第22話 ついに登場! 闇の帝王と最後の四天王!? その2


戸尾鳥雄星あのばけものへの対策? そんなもんあるわけないじゃない!!)


 そもそも今日までマジョンナは、雄星に対し逃げの一手を重ねてきていた。


 自分では手に負えない存在であるとあの日に理解して以降、彼との接触を回避することに全力を費やしてきたのだ。

 大型ショッピングモールの一件も、彼の住む南区から撤退する前の最後のひと仕事のつもりでかつ、市外でなら安全に欲望の種を育てられるという目算を立てての計画であった。

 しかし彼女の目論見は外れ計画は妨害され、破れかぶれで成功させた合体従魔も、彼の弟子となったピクシーアクアの手によってあっさりと撃破されてしまい、ほうほうの体で逃げたことは彼女の新たなトラウマとなっている。

 

(アレにまた向き合うとか、もうぜっっっっっったいに、無理!!!)


 もう二度と雄星に会いたくないと心から思っているマジョンナには、実のところデモニカエンパイアの利になるとっておきの情報がある。

 だがそれは、彼女にとって絶対にバラしてはいけないものであった。 


(万が一、億が一にも、わたしの擬態した姿に戸尾鳥雄星ターゲットが想いを寄せてる可能性があるなんてバレたら……)


 マジョンナのネガティブな妄想が脳裏をよぎる。


「なに、ターゲットがお前に惚れているかもしれないじゃと? ならばその立場を利用し無力化……いやさ篭絡し我が方へ引き入れるのじゃ。ぶっちゃけ、なっちゃえばよいではないか、こ・い・び・と」


(ぎぃゃあああーーーーーーーーーーーー!! 無理無理無理無理ムリムリムリィ!!)


 妄想の中のダーク大帝から告げられる死刑宣告に、マジョンナの顔は真っ蒼になった。


「ま、マジョンナよ。どうしたというのじゃ」


 突如として身もだえしたり絶望したりとネガティブ百面相し始めた麗しのダーク四天王に、ダーク大帝は困り顔を浮かべる。


 そこに助け舟を出したのは、マジョンナの同僚たちだった。


「ハッ、ダーク大帝。心当たりがあります」


「わかるのか、ブット・バス将軍」


「実は、マジョンナは我が運命と遭遇した折、強烈な精神攻撃を受けたらしいのです。その傷がまだ癒えていないのかもしれません」


「なに、それはまことか?」


「マジョンナくん、最近は得意の高笑いも自信満々な振る舞いもすっかりなくなってしまって、元気がないのは明らかだからねぇ」


「ふぅむ」


 ネガティブ百面相の横で語られる四天王たちの話に、ダーク大帝はダーク脳細胞をフル回転させて決断を下す。



「ならば、麗しのダーク四天王マジョンナよ。お前に暇を命じる」


 ガターンッ、ズシャァァ……!


「へっ?」


「……人生から、お暇しろってことですかぁぁぁーーーっ!?!?」


「ち、違う違う!! これこれ、泣くでない!」



 膝から落ち泣き崩れるマジョンナに、ダーク大帝の暗黒ハンドが影の中から何かの券を取り出し、差し出す。


「これは……? 活動拠点近くのテーマパークのチケット、ですか?」


「うむ。時には任務を忘れ、心をリフレッシュさせてくるがよい。お主の美には、そうした行ないが大事なのじゃろう?」


 欲こそがすべての魔族であるマジョンナの持つ欲望は、美の探求。

 その実現のためには、心身の健康が必要不可欠。


「ダーク大帝……!」


 それを理解したダーク大帝の心遣いに、マジョンナは救われた気になった。


「ハッ! わたし、しっかりと休んできます!」


「うむうむ。またお前の高笑いが聞ける日を、楽しみにしておるぞ」


「ハイ! いえ今すぐにでも! ホーッホッホッホゴホッゴホッエフッ」


「ホントに自愛せよ?」


 謁見の間にふんわりと漂う、アットホームな空気。


 が。



「手ぬるい! 手ぬるいぞ! ダーク四天王!!」


「「!?」」



 その温もりは新たなる来訪者によって、簡単に打ち砕かれたのだった。



      ※      ※      ※



 バーンッ!

 と、大扉を押し開け登場したのは、若く神経質そうなスーツのイケメンだった。


 イケメンはツカツカとブーツを鳴らして玉座の前まで来ると、うやうやしくダーク大帝に一礼してから、マジョンナたちの方を見て。


「ダーク大帝の御前でなんたる体たらく! まったくもって情けない!」


 一切の容赦なく、叱責し始める。


「戦って強くなる? ただ相手の技の試し打ちに利用されているだけではないか! 敵に塩を送ってどうする!」


「むっ」


「研究の発表会? 数週間に1回という低頻度では、欲望に満ちた世界の完成に何百年かかる!? もっと締め切りを厳しくしろ!」


「えぇー」


「あと予算はもうちょっと節約しろ!」


「ふぐぅっ!」


「そしてマジョンナ……」


「な、なに……?」


「美の化身であるはずのキミは……くすんでしまったな?」


「っっっっっ!?!?!?!?」


 三人にそれぞれ的確かつ容赦ない言葉を浴びせるイケメン。


「そ、そのくらいにしてやれ。ベビフェスよ」


「ハッ、大帝陛下のお言葉のままに!」


 ダーク大帝の仲裁が入ればその瞬間に立礼を取り、命令通りに𠮟責をやめる。

 三人からの恨めしげな視線に気づいているのかいないのか、その瞳はダーク大帝だけを映していた。



「……お前が顔を見せたということは、練りあがったのだな?」


「ハッ! 先の北部での失態を取り戻してあまりある大作戦、完成いたしました!」


 この男こそ、ダーク四天王の四人目。

 知謀のダーク四天王、ベビフェス。


「うむ。ならば思うがまま実行せよ。知謀のダーク四天王ベビフェスよ!」


「ハッ! 愚鈍な魔法の国の羽虫どもを蹴散らし、このベビフェスこそがダーク四天王筆頭であることを証明してみせます!」


 ダーク大帝からの命を受け、第四のダーク四天王が動き出す。


(……アレの相手はあいつに任せて、わたしはしっかり休んで、肌ケアしようっと)


 その裏で、マジョンナは全身全霊をもって休暇を満喫することを決意するのだった。

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