矢先。



「コクリが守るなら、わたしが攻めればいい」


「なに!? ぐおおおおおお!!」



 敵をまとめて巻き込んで、ミドリちゃん……ピクシーミドリの奇襲が決まる。

 無数に撃ちこまれた種の弾丸は、ただの一発として動植物園を傷つけはしなかった。


「ミドリ!」


「お待たせ。いつもと違う敵っぽいけど……」


「ワタシたちが揃ったら、負けなしだよ!!」


 合流した二人が力強く頷き合って、手を繋ぐ。

 横に並んで、恐れることなく巨大なフラミンゴ型のサーヴァントと対峙する。


「ん、思い知らせよう」


「ワタシたちが二人揃ったら……サイキョーなんだって、ね!」


 その背中に。


(もう、大丈夫だな)


 俺の出る幕はもうないのだと悟った。



      ※      ※      ※



「フゥンッ! 羽虫が二人に増えようが、オレの大作戦の前にはただの小事! やれ、グングンサーヴァント!!」


「グングンサァァァーーーーーヴァーーーーーント!!」


 援軍の登場に、それでも意気軒高なデモニカ陣営だったが。


「ミドリ!」


「コクリ!」


 ピクシーミドリが戦いに加わってからは、一方的な展開だった。


「爆破だ!」


「させないよ! みんな!!」


 敵が羽根をバラまこうとすれば全力で防御に回るピクシーコクリが、爆発前に羽根を破壊。


「隙だらけ」


 そのあいだに懐に潜り込んだピクシーミドリが、敵のお腹に寄生植物のようなもの植えつけ、爆発的に成長させてエネルギーを奪う。


「コクリ!」


「ミドリ!」


 反射的にグングンサーヴァントが暴れだせば、今度はピクシーミドリが太い蔦状の植物を召喚し、敵の動きを妨害。


「スキル『獣装』! クマの手!!」


「グボォォォーーーー!?」


 その隙にピクシーコクリが赤い巨体を駆けのぼり、その顔面に強烈な一撃を加える。



 短いやり取りで防御と攻撃を切り替え、とめどない波状攻撃を加える二人の魔法少女。


「うおおおおお! バカなバカなバカなバカなーーーー!?」


 相当の自信があった様子の知謀のダーク四天王ベビフェスも、サーヴァントもろともその連携を前になすすべない様子で。


召喚された植物みんな、力を貸して! スキル『黒魔法』バインドプラント!」


「グンサッ!?!?」


「今だよ、コクリ!」


 ミドリちゃんのスキルで敵が大きな隙を見せた、その瞬間を逃さず。


 決着の時が来る!



「いっくぞーーー!!」


 『獣装』を発動させて、ピクシーコクリが天空高く飛び上がる!


魔法少女技リリックアーツ!」


 落下とともに錐揉み回転、篭手をうならせ突撃し!



「コクリ・アニマルパレード!!」



 周囲に召喚された動物たちが、コクリちゃんとともに敵に突貫!

 次々に敵サーヴァントに体当たり!!


「サヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァ!!」


「とどめぇーーー!!」


 最後にピクシーコクリの必殺の一撃が決まり、殴られたサーヴァントは光に包まれて。


「サーーーーヴァーーーーーーン……」


「みんなの平穏は……」


「ワタシたちが、守る!!」


 消えていくサーヴァントをバックに、二人が勝利のポーズを決める。

 その瞬間、グングンサーヴァントを包む光がはじけ、その身を浄化、四散させた。



「フゥンッ! 援軍という想定外があったが、必要なデータは集まった。さらばだ! 次はないと思え!」


 負け惜しみとともにベビフェスが、一度だけこっちを見てから逃げていき。


「ん、う……あれ?」


 俺が守っていた女性に、消えたサーヴァントの光が注がれ意識を取り戻したのを見届けて。


(これで一件落着、だな)


 一部始終を見届けた俺は、ホッと一息。


「ワタシたちの、勝ちぃ!」


「わたしたちは、サイキョー」


 喜びを分かち合う双子のキラキラな姿に、もう何度目かもわからない感動を覚えるのだった。



      ※      ※      ※



 そして。


「うぅ、リリエルジュになっちゃったから、間條さん? もうとっくにおまじないで遠くに行っちゃったよね。ごめんなさい……」


「仕方ない仕方ない」


 しょげた様子で俺に謝るコクリちゃんに、気にしないでと彼女の頭を撫でて応えた。

 ミドリちゃんは念のため、逃走したベビフェスを少しだけ追跡してくれている。


「でも……」


「その間條さんを、他ならぬコクリちゃんたちが守ってくれたんだ。感謝しかないよ」


 魔法少女のおまじないは、被害女性のように気を失いでもしない限り、自然と足を戦場から遠ざける。

 現に、当の被害女性も目覚めてから、不思議そうな顔を浮かべながらも、そのままの足でこの場から去っていった。


 であればもう、この場に間條さんはいないと考えていいだろう。



「あう。でも、ゆう兄残念そう……」


「うっ」


 さすがに残念でなかったかと言われれば、否定できない。

 なにせ、望み薄だった想い人と、偶然とはいえ再会できそうだったわけだし……。


 でも、それでも。


「俺は、コクリちゃんの言葉が嬉しかったよ」


「ふえ?」


「この場所を守るために頑張った人がいるって言ってたけど、それって、例の災害の時のことだろ?」


「あ……」


 きっと、俺と出会う前、彼女はどこかで知ったんだ。

 そしてその時、この場所を守りたいって、そう思ってくれたんだ。


 その想いは、きっと。


「ありがとう、ここを素敵な場所だって言ってくれて。俺の故郷を、気に入ってくれて」


「!?」


「コクリちゃんのおかげで俺も思い出したよ。ここが、とっても大事な場所だったって」


「ゆう兄……」


「本当に、感謝してもし足りない。これからは俺も、もうちょっとここに通おうかな」


「ホント!? また一緒に来れる?」


「もちろん。その時はまた、一緒に見て回ろうな」


「やったー!!」


 喜び飛び跳ねるコクリちゃんを見て、心が温かくなる。

 彼女のおかげで、俺は今日、とっても大切なことを思い出した。


 それを一言で表すならば、そう。



「好き」


「ふぇ?」



 好意、好感って言ってもいいかな。

 あるいはこういうのを、郷土愛っていうんだろうか。


 ともかく俺は、これからはもっと、自分のすぐ近くにあるものにも目を向けようと思った。


「え、あの、ゆう兄。その、え?」


「ん?」


 気づくと、目の前でコクリちゃんがもじもじしていた。

 うつむかれててよく見えないが、耳まで真っ赤だ。


「その、それって」


「お兄さん、ただいま。やっぱり見失った」


 と、そこに追跡を終えたミドリちゃんが戻ってくる。


「お帰り、ミドリちゃん。お疲れ」


「うん。……それで、コクリはどうしてそんな気持ち悪くうねうねしてるの?」


「うねっ! な、なんでもないヨ!?」


「「???」」


 いつもと明らかに違うギクシャクした動きをするコクリちゃんに、俺もミドリちゃんも首をかしげるしかなかった。



「てってって、っていうか! これからどうしよっか? どうする!?」


「あー、そうだな」


 挙動不審なままのコクリちゃんの言葉に、俺は思案する。

 いろいろなことがてんこ盛りで情緒がぐちゃぐちゃにされたのもあって、正直に言うと俺は少し、疲れてしまっていた。


「デートは続行」


「ミドリちゃん?」


 だがそんな俺の気落ちを見抜いてか、ミドリちゃんがいつもより目力強く俺を見て。


「次は、お兄さんに癒やしの時間を提供する」


 そう言って彼女が取り出したのは、園内の案内マップ。

 細く愛らしい指がさす場所は、くまモト市動植物園が誇るもう一つの大コンテンツ。


 植物園ゾーンだった。

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