第14話 双子バトル! スキルとマジカルとクゥからのお誘い その2
「うあーん、わかんなーい!!」
コクリちゃんの叫びが響く、健群神社。
「スキル、便利。こうしたらこうなるってルールが補強されて、扱いやすくなった」
コツが掴めず暴れる妹ちゃんをよそに、椅子にしていた草の根を伸ばし、隣に寄ってきたお姉ちゃんのミドリちゃんは嬉しそうである。
知識欲強めで理論派な彼女とスキルの相性はすこぶるよくて、それを彼女自身も自覚しているのか、今では会うたび訓練を楽しみにしてくれるようになった。
「植物たちも力を貸すのが前より楽になったって、お礼を言ってる」
「植物を操る技量が増して、結果として負担が減ったってことか」
「肯定。魔法……マジカルは、大量の魔力をいきなり注ぎ込んじゃうので」
ミドリちゃんは植物を操る魔法少女だ。
理屈ガン無視で様々な効果を発揮する植物を創造したりするのは、実に物語の魔法らしい力だと思う。
「理想はスキルとマジカルの使い分けや併用できること、でも、その段階は今だとまったく想像できない」
「まぁ、それはそうだな」
使い分けはともかく、相反する力の使い方を同時にこなすってまず無理だ。
冒険の旅を始めて3ヵ月でそれをバカスカ使いこなす大魔法使い様とかはヤバい奴なのだ。
「……お兄さん。すっごく期待した目を向けてますよ?」
「えっ、あ、ごめん。なんかキミたちなら半年後くらいには使えそうだなとか思ってた」
具体的にはアニメ3クール目くらいの時期。
実をいうと一人、すでにその片鱗が見えてる子もいるし……。
「っていうかミドリちゃん、お兄さん? それに話し方も」
「ダメですか? コクリが戸尾鳥さんのことを“ゆう
「あぁ、そうだったな。そう呼びたいなら好きにしてくれていいよ」
おじさんとかおっさんって言われるのに比べれば天と地だしな!
「ふふ、それじゃ改めてよろしくお願いしますね。雄星お兄さん?」
悪戯っぽい視線が、俺を見上げていた。
「ああ、よろしくな」
(……ふふふ。こうして義理の兄妹関係となったわたしたちは、次第に絆を深めて禁断の関係へと)
「? ミドリちゃん?」
意味深な笑みを浮かべたまま、ミドリちゃんが空想の世界へと飛び立ってしまった。
初めて会った時は
さすがは魔法少女。夢と希望に溢れている。
「あー! ミドリばっかりゆう兄と話してずるーい!!」
「うおっ!! 戻ってきたか」
言葉の通りにすっ飛んできたコクリちゃんが、モモンガみたいに俺の体に抱き着いてきた。
寄り添う距離感のミドリちゃんと違い、コクリちゃんは完全にべったりだ。
「ワタシも『神体通』使えるようになりたいよー!」
「魔法で同じようなことができるんだし、そんなに必死にならなくてもいい気はするが……」
「やだやだ! 覚えたい覚えたいー!」
子供らしさ全開で甘えてくるコクリちゃんは、今も抱き着いたまま全身を擦りつけてくる。
完全に動物のそれである。
「まさしく、動物系魔法少女だな」
「んう?」
コクリちゃんは動物を操る魔法少女だ。
地球上にいる動物はもちろん、グリフォンやユニコーンみたいな幻と呼ばれる動物も呼び出して力を借りることができるんだから驚きだ。
「……あ。だったらあれがいけるか?」
「あれって?」
俺は思いついたスキルについて、コクリちゃんに説明した。
※ ※ ※
数十分後。
「いっくよーー! スキル『
ドゴォォンッ!!
スキルの宣言と同時に放たれた掌底が、クマの手っぽいオーラとともに、コクリちゃんの目の前にあった岩を粉砕した。
「お、おおお!! スキル出来たー!」
「おめでとう。やっぱ相性良かったな。『獣装』」
異世界ファンタルシアの『黒魔法』や『白魔法』なんかと同じく、一つのスキルに様々な技術系統が集約されたスキル『獣装』。
獣をモチーフにした力を行使する技術で、あっちの世界の一部獣人さんたちが使ってた技だ。
「スキル『獣装』! カモシカの脚! たぁぁーー!!」
「おおー」
爆発的に強化されたジャンプ力を発揮して飛び上がるコクリちゃんを見上げながら、俺は達成感に包まれていた。
(なんだろう。いろいろな子を指導して、その子に相性がいい能力を考えるのって楽しいな)
やったことないけど、育成ゲームってこういう感覚を楽しむ奴なんだろうか。
これまで手を出してこなかったけど、ゲームに手を出してみるのもアリな気がしてきたな。
「むぅ、せっかくの優位性が……残念無念」
「へっへーん。ミドリにはもう負けないんだからね!」
「む。お姉さんの威厳を見せるとき……!」
さっそく覚えた力を試してみたくてしょうがないという様子のコクリちゃんに、存外ノリがいいミドリちゃんが応え、再び相対する。
ピリリリリッ。
「おっと電話だ。はいもしもし」
突然のコール音。
仕事の急な呼び出しでもあったかと思って即座にスマホを耳に当てた俺に聞こえてきたのは。
「ゆーせー」
「……クゥちゃん?」
この場にいない別の魔法少女の声だった。
「ゆーせー、あした、ヒマ?」
「明日? 明日は午後休取ってドライブにでも行こうかと思ってたけど……どうかした?」
「……なら、わたしもいっていい?」
「え?」
「ドライブ、ゆーせーと、いきたい」
「別にいいが……一緒に遊びたいから電話してきたってことか?」
「あそび? ……うん、あそび。あそびでいーよ」
「? うん?」
「じゃ、あした。バイバイ」
プツッ。
「……切れた」
ふーむ。出会った魔法少女の中じゃ、クゥちゃんが一番不思議な子だな。
ふわふわして掴みどころがない感じだ。
「っと、双子バトルは……」
逸れてた意識を再び前に向けると、そこでは――。
「うおおおおおおおお! そこをどけリリエルジュぅ! オレの運命ぃぃぃぃぃぃ!!!」
「行くよミドリ! スキル『獣装』! 猫の爪ぇ!!」
「跳んで、コクリ! これで決める! ガーデン・オブ・ミドリ!!」
「ぐぉわああああああーーーーーーーー!!!!」
いつの間にやら現れていたマッチョのデモニカさんと二人が、激闘を繰り広げていた。
っていうか、ちょうどミドリちゃんの魔法少女技で倒されるところだった。
「みんなの平穏は……」
「ワタシたちが、守る!! ……くぅー、すごいすごい! ワタシたち強くなってるー!!」
「
黄昏時の空へと吹っ飛んでいったマッチョさんを見送って、勝利を飾った魔法少女たちが歓喜の声をあげる。
「ゆう兄!」
「お兄さん!」
こちらに向かって笑顔で手を振る二人に対して、俺もゆっくりと手を振って応えた。
俺の新しい弟子たちも、アクアちゃんみたいに着実に強くなっているようだった。
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