第1章 落ちこぼれの魔法少女

第1話 運命の出会い? 魔法少女、弟子入りしますっ!



 魔法少女を助けた。

 全体的に青っぽいカラーリングの魔法少女ちゃんだった。


 夜の公園、敵にとどめを刺されそうになっていたところに割り込んで『バリア』を展開、突っ込んできていた怪人っぽいのをはじき飛ばし救助。

 ムキムキゴリマッチョな怪人がゴムまりみたいにバチーンッと跳ね返っていった隙に、何が起こっているのかわかってない様子の魔法少女ちゃんに声をかける。


「アレ、この世界の住民じゃないよな?」


「!? わかるんですか……!?」


「まぁな。俺の予想が正しければあいつは……魔族まぞくだ」


「!!」


 俺の言葉に魔法少女ちゃんが心底びっくりした顔をする。

 まぁ、いきなり現れたアラサー突入26歳のおっさんに、ワケ知り顔であーだこーだとしゃべられたらびっくりもするか。


「で、合ってる?」


「……はい! あれは魔族デモニカ、世界を欲望で塗りつぶそうとする魔の勢力です!」


「やっぱりか」


 どうりで、俺の“スキル”がいろいろ発動してしまっていたわけだ。



「ぐぅっ、いったい何者だ。キサマ!!」


 話している間に体勢を立て直したムキムキマッチョの魔族からの問いかけに、魔法少女ちゃんを後ろに庇うようにして立ち、俺は答える。


「ただの通りすがりの、サブカル大好き男だ!」


「ただの趣味人がバリアでオレの攻撃を防いだりするものかぁ!!!」


「それはそう」


「グルァォッ!! ブットバァァァァァァス!!」


 裂帛の気合とともに夜空へ舞い上がり、巨体を生かしたパワフルなジャンピング右ストレートを俺に向かって放つマッチョな魔族。

 当たればスプラッタ必至の攻撃を前に、俺は手を正面に突き出しスキルを発動する。


「スキル『異次元収納』……魔砲杖スターセブン!」


 異次元空間に手を突っ込み、そこから北斗七星の形に魔石を配列した杖を取り出し、構える。

 すぐそこにまで迫る相手へと向かい、さらなるスキルを発動!


「スキル『黒魔法』! スターバースト!!」


 瞬間。

 杖の先端から巨大な星型の魔力塊をぶっ放し、肉薄マッチョに至近距離からぶち当てる!!


「おぐぅっ!? ぬ、ぐおおおおおおおお!!!」


 突撃マッチョの運動エネルギーによる抵抗があったのも数秒。

 ぶつけた星の持つ大きな力に押し返されて、マッチョは夜空へとぶっ飛んでいく。


「バカなっ! こ、こんな力は見たことがな――」


「あ、その技まだ終わってないから」


「なっ!? ぐぉわああああああーーーーーーーー!!!!」


 直後。

 スターバーストの名の通り、夜空で星が大・爆・発!

 少しのあいだ夜の闇が切り裂かれ、白に染まった。



 爆発が収まってしばらく待っても、吹っ飛ばされた相手からのリアクションはなし。


「倒した、かな?」


 とりあえずは危機を脱したと判断。

 ずっと後ろでポカーンっとしていた魔法少女ちゃんへと向き直る。


「大丈夫? ケガは……してるな。『治癒』」


「えっ、あ、傷が……」


「目に見える傷はこれでよしっと。どこか痛むなら言ってくれな」


「あ、えっと、その……大丈夫です」


 10才くらいの見た目の女の子だけど、さすがは魔法少女。

 受け答えがちゃんとできるいい子である。


「あの、あなたは……?」


「俺か? さっきも言ったが俺は……通りすがりのサブカル大好き男だよ」


 ついでに言うと。

 趣味のために異世界救って戻ってきた、異世界帰りのおっさんである。



      ※      ※      ※



 公園での一幕のあと、俺は魔法少女ちゃんを連れて自宅へと戻った。

 決してぐへへな理由でお持ち帰りしたとかではない。


 俺のどストライクはムチムチ褐色お姉さんだからな!


 じゃあ、どうしてこうなったかというと。


「いろいろ、お話がしたいです」


「わかった」


 魔法少女ちゃんからの提案で、どこかに腰を落ち着けて話をすることになったからである。

 リビングまでやってきた魔法少女ちゃんは今、俺とテーブルを挟んで向かい側のクッションの上に正座している。

 お行儀が良い。



「じゃあまずは自己紹介からだ。俺は戸尾鳥とおどり雄星ゆうせい。すぐそこの流町商事でサラリーマンをやっています」


「あ、はい。私はアクア。アース……地球では白川しらかわあくあとして過ごしています」


「地球ではってことは、キミは異世界人?」


「はい。出身はマジックキングダム……そちらでいうところの、魔法の国になります」


 なるほど、魔法の国か。

 いかにも物語の魔法少女ものっぽい単語の登場に、内心わっくわくである。


「あの、それで……戸尾鳥さん、は」


「俺? 俺は……話すとちょっと複雑な事情があるんだが――」


 相手にばかり話させるわけにもいかない。

 俺は自分に降りかかった事情をかいつまんで魔法少女ちゃん……もとい、アクアちゃんに説明する。


「――勇者召喚に巻き込まれて異世界に転移して、けれど勇者さんの魔王討伐の旅に直接付いてはいかず、その世界独自の技術である“スキル”を研究して勇者さんの旅を随所でサポート。最後は勇者さんと一緒に魔王を倒し、スキルを持ったまま地球に帰還した……ですか」


「そんな感じ。おかげで俺はさっきみたいな戦いができたってわけだ」


 異世界から還ってきたのが昨日。

 そして今日、仕事上がりにどういうわけか、スキル『危機察知』が反応。

 『遠視』で状況を確認しただ事じゃないのを察知して、『転移門』で現場に急行。

 迫りくるマッチョを『バリア』で迎撃した、という流れだ。


 その時に『精神攻撃耐性』が自動発動したが、マッチョが攻撃に何か仕込んでたんだろう。



「なる、ほどっ」


 普通に非常識な説明内容だった気がするが、アクアちゃんはあっさりとそれを信じてくれた。

 どころか。


「その“スキル”について、詳しく教えてもらえますかっ?」


 俺の能力について興味津々といった様子で、目をキラキラさせていた。

 お正月にお年玉せがむ子供の目。


「あーえっと、すまないが、先に魔族まぞくについて教えてくれるか?」


 ついつい希望に応えてあげたくなるような視線をかわして問い返す。

 アクアちゃんには悪いが、こっちにも聞きたいことがある。


「この世界にも、魔族がいるんだな?」


 巻き込まれた転移先で、勇者くんを再三にわたり困らせたのが、魔王率いる魔族たちだった。

 世界を滅ぼさんと人々に暴虐を振り撒く災厄の存在。それが異世界で俺が出会った、魔族。


 そいつらがこっちの世界にもいるなんて、にわかには信じられなかった。


「はい」


 俺の問いにアクアちゃんは神妙な顔で頷くと、この世界にいる魔族について教えてくれた。


「魔族……デモニカは、グリードシードをアーシアにプラントインしてカーマを増幅、カルマシフトしたところで回収し、グロウドしたりサーヴァントコアにしたりするんです」


「え?」


「ですからデモニカは、グリードシードをアーシアにプラントインしてカーマを増幅、カルマシ……あっ!」


 どうやら“ファルシのルシがコクーディスコミュニケーションンでパージ”していることに気づいてくれたようだ。

 アクアちゃんはしばらくうんうん唸りながら考えて、どうにかこうにかこっちの言葉で言語化してくれた。


「デモニカは、欲望の種を地球人に植え付けて、その人の強い欲望を増幅、種が育ったところで回収し、自身の成長に使ったり従魔という怪物の素材にしたりするんです」


「なるほど」


「それだけじゃありません。欲望の種を植え付けられた地球人の欲望は、種が育つほどに暴走します。そして育った種を奪われてしまうとごっそり心に穴が開き、生気を失ってしまうんです」


「それはまた厄介な……」


 言語化上手なアクアちゃんのおかげで、何とか理解できた。

 どうやら異世界の魔族とこの世界の魔族は、似て非なるもののようだった。


(こっちの魔族からは、微妙にニチアサの気配を感じる)


 思い返せばあのマッチョも、それっぽいビジュアルだった気が。

 ……生きてそうだな。絶対しぶとい。



「私たちリリエルジュ……魔法少女は、種が育たないように欲望を昇華させたり、生み出された従魔やさっきのダーク四天王みたいな人と戦ったりして、人々の平穏を守っているんです」


「へぇ…………ダーク四天王?」


「ダーク大帝が従える四人組のことです」


「!?」


 そんなのまでいるの!?

 いよいよニチアサめいてきたが、あれはフィクションだから許されてるやつだぞ!


「魔族が世に蔓延はびこってしまえば、地球も、魔法の国も、ただでは済まされません。でも私はよわっちくて、さっきみたいに負けてばっかりで……」


 そしてそんなやつらと、この子は戦っている。


「だから、私は強くなりたいんです。みんなを守れるくらいの、立派な魔法少女になるためにっ!」


 強さスキルを求めるアクアちゃんの表情は、どこまでも真剣だった。



「……わかった」


 ならばと、覚悟を決める。


「アクアちゃん」


「は、はいっ! なんでしょうかっ?」


「俺もできる範囲で協力するよ。こうして知ってしまった以上、無視することはできない」


「戸尾鳥さん……それじゃあっ!」


「あぁ、俺の持っている技術……スキルを、キミに教えるよ」


「~~~~ッッ!! ありがとうございますっ! 私、ガンバりますっ!」



 きっと、これも何かの縁だったんだろう。

 こうして俺は、助けた魔法少女のお師匠様になったのである。

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