第2話

「えっ恋愛しないの?ピュアじゃん」

ユリがにやにや笑いながら言った。なんだろう、この独特の含み笑い。すっごく苦手。小馬鹿にしているのとはちがう、ベタッと気持ち悪い笑み。

恋愛する人たちがする一挙一動は、たまにこういった粘着質をともなう。それがすごく苦手だけれど、それを言えば相手を不快にさせるから我慢しなきゃいけない。

私のことは不快にしてもいいとでも思ってるのだろう。ああ、いやになる。なんで私がこんなに気をつけなきゃいけないんだ。

ユリは反応のない私に飽きたらしく、スマホをいじりだした。SNSにでも書いてるのかな、自分が被害者でもあるように。

小さい月が懐かしくて、今日もドリアを食べようと思った。

一人は気楽。

恋をしない自分を茶化すことなく、好きな世界に没入できる。

「ねえ見てよ」

ユリがスマホの画面を見せてきた。そこにはユリの推しの顔がアップになっているだけだった。

「アキの推し見せてよ」

「顔ないってば」

「あー文学だっけ」

「文学って呼び名の薄い本」

「それな」

「顔はいいよ、そりゃ」

「そりゃそうよ、そう。ぜったいそう。イケメンとかじゃなくて、好きなパーツの集合体が推しになるんだもん」

「うん。ねえ、ユリ」

「ん?」

「謝りなよ」

「ごめん」

「いいよ」

少しだけ、ユリの推しが綺麗に見えた。











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