第6話 みんな集まれ! チームピクシー大集合! その1


 ピクシーアクアがショッピングモールで合体従魔キメラサーヴァントを討伐した。

 その当日の深夜のこと。



「アクアちゃんがサーヴァントを討伐って、ほんと?」


「どーだろー? 相手がボーンって自爆しただけだったり?」


「くぅ……くぅ……」


「アクアちゃん、持ってる魔力量はすんごいからねぇ。それがうまいこといったのかな? それとも、ようやく使い魔契約できたとか?」


 驚くほど大きな大樹をくりぬいて作られたどこかファンシーな雰囲気の家の中、切り株の円卓を囲み、少女たちが話し合っていた。

 少女たちは全員幼い容姿の美少女で、それぞれの私服に、自分のパーソナルカラーにちなんだ装飾品をしている。


「キララちゃんは何か知ってる? 知ってたらあたしさんたちにも教えて欲しいなぁ?」


「………」


 その数、五人。


 彼女たちはくまモト市に活動拠点を置く魔法少女リリエルジュ

 ピクシーアクアも属する、チームピクシーの面々である。


「そうそう! キララちゃん、アクアちゃんの幼馴染でしょ? 何か知らないの?」


「何か知っているなら教えて欲しい。興味がある」


「くぅ……」


「はーい、クゥちゃんはいい加減あたしに寄りかかって寝るのやめようねぇ。あたしさん困っちゃうなぁ。……で、ほんとのところどうなの、キララちゃん?」


 黄色い腕輪の少女に促され、さきほどからテーブルに頬杖ついて無言を貫いていた少女が、ブスッとした顔のまま口を開く。


「……知らない」


 白いリボンで束ねられた、綺麗な金髪ツインテールがファサリと揺れた。


「え、そうなの!? 週一で様子見に行く過保護っぷりだったのに」


「ピンチを察知したら電光石火で飛んでくくらい、普段から気にしてるのに」


「幼馴染のアクアちゃんのこと、とーっても大好きなキララちゃんにしては、ビックリなお返事だねぇ。こっそり偵察くらいしてそうなのに」


「ちょっと、あんたたち! 私のことをなんだと思ってるのよ!?」


 周囲の一斉口撃に、白いリボンの少女……キララが顔を赤くして声を荒げれば。


「「アクアちゃん大好きキララちゃん」」


「んなっ!? はぁ……」


 緑のお揃いチョーカーを付けた二人組、双子の少女にサラウンドで言い切られ、ガックリうなだれ深いため息を吐いた。


「……みんな、ブライト様から指示受けたでしょ? “南区には干渉するな”って」


「おぉ、そういえばあったねぇ」


「そもそもわたしたちは南区に行かないから、あんまり意味のある指示じゃなかったけど」


「そうそう! 実質アクアちゃん大好きキララちゃんへの単独指示じゃん?」


「違うわよ!!」


「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて。キララちゃんいつもよりツンツンしてるよぉ」


「……ふんっ!」


 双子の元気な方に煽られプンプンしだしたところを、寝る子への対応を諦めた黄色い腕輪の少女になだめられる。

 この場にもう一人、いつもならアワアワしながら見守っている子の姿がないことが、キララを余計に不機嫌にしていた。


「とーにーかーく! ブライト様直々に、南区に関わるなって言われちゃったんだもの。この1ヵ月は本当にあの子と会ってないのよ。だから、レオから緊急の報告を受けたとき、すっっっごくビックリしたんだから!」


 そう言ってキララが撫でるのは、彼女の肩に乗っている、愛らしくデフォルメされた雄ライオンっぽいなにか。

 この不思議動物は使い魔アニマール。彼らもまた魔法の国の住人で、運命的な出会いで結ばれた契約の力で、魔法少女を随所でサポートする特別な存在である。


 この場の魔法少女にはそれぞれ一匹ずつ、使い魔が寄り添っていた。



「まぁ、いきなり信じろってのが難しい話だよねぇ。ずーっと負けっぱなしだったアクアちゃんが、ただのサーヴァントどころか合体して強くなったやつを一人で倒しちゃったーなんて、さ」


「うん。南部で強大なサーヴァント反応あり、からの……」


「数分後の、サーヴァント反応消失! だもんね!」


 キャイキャイと盛り上がる少女たちをよそに、キララは一人、主のいない席を見つめる。


(ねぇ、アクア。あんたこの1ヵ月で何があったっていうの?)


 その瞳には戸惑いと、心配と……他にもいくつかの複雑な感情が込められていて。


(あの子のことは私が守るって、決めてたのに――)




「みなさん、揃っていますね」


「!?」



 不意に響く落ち着いた声。

 騒ぎ続ける魔法少女たちが、その一声で静かになった。


 突如として宙を走る幾筋もの光の線。

 それらは四辺形に固定され、その内側に、豪奢な白い衣をまとった少女の姿を映し出す。


「お久しぶりです。キララさん、ネムさん、クゥさん、ミドリさん、コクリさん。アニマールのみなさん」


「ブライト様だー!」


「……ふあ?」


「ふふ、クゥさんはおはようございます」 


 いまさらながらに目を覚ます赤い耳飾りの少女に、慈愛の微笑みを向ける彼女こそ。

 魔法の国……マジックキングダムを統べる女王、クイーン・ブライトその人であった。



      ※      ※      ※



「これが……アクア?」


 クイーン・ブライトが新たに展開した光のスクリーンに映し出されるアクアの勇姿。

 映像の彼女は、魔法少女たちの知るものとあまりにもかけ離れていた。


 それこそ、見た目だけ同じの別人じゃないかと思えるほどに。


「なんだろ、型……ルーティーン……自分ルールみたいなのを使ってるのかなぁ?」


「きゅっとして、ドカーン……きれい」


「出力が高いところで安定してる。でも、使い魔もなしにそんなことってできるの?」


「すっごいすっごいすっごいすっごい! アクアちゃんすごいって!! ね、キララちゃん!」


「………」


「キララちゃん?」


 驚きながらもそれぞれの視点で語り合う少女たちの中、キララは複雑な表情でリプレイされる映像を見つめていた。


(使い魔の姿は……やっぱりない。でも、戦い方に迷いがない。力の使い方に自信があるってことよね? いつも自信なさげだったあの子がここまで変わるなんて、いったい何が……)


 彼女が頭の中で浮かべた疑問に、クイーン・ブライトが答えを与えた。


「“スキル”というものの力です」


「「「スキル」」」


 異口同音に声をあげた魔法少女たちに頷き、女王は話を続ける。


「出会いに恵まれ、アクアさんは新たな力を得ました。そうして彼女は今やもう、地球アースに派遣されたリリエルジュたちの中でも随一と言ってよい実力者となったのです」


 その声音は、頼もしい仲間の成長を喜ぶ色にどこまでも染まっていて。


「ブライト様!」


 キララは、たまらず声を張り上げていた。


「はい。何ですか、キララさん?」


「いったい、いったいアクアに……あの子に何があったんですか!?」


「出会いがあったのですよ。素晴らしい師との出会いが、彼女をここまで成長させたのです」


 そこまで言って、クイーン・ブライトが再び光の筋を走らせる。

 今度のそれは縦に長い扉の形をとり、ゆっくりと開かれて。


「あとは直接、彼女から話を聞くと良いでしょう」


 中から、渦中の人であるアクアが姿を現した。


「おぉ、アクアちゃ~ん」「アクアー」「「アクアちゃん」!」「アクア……」


 五人それぞれに名を呼ばれ、それでもアクアは怯んだ様子なく、仲間たちの前に立つ。

 たったそれだけのことだったが、その事実は魔法少女たちを驚かせるのに十分だった。


「……はいっ! ピクシーアクア、今後はみんなのお役に立てますっ!」


 落ちこぼれで、いつも申し訳なさそうにしていた彼女の姿はもうどこにもない。

 代わりに真面目で明るい、そして頼りがいを手に入れた魔法少女の力強い笑顔があった。

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