第27話 守りたい! みんなが作った、素敵で大切な場所 その1


 ピクシーコクリが欲望促成栽培グングングリードによって生まれた促成従魔グングンサーヴァントと対峙する、その少し前。


「銀髪ロングで褐色肌のナイスバディで乳が長い女……銀髪ロングで褐色肌のナイスバディで乳が長い女……」


 ミドリは一人、雄星から聞いた人相を独自解釈しながら、捜索を続けていた。


(なでなで、はいつでもできる。やはり最低限壁ドンからのウィスパー、いっそさっきみたいな押し倒されシチュを……ふおお、捗る)


 いくつものご褒美シチュを妄想しながら目を配り、辺りを見回す。


 その時。


「グングンサァァァーーーーーヴァーーーーーント!!」


「!?」


 突如聞こえた叫びは、聞き慣れた敵の声とは少し違っていて。


「あっちは……コクリたちの方!」


 正門のある方に赤い巨影を確認すれば、即座に妄想モードから魔法少女モードへと、ミドリは思考回路を切り替えた。


「リリエルジュ! エマージェンス!!」


 印章を構え瞬く間に陰陽師風魔法少女へと変身し、急ぎ救援に向かう。



「………」


 ミドリが去ったあと。

 その様子を陰からこっそり眺めていた銀髪ロングで褐色肌のナイスバディで乳が長い女、間條まじょう凛凪りんなこと麗しのダーク四天王マジョンナは、危機が去ったことにホッとその豊満な胸を撫で下ろした。

 今の彼女は擬態を解除し、全身全霊で魔力を使い自らの存在感を消していた。本来の彼女の気質からは考えられない行ないだったが、今のマジョンナに迷いはなかった。


「はぁ~~……死ぬかと思った」


 ダーク大帝の計らいで訪れたテーマパーク。

 そこで動物たちに癒やされていた彼女を襲った悲劇。


(いやいやいや、平日の昼から社会人であるアレがいるとか予想しろって方が無理でしょ!)


 不意に背中に感じた魂を瞬滅させんとする熱視線。

 濃厚な死の気配にも動じた姿を見せず通りの角まで歩ききった自分を、マジョンナは褒めてやりたかった。



(案の定、すぐに私を探して分散しだすし……これ、やっぱり私に惚れてるとかじゃなくて抹殺対象としてマーキングされてんじゃないの?)


 初対面の時に感じた、死の具現……戸尾鳥雄星が自分に惚れている可能性。

 そこらの地球人程度一瞬で骨抜きにする己の魅力を考えればない話ではないと思うが、慎重な諜報員である彼女からすれば、未だ半信半疑。

 というかたとえ億が一そうだったとしても、そこから発展させて相手を篭絡し支配できるビジョンが、今のマジョンナには一切見えてこない。


 彼女の脳内シミュレーションは、常にデッドエンドを示していた。



(うう、帰りたい。でもこのまま半端に帰ったら、大帝陛下の気遣いを無駄にしたって消されるかもしれない……)


 なんなら、この状況すら大帝陛下が深いお考えのもとマッチングした可能性すらあるのだ。

 マジョンナの思考に、撤退イコール死という答えが浮かび上がる。


 見つかれば死、逃げても死。



「と、とにかく動物園ゾーンにはいられないから……」


 追い詰められたマジョンナの視線は、園内の植物園ゾーンの方へと向いていた。



      ※      ※      ※



「ゆう兄!」


 振り返ると、ゆう兄が倒れてる女の人を『バリア』で守ってくれていた。


「こっちは大丈夫だ! 思いっきりやってやれ!」


「うん! わかった!!」


 ゆう兄が見ててくれる。なら、ここはいい所見せないとね! 


「やれ! グングンサーヴァント!!」


「グングンッ! サーーーヴァーーーーーントッ!!」


 ちぼーのダーク四天王とかいうのの命令を聞いて、強そうなサーヴァントが叫びをあげた。


(声が聞こえない。あれは、動物じゃない!)


 動物だったらお話ができる。できないってことは、あれは見た目だけフラミンゴの別物!


「だったら遠慮はいらないよね! いっくよーーーー!!」


 足に力を入れて、思いっきりジャンプ!

 こぶしをギュウッと握って、最初から全力で!


「スキル『獣装』ぉ~~! 猫の爪!!」


 サーヴァントなんてイチコロの、ひっかき攻撃!!


「グンッグンッ!!」


「えっ!?」


「グゥンッ!!」


「うわぁぁぁっ!!」


 翼でガードされて、はじかれた!?


「フゥンッ、グングンサーヴァントを舐めるなよ? そいつの装甲は普通のサーヴァントに比べ、実に3倍の防御力を誇るのだ!」


「だったら!」


 同じところを何度も攻撃して、防御なんてぶち抜いてやる!!


「うーにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ~~~~~~!!」


 両手を使って連続攻撃!

 キララちゃんほどじゃないけど、ワタシだってスピードには自信あるんだからねっ!


「フゥンッ。手ぬるいぞ、魔法少女リリエルジュ~~!!」


「ぅっ、うにゃ~~~~!!」


 バシャーンッ!!


「大丈夫か、ピクシーコクリ!?」


「あいたたた……ゆう兄、へーきへーき! あ、ごめんね。おうちでジッとしててね」


 島を囲う水場に落ちたワタシを心配してくれるクロクモザルさんに、隠れるように言ってジャンプ。

 元の位置に戻ってから、ぶるぶるぶるって身を振って水気をはじいた。


(うー、カッコ悪い所見せちゃったなぁ)


 ゆう兄にあんな顔で心配されるの、なんかヤダッ!



「やれやれ、オレの大作戦はまだ終わってはいないぞ? やれやれぃ! グングンサーヴァントぉっ!!」


「グンッグンッ!!」


 命令を受けて、今度はその場でぐるぐる回り始めるグングンサーヴァント。

 大きく翼を広げたら、その体から赤い羽根をバラまいて……って!


「それは、ダメーーーーー!!」


 両手で円を描いて門を作って、霊獣召喚!


「お願い、あの攻撃を受け止めて!」


 呼び出したみんなが頷いて、敵を囲うように広がっていく。


「ピクシーコクリ、何を……うおおおっ『バリア』『バリア』!!」


 爆発!

 まき散らされた羽根が爆弾みたいに爆ぜて、その衝撃を受け止めた動物さんたちが吹き飛ぶ。

 呼び出された動物さんはやられても無傷で元の場所に戻るだけだけど、ごめんなさい!


「わざわざ攻撃を受け止めた? 非効率的だが、こちらには都合がいい。そのまま消耗させてやる! 続けろ、グングンサーヴァント!」


「くぅぅぅぅ……!!」


 召喚、爆発、召喚、爆発。


「フゥン! オレの大作戦の前に弱っていく一方じゃないか! 所詮は羽虫だな!」


「ピクシーコクリ!」


「だいじょーぶ!」


 消耗していくワタシを心配してゆう兄が声をかけてくれる。

 でも、本当に大丈夫!


「ここは、この場所は……絶対に傷つけさせないよ!!」


 ………

 ……

 …


 それは、ワタシがゆう兄と出会う前の話。

 ミドリと一緒に、くまモト市動植物園に何度目か遊びに来た時のこと。


「ん、なんだろここ」


 受付からゲートに向かうその途中、脇にひっそりと置かれていた……展示物。

 お家みたいなその中に、お話が描かれた絵が飾ってあった。


 そこに描かれていたのは、とっても怖くて悲しい災害があった日の話。

 みんなぐちゃぐちゃにされて、バラバラになって、離れ離れになっちゃう話。


「そんな、こんなのって……!」


 とっても悲しいお話に、ワタシもとっても悲しくなった。


 でも。


「コクリ、まだ続きがあるよ」


「え?」


 お姉ちゃんに、ミドリに言われて続きを読んだワタシは。


「……わぁ!」


 ここでまた、ワタシたちが、動物たちが、楽しい時間を過ごせるように。

 諦めないで頑張って、頑張って、頑張って頑張って頑張って!


 一生懸命頑張って、この場所を作り直してくれた人たちがいたことを、知った。


 …

 ……

 ………


「ピクシーコクリ! 無茶しちゃダメだ!」


「無茶じゃない!」


 ゆう兄がびっくりするのもしょうがない。

 だって、おまじないの力があれば、壊れた場所は直るんだから。

 建物に気をつける必要なんてないもんね。


 でもね。


「ワタシは、知ってる!」


「!?」


「この場所を守るために頑張った、たくさんの人を! ここを大事に思ってる、動物さんたちの心を!!」


 だから!


「ワタシはここを、とっても素敵で大切なこの場所を……ぜぇぇっったいに、守る!!」


 そうしたいって、胸の奥の深いところで叫んでるから……だから、やる!!


 ワタシは、リリエルジュだから!!

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