第7話 みんな集まれ! チームピクシー大集合! その2
「アクアさん、みなさんに説明をお願いできますか?」
「お任せください、ブライト様っ!」
仲間たちが見つめる中、アクアの口から語られ始める、この1ヵ月間の
絶体絶命のピンチに現れた、優しく強い、まるで王子様のような男性との運命的な出会い。
王子様と呼ぶには年期の入ったその人から与えられた、スキルという名の
訓練と実戦の積み重ねで確実に高まっていく自分の能力。
こちらの成長を我がことのように喜び、導いてくれる師となったその人との満ち足りた日々。
互いの心が近づいたことを示す、より深くお互いを知ることができた夜の語らい。
その果てに成し遂げた、強大な合体従魔に勝利したという実績。
高濃度の熱情とともに伝えられるそれらは、少女たちの誰一人として口を挟むことのできない、刺激的な物語として伝播する。
「こうして私は雄星さんとのデートを終え、今に至るわけです」
「「「………」」」
恍惚の表情で語り終えたアクアの締めの言葉を聞いても、誰の口からも言葉は発されない。
(強くなった理由の話が2割、雄星さんって人とののろけが8割だったねぇ)
(ゆーせー……ゆーせーとであったから、アクアはつよくなった……?)
(理想的な男性との出会い方。わたしが読んでた小説の通りだ。すごい、興奮してきた!)
(へぇー。アクアちゃん雄星さんって人が好きなのかなー?)
呆れ、興味、関心、疑問、そして……。
(こんな、こんなことが……私の知らないところでアクアに起こってたなんて……!)
脳内でそれぞれ思いをめぐらせ、心を揺さぶられていた。
「ありがとうございます、アクアさん。みなさん、あらましは理解できましたか?」
魔法少女たちを現実へと引き戻したのは、クイーン・ブライトの呼びかけだった。
「わたしが南区への介入を禁じたのは、アクアさんと件の人物、
「雄星さんはそんなことしませんっ!」
「はい。アクアさんのおっしゃられた通り、彼はアクアさんを正しく導いてくださいました」
これまでを思えば決して意見など口にしなかっただろうアクアの反応に、我が子の成長を喜ばしく思う母のような面持ちで頷きを返すクイーン・ブライト。
そんな彼女は改めて全員の顔を確かめてから、厳かに言の葉を紡ぐ。
「ここまでを鑑みて。わたし、クイーン・ブライトは、戸尾鳥雄星さんをマジックキングダムの“
「「「!?」」」
その宣言に、アクアを除いた魔法少女たち全員が、等しく驚きをあらわにするのだった。
※ ※ ※
それは、魔法の国の住人と特定の地球人との関わり合いを特例的に認める掟である。
該当する地球人とのより積極的な交流を推奨し、果てはその人物を魔法の国へと招き入れることもあるという重大な決定であった。
「幸い、戸尾鳥雄星さんとはアクアさんを通じて友好的な関係を築けています。彼からのさらなる協力を得られれば、マジックキングダムの手にする益も非常に大きくなると思われます」
女王の言葉に声も出ない面々の中、アクアは一人、当然ですとばかりに力強く頷いていた。
「ゆえに私は、彼をレアブラッドと認め今後も密に関係を重ねていくべきと判断しました。……アクアさん」
「はいっ」
クイーン・ブライトの呼びかけに応じ、アクアが彼女の正面に立ち、ひざまずく。
「あなたには、これまで以上に戸尾鳥雄星さんとの交流を行うことを命じます」
「謹んでお受けいたしますっ! えへへ……」
魔法の国の女王から与えられる、勅命。
そんな大役を、ついこのあいだまで落ちこぼれだった少女は真正面から受け止め、承諾する。
まるでそうなることを、事前に知っていたかのように。
「っていうかあれ、絶対アクアちゃんが雄星さんって人ともっと交流したいから、女王に頼んだよね?」
「それ、わかってても言っちゃダメなやつ」
「しー、二人とも、しーだよぉ」
外野の声に惑わされることもなく。
「重要な使命です。励んでくださいね」
「はい、ガンバりますっ!」
クイーン・ブライトとアクアの二人で、話がトントン拍子に進んでいく。
進んでいた……のだが。
「待ってください!!」
そこに、異を唱えた者がいた。
「その任務、私も受けます!」
キララが円卓を叩き、目に炎を宿しているかのごとく強く、二人を見つめていた。
「えっ!?」
「レアブラッドの招致はマジックキングダムの重要案件。だったら私も……
「そんなっ! それは違うよキララちゃ……」
「アクアは黙ってて!」
「あうっ」
「ブライト様。アクアだけに負担を強いるわけにはいかないです。ここはぜひ、私にも同じ任務をお与えください!」
「あら、あら?」
彼女の想いのこもった言葉に、クイーン・ブライトも思案顔を浮かべる。
その間が、さんざっぱら興味関心を惹くだけ惹かされていた魔法少女たちに、火をつけた。
「はい! キララちゃんがいいならワタシもやりたーい!」
「コクリちゃん!?」
「なら、わたしも」
「ミドリちゃん!?」
「クゥもやる」
「クゥちゃん!?」
「あたしさんはどうしよっかなぁー? ……まぁでも、興味はあるよねぇ?」
「ネムさんまでっ!? え、そんな、えぇっ!?」
「あらあらまあまあ」
次々と参加を希望する挙手があれば、いよいよこの場は混乱マシマシ状態。
「み、みんな。これは私だけの使命だから……!」
「えー、いーじゃん! ワタシも雄星さんって人と交流したーい!」
「アクアちゃんをそこまで強くした“男性”。興味の対象」
「クゥもゆーせー、あってみたい」
「やぁー、こうなるとみんな止まらないからね。あたしさんもストッパーで動かないとかなぁ」
「あわっ、あわわ、うう……」
ノリノリな仲間たちを前に、アクアは動揺を隠せない。
「アクア。あんたはいつも無茶ばかりして、頑張りすぎるのよ。どうせ今も自分一人で頑張らなきゃって思ってるんでしょ? もっと私を……私たちを頼りなさい!」
「ちがっ、それは、あぅぅ……ブライト様ぁ」
極めつけにいい顔で叩き込まれる幼馴染からの言葉に、ついに彼女は女王へと判断をゆだね。
「……いいでしょう。では、チームピクシーのみなさんにお願いすることとします」
「!?!?」
この時の己の判断ミスを、生涯にわたり反省することになった。
「チームピクシーのみなさん。これからは
「「「はい!」」」
「あ、う……」
女王からの勅命に、力強い返事で応える魔法少女たち。
「こ、こんなはずじゃ……」
その中でただ一人、予想外の展開にワナワナと震える、青い魔法少女の姿があった。
ちなみに。
今まさに稀人認定された当人こと、戸尾鳥雄星は。
「うぅ、こうしてダイナソックワールドの最終作を見ることができるなんて……サブスク最高!」
自分の身に大きな変化が起こりそうになっているなんてつゆ知らず、おうちで楽しく映画鑑賞しているのだった。
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