第24話 双子デート! 行こうよ、くまモト市動植物園!
アクアちゃんとの添い寝騒動。
その裏で、俺は会社の年末進行に向けた前倒しの仕事をバリバリこなしていた。
11月頭の内から溜まった雑務を減らしておくことで、社員がゆったりした年明けを過ごせるようにするための仕事量増加である。
さすがにこの時期は、俺も定時退社というわけにはいかない。
「うおおおおおお!!」
「先輩、日に日に仕事の仕方が化け物染みてきてるっす」
「お前らも戸尾鳥に負けねぇように仕事しろ! だがあいつの真似だけは絶対するなよ!」
「へーい」
それでも明日に予定していた休みは絶対死守!
最終的に予定していた以上の仕事量を終わらせて、俺は帰り支度を整えた。
「お疲れ様でーす!」
「おう、お疲れ! ……あいつそう遠くない内に死ぬんじゃないか?」
「いやぁ、どうっすかね? あれはもうそういう常識で計っちゃいけない気がするっす」
退社の瞬間聞こえてきたやり取りをガン無視し、俺は家路を急ぐ。
信号の待ち時間を利用してチェインを起動すれば、手早く文字を打った。
『お仕事完了。明日は問題なく過ごせるぞ』
送ったメッセージには、1分と待たずに返事が来た。
『やったー!』
と、バンザイして喜ぶ双竜巫女姉妹の妹の方、コクリちゃんのスタンプ。
『了解』
と、クールな顔を浮かべる姉の方、ミドリちゃんのスタンプ。
「……よし」
再び歩き出しながら、俺は自然と笑顔を浮かべる。
明日はきっと、賑やかで楽しい一日になる。
なぜなら。
『ゆう兄、明日は思いっきり楽しもうね!』
『わたしたちとの、デート♡』
魔法少女たちの中でも特にアクティブな二人との、お出かけの日だからだ。
※ ※ ※
翌日。
青々と晴れ渡る晩秋の空の下。
「おーい! ゆう兄ーーーー!!」
動物でお医者さんな有名アニメキャラの像。
その像を左右で挟み、コクリちゃんが飛び跳ね、ミドリちゃんが手を振っている。
「はやくはやくー!」
「時間は有限。急ぐべき」
顔立ちのよく似た二人は、けれどそれぞれパーカーにズボン、セーターにスカートという異なった私服に身を包み、個性を主張して。
その中で唯一お揃いの緑のチョーカーに彼女たちの絆を感じながら、俺は呼ばれるままに足を速めた。
「ゆう兄!」
「お兄さん!」
左腕にコクリちゃん、右腕にミドリちゃん。
言葉通りの両手に花。
平日午前なのもあって人目は少ないが、その少ない視線を十分に集めてしまいながら。
「行こう! 動物園!」
「出発、植物園」
俺たちは、三人並んで同じゲートへと向かい、歩き出した。
くまモト市動植物園。
東区が誇る一大施設であるここは、創立100周年を間近に控える老舗のテーマパークだ。
動物園と植物園、さらには観覧車などの大型遊具施設などの存在もさることながら、“水辺の動植物園”という通り名が示す通り大きな湖に併設されており、街中でありながら豊かな自然環境を生かした素晴らしいロケーションがウリの場所である。
一昔前、くまモト市が大きな災害に見舞われた際、ライオンが逃げたとかいうデマでちょっと話題になったのは俺の記憶にも新しい。
「懐かしいな、何年ぶりに来たっけ」
「灯台下暗し。この素晴らしい場所に通わないのは地元素人」
「へっへーん。今日はワタシたちでゆう兄を案内するね!」
「あぁ、よろしくな」
得意げに年パスを取り出す二人をよそに券売機でチケットを買い、受付へ。
「あれ、みどりちゃんにこくりちゃん。その人は?」
常連である二人のことを知っていたのか、受付のお姉さんが俺を見て疑問符を浮かべる。
それについて俺が何かを答えるよりも先に、二人が声をあげた。
「ゆう兄!」
「わたしたちの大事な人」
コクリちゃんはともかく、ミドリちゃんの方は中々に攻めた表現をした……のだが。
「そうなんだー。一緒に来れてよかったね。デート?」
「「デートです!」」
「ふふ、それじゃ楽しんでね」
「「はい!」」
受付のお姉さんは至って自然にそれを受け入れ、笑顔で対応してくれた。
「「………」」
そのまま問題なく受付を通過したところで、二人してどや顔を浮かべる。
「……あぁ、
「「正解!」」
答えに気づいた俺に、二人が声を揃えて笑った。
「このくらいは朝飯前」
「だからなーんにも気にしないで、全力で遊ぼうね!」
さすがは魔法少女、どうやら世間体的なあれこれは気にする必要ないらしい。
学校やってる平日にこの子たちを連れ歩くのってどうかと思っていたから、助かった。
おかげで俺も、気兼ねなく久しぶりの動植物園を満喫できる。
「よーし、だったら話は早い。動物も植物も見まくろう!」
「「おー!」
俺たちはモチベーション絶好調でゲートを越え、まずは目の前の動物園ゾーンから見て回ることにするのだった。
※ ※ ※
「ゆう兄見て見て! こっちがクロクモザルで、あっちがリスザル!」
「おー、それぞれ見やすいように浮島みたいになってる。すごいな」
「そこのリスザルの正式な名前はボリビアリスザル。鳴き声が多彩」
「相手によって話し方変える、どっかの誰かさんみたいじゃん?」
「なんにでもすぐよじ登るクロクモザルも、どこかの誰かさんそっくり」
「なにをー!」
「受けて立つ!」
「まぁまぁ」
初手からさっそく賑やかな双子ちゃん。
「ペンギン! ゆう兄ペンギン見に行こう!」
「ホッキョクグマを見るべき。水槽を横から見ると大迫力」
「ペンギン!」
「シロクマ!」
「ははっ、順番順番」
「「カピバラー!」」
「息ぴったりだな」
「あそこ! 鼻ひくひくしてる! “ここはボクの場所”だって!」
「あの部位はモリージョ。あそこを擦りつけてマーキングしたりメスにアピールする」
「へぇー」
「お、
「ゆう兄の国の言葉でそれは幻獣としての呼び方でしょ? あの子はシカの仲間のシフゾウだから、ちゃんとシフゾウって呼んであげてね」
「おっと、こりゃ失敬」
「封神演義はコミカライズ版で読んだ。スープーシャン、とても可愛い」
「あの子も可愛いって! ね、ゆう兄ー?」
「どっちも可愛い。間違いない」
こんな調子で歩き回り、俺たちは世界各地から集められた動物たちを観賞する。
どの子ものんびりした様子でくつろいでいたり敷地内をうろついていたりしていて、のびのびしているのが見て取れた。
※ ※ ※
「ゆう兄ーー! ミドリーー!」
「おっと」
ミドリちゃんと二人で途中展示されてたニホンジカの角を眺めていたら、先行するコクリちゃんに大声で呼ばれた。
何やら見せたいものがあるのか、ぴょんぴょん跳ねながら柵を指さしている。
「行きましょう、お兄さん」
「ああ」
早く早くと急かすコクリちゃんの元へ足を進めれば、すぐに何を見せたかったのか理解した。
「おお……」
キリンだ。
デカい。
「えへへ。すごいでしょー!」
「マサイキリン。星模様の体毛が特徴」
「アミメキリンは模様が亀の甲羅みたいなんだよ!」
言われて見てみれば、確かに見える茶色い星模様。
そして恥ずかしながら、日本にいるキリンは全部アミメキリンだと思っていた無知を反省。
「二人とも詳しいなぁ」
ここまでいろいろ見てきたが、ミドリちゃんだけじゃなく、コクリちゃんの知識量にも驚かされた。
感覚派の彼女のことだから、この手の知識面は疎いイメージがあったのが覆される。
「動物のこと“だけ”なら、コクリも賢い」
「だけってなにさ! まぁ、否定はしないけど……」
「いやいや、こくりちゃんと『獣装』の相性が高い理由がよーくわかったよ」
コクリちゃんは、俺の何倍もの早さでスキル『獣装』をモノにしていっている。
基本と言われている技はもちろんのこと、応用編に入ってもその習得速度に陰りは見えない。
スキルの習得に必要な動物の知識が、彼女の中に明確なイメージとして存在するのだ。
そりゃあ強い。
「え、なに、なに? ワタシすごい? すごいの?」
「すごいすごい」
「ホント!? えへへー」
頭を撫でたら、少しだけ前屈みになってぐりぐりと頭を押しつけてくるコクリちゃん。
そんな彼女から目をそらし、もう一度キリンを観ようとしたとき。
「お」
俺は、それを見つけた。
「モノレール?」
同じく上を見上げたミドリちゃんが、俺と同じ物を見つけた。
ガタンゴトンと高所に敷かれたレールの上を進んでいく、黄色い箱。
園内の大池を中心に一回りするコースで動くそれが、3才くらいの子を連れた夫婦を載せて通っていった。
「「………」」
俺たち三人は互いに顔を見合わせてから。
「……乗るか!」
「「うん!」」
そこから先は一直線。
ゾウさんコーナーを通り抜け、モノレール乗り場へと向かって猛ダッシュするのだった。
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