第3章 変わり行く日々

第21話 ついに登場! 闇の帝王と最後の四天王!? その1


 ピシャッ、ゴロゴロゴロ……。


 雷鳴鳴り響く魔族の国、デモニカエンパイア。

 その中心部にそびえ立つ、ダーク大帝の住まう暗黒城ダークキャッスル。


「いやぁ、やられたやられた。魔法少女リリエルジュ……強さの次元が変わってしまってるじゃないか」


 謁見の間に敷かれた赤絨毯の上をお手上げのポーズで歩きながら、天才のダーク四天王プロフェッサー・ジーニアスは楽しげに声を張る。


「スキルといったかな? 感情を揺さぶれば強さがブレる魔法少女に、安定性が追加されてしまってるじゃないか。あれはチートだよ、チート。ズルだ!」


「声音からしてもう喜びが隠せてないのよね、マッドハカセ」


「おやおや! バレてしまったかね間條まじょう凛凪りんなさん……もとい、麗しのダーク四天王マジョンナくん?」


「はぁ……」


 言葉を返されたマジョンナは、玉座近くの柱に寄りかかったまま、深いため息を吐いた。


「わざわざ地球アースで名乗ってる偽名で呼ぶ意味はどこにあるのよ……」


「ボクのことをピーちゃんと呼んでくれないいけずなキミへの、意趣返しといったところさ!」


「はぁー……」


 再びため息を吐くマジョンナをよそに玉座まで辿り着いたジーニアスは、誰も座ってないそこに堂々と腰掛けると、ひじ掛けに頬杖をつき足を組んだ。


「いやほんと、スキル。いいなぁ、スキル……」


「うむ。スキルはいいぞ」


 羨望をまったく隠さないジーニアスの声に、男の声が続く。


「スキルはいいぞおじさん!」


「ブット・バスでしょ」


「うむ」


 別の柱の陰からぬぅっと姿を現した半裸の男は、以前にも増してムキムキになった不死身のダーク四天王ブット・バスだった。


「バスおじ! 魔法少女とぶつかってきたよ! 超強かった。死ぬかと思った!」


「フッ。オレの運命が磨き上げた星たちだ。強くなってもらわねば困る」


「その運命って人もちらっと見たよ」


「なにぃ!?」


 目にも留まらぬ速さで、ブット・バスがジーニアスに詰め寄る。


「どこだ! どこで死合しあった!?」


「海」


「ぐおおおお、オレはまだ海であいつと死合っていないーーーーーー!!!」


「はぁぁーー……」


 例の怪物ゆうせいの話題で盛り上がる二人の四天王に、マジョンナはさらに深いため息を吐く。

 バトルジャンキーとマッドサイエンティストならではの感性は、到底彼女に理解できるものではなかった。


「まともな四天王はわたしだけね」


「クックック、我が愛すべき魔族デモニカはこうでなくてはのう」


「「!?」」


 突如として響く好々爺こうこうや然とした声に、マジョンナだけでなくブット・バスとジーニアスもが即座に反応した。

 三人は一斉に玉座の前へと整列し、こうべを垂れてその存在に忠義を示す。


「うむ」


 満足げな声を発し、それは玉座の上に現れる。


 それは宙に揺らめく巨大なひし形状の影。

 影はどこまでも深い闇を内包する、とこしえの漆黒。


「みなのもの、おもてを上げよ」


 声に従い三人が顔を上げると、彼らの王が漆黒に黄色い目と赤い口を開いて笑っていた。


「我こそが、デモニカエンパイアの支配者――ダーク大帝である!!」


 ピシャッ、ゴロゴロゴロ……。


 高らかな宣言は、この地の長の権威を存分に知らしめるものであった。



      ※      ※      ※



 今日は、ダーク四天王たちによる活動報告の日であった。


「……ふむ、ふむ。なるほど」


 マジョンナたちからそれぞれ報告を聞いたダーク大帝は、難色を隠さずに口を開く。


「つまり、ここ1ヵ月のお前たちはリリエルジュどもに連戦連敗。どころか、この頃は欲望の種グリードシードが育ちきる前から浄化されたり、あまつさえ自らの身を用いて戦ってすら圧倒され続けている、というわけじゃな?」


「「「………」」」


 自分たちで報告したこととはいえ、誰がどう聞いてもわかる惨敗っぷりに、四天王……特にマジョンナは冷や汗を垂らす。


(ひぃぃーーーー!!こんな報告じゃ大帝陛下に殺される!!)


 沈黙するダーク大帝を前に、マジョンナは震えあがっていた。


(ダーク大帝は恐ろしいお方。気に入らない存在は、己の部下であっても闇の彼方へ消し飛ばしてしまうという噂。ぜ、絶対に目立たないようにしないと!!)


 いかに魔族たちの中でも別格のダーク四天王であろうと、ダーク大帝はさらにその上を行く別格中の別格。

 嘘偽りなく桁違いの存在感を放つ影を前に、マジョンナはただただうつむき息を殺して黙っていた。



「……なるほど、のぅ」


 長い沈黙を経て、ダーク大帝が再び口を開く。


「しかし、戸尾鳥とおどり雄星ゆうせいとスキル、か。法族エルマどもに与する者の登場は、無視できるものではない、な。……みなのもの、打つ手はあるかの?」


「我が運命は、いずれオレが必ずや……!」


「うむ。己の研鑽に励めよ。ブット・バス」


 ブット・バスは、さらなる成長を誓い。


「大帝陛下。スキルの研究が、したいです……!」


「諦めたらそこで試合終了じゃからの。追加の予算を工面しよう。P・ジーニアス」


 ジーニアスは、さらなる発展を望み。


「………」


「………」


 マジョンナは、存在感を消すことに必死だった。


「……マジョンナよ」


「………」


 マジョンナは、呼びかけられていることに気づいていない。


「お前からは、何か報告はないかのぅ?」


「………」


 マジョンナは、呼びかけに以下略。


「……麗しのダーク四天王、マジョンナ?」


 ポムッ。


「いひぃっひゃい!!」


「うおおっ!?」


 ダーク大帝がにゅるんと伸ばした暗黒ハンドに肩を叩かれ、マジョンナは思わず飛び上がり、直立不動の姿勢を取った。


「こほん……立ち上がったということは、有用な策があるということじゃな?」


「え、あ、ええっございます!」


 続く問いかけに反射的に答えたが、内心は。


(は、何言ってるのわたし。……ひぎゃああーーーー!! やらかしたぁぁ~~~~~!!!)


 己の失態に絶望していた。


「すごい、さすがは麗しのダーク四天王マジョンナくん! その高い諜報能力は伊達ではないのだね!」


「我が運命を追い詰める策、興味があるぞ!」


(そんなもん何一つとしてないわよ~~~~~~~~!!!!)


 向けられる期待の視線に、追い詰められたマジョンナは心の中で絶叫した。

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