第26話 ベビフェス襲来! ピクシーコクリと新たなる強敵!



 俺はミドリちゃんと別れ、コクリちゃんとともに、間條さんを探して園内を歩く。


「さすがにここには、もういない、か」


「ドンマイドンマイ! きっとすぐ見つかるって」


 まずは彼女を見かけたオタリアフロアをぐるりと見て回るも、成果なし。


「ワゴンから見たタイミング的に、帰る途中だったのかもしれない」


「だったらゲートの方に行ってみようよ! ダッシュダッシュ!」


「おわ、早い早い!!」


 俺の予想を聞くや否や、即座に手を引きコクリちゃんが走り出す。

 大人と子供のコンパス差があってもなお早い彼女のペース。


(俺のために、こんなに一生懸命に……)


 コクリちゃんの頑張る姿に感化され、俺の足取りもよりしっかりとしたものに変わる。



「あ、ゆう兄! あの人じゃない!?」


「え?」


 先行するコクリちゃんが指差す方向に、女性の背中。


「……いや、違う。間條さんじゃない」


「あう、はずれかー」


 残念ながら、背格好が似ているだけの別の女性だった。


「もう帰り際だったってんなら、さすがにゲートの向こうだよな」


「……まだまだ! 園内にいるかもしれないじゃん! 諦めないで探そう?」


「そう、だな。まだまだ諦めるには早い」


「その調子。えへへ、頑張るゆう兄のが生き生きしてるよ!」


 そう言ってまた屈託なく笑うコクリちゃんに、俺はさらに元気をもらった気がして。


「ありがとう、こくりちゃん」


「ふあ……いひひひ。ゆう兄のなでなで好きぃ~」


 アクアちゃん仕込みのなでなで術で、最大限の感謝を伝えた。



 と、その時だ。


「フゥン! その体、素体として使わせてもらうぞ!」


「「!?」」


 ゲート前広場に突如として響く男の声。

 見れば、さきほどの帰ろうとしていた女性が、若い男に捕らわれその胸に何かを――


「あれは!」


欲望の種グリードシード!?」


 コクリちゃんの声にピクリと反応した男がこちらを見る。


「ほぅ、その言葉を知っているということは……キサマ、この地区を担当する羽虫だな?」


「そう言うお前は……」


「む? 男、お前もコレが何かを理解しているのか? ……なるほどキサマがそうか」


「俺を知っているのか!」


「知っているとも。羽虫どもに面倒な技を教える目障りな地球人アーシアの男め!」


 俺のことを知る若い男は忌々しげに顔を歪め、しかしすぐにそれは邪悪な笑みへと変わる。


「ちょうどいい。キサマもオレの……知謀のダーク四天王ベビフェスの、偉大なる大作戦の礎としてやる!」


 そう男が叫んだ直後。


「ぁあ? ぁ、あ゛あ゛~~~~~!!!??」


 欲望の種を植え付けられた女性の体がビクンとのけ反り、その胸から光を放った。



      ※      ※      ※



「!? なにを……っ!」


 一瞬血を噴き出したのかと見間違いそうになるくらいの、強烈な赤い光。


「そんな! グリードシードの成熟カルマシフト!?」


「なんだって!?」


 女性の胸元で輝く赤い光が収束していくにつれて目に入る、赤い玉。

 あれこそが、成熟した欲望の種!


「そうだ! これこそが我が大作戦を練り上げる過程で得られた新技術! 欲望促成栽培グングングリード!」


「「グングングリード!?」」


「この女の持つさまざまな欲望をまとめて一気に吸い上げて、グリードシードをカルマシフトさせたのだ! フゥンッ!」


 赤い玉を奪い取り、男……ベビフェスが女性を地面に放り捨てる。


「ぁ……あ?」


 地面を転がされた女性の目に生気はなく、以前アクアちゃんに聞いた犠牲者そのもの……いや、下手すると命すら危険な状態かもしれない姿を晒していた。



「純度の高い欲望ではないが、その混沌としたエネルギーは他の追随を許さない!」


「……コクリちゃん!」


「わかってる!」


 ベビフェスが何かする前に、俺は全速力で女性を庇いに走り、コクリちゃんは印章を構える。


「リリエルジュ! エマージェンス!!」


 直後、コクリちゃんは蛍火のような綺麗な緑光に包まれ、シャキンと獣の爪の音が響き。


「夢と希望が咆哮を呼ぶ! ピクシーコクリ、あーばーれーるーぞー!」


 拳法家風の魔法少女衣装に身を包んだコクリちゃん、ピクシーコクリが現れる!


「ゆう兄!」


「こっちは大丈夫だ!」


 被害に遭った女性は保護済。

 俺はあまりにも弱々しく、存在感も希薄なその人を抱えて後方に下がりながら。


(俺の『神眼通』は、しっかりと起動している!)


 ピクシーコクリの変身プロセスを見逃してはいなかった!



「リリエルジュ! エマージェンス!!」


 コクリのコールが響き、同時に流れ始めるBGM。


「……せーのっ!」


 その場でくるんとバク宙を決めるコクリ。背中が見えたあたりでまとっていた衣服が光に染まり、はじけ飛ぶ。

 着地とともにコクリが胎児のようにうずくまれば、巨大でメタリックな鋭い爪が一対、左右からガチンッと彼女の前で嚙み合って、その全身を覆い隠す。


「ガロロロローーーー!!!」


 その周囲を一匹の龍が駆け巡り、一声吠えると爪が砕けて、中から黒のチューブトップとスパッツっぽいインナーを身にまとったコクリが姿を現す。

 直後、流れに身を任せ強制力の導くままに、視点がぐんっと移動して。


「せいっ、はっ、やぁ!」


 演武を披露するコクリ。

 ぐるんっと回し蹴りを放ったところでシューズを装着、爪モチーフの外装が飾られる。

 その後も演武が進むにつれて腕、頭部、胴回りと次々に緑と白主体の衣装が施され。


「はぁーー……はいっ!」


 両手で円の軌道を描き、パンッと柏手かしわでを打てば、前を大胆に開いた半袖の表演服を身にまとう。


「ふぅー……」


 深く息を吐く横顔を左から見て、コクリの髪がお団子サイドテールに編み上げられていく。

 濃い緑の髪がエメラルドグリーンに染まるとともに、彼女の衣装に金の差し色が加えられた。


「……んっ!」


 視点が前へと戻り、チューブトップの胸元に浮かぶ切れ目に薄緑の宝石(さっき手に持ってた印章が同化したやつ)が装着されて、かすかに身もだえする声が聞こえたら、いよいよもって変身は大詰め。

 手袋の代わりに装着される指貫グローブに、シャープなデザインの篭手が重なって、元気なまなざしが前を向く。


 くるり、くるり、魔法少女リリエルジュが舞い踊る。


「夢と希望が咆哮を呼ぶ! ピクシーコクリ、あーばーれーるーぞー!」


 暴れる発言に合わせて追加の演武、魔法少女ピクシーコクリ、変身完了である。


(――実にこの間、0.18秒! 中々のスピード感だ!)



 ピクシーコクリは即座にベビフェスに向かって跳んだ。


「そのグリードシードを、お姉さんの元気を、返せーっ!!」


「フゥン! しゃらくさい羽虫が!!」


「くぁぅ!!」


 だがその真っ直ぐな突進は相手に読まれ、鋭い足捌きによる迎撃のキックに阻まれる。


「そんなに返して欲しければ、力ずくで取り戻してみることだな!」


 ベビフェスが手にした欲望の種を空に掲げる。


「応えろ、グリードシード! この場を破壊し尽くすサーヴァントを生み出すのだ!!」


 叫びに応え、欲望の種がドクンッと一度、力強く胎動した。


 ---


「……クァ?」


「ん、どうした?」


 種が形を得るためのモデルとして狙いをつけたのは、飼育員に世話される一羽のフラミンゴ。

 混沌とした欲の中でも“誰かに世話してもらいたい”という女性の秘めた欲望を起点に、それは顕現する。


 ---


「グングンサァァァーーーーーヴァーーーーーント!!」


「こいつ、は……!」


 欲望の種が、巨大なフラミンゴになって俺たちの前に立ちふさがる。

 赤いのは体だけじゃなく、目も血走ったように真っ赤なそれは、これまで地球で見たどの敵よりも……“異世界ファンタルシアの魔族”に近い雰囲気を持っていた。

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