透明な空

@akera3

第1話

なんてことはない。

私は恋愛感情をもたないセクシャリティで生まれたということだ。

特別なことなんて何一つありはしない。

ありはしない。

それが、なぜか認められない。



爬虫類が好きな人、

樹木が好きな人、


男が好きな人、

女が好きな人…


「付き合ってる人、いるの?」

シンヤがそう聞いてくるから、いないと答えた。そしたら、付き合わない?って。

意味が分からなくて、思わず

「は?」

と言ってしまった。シンヤは傷ついた顔をして、冗談だよって。

ああ、また友を失うのか。

私が男を好きになるとしても、この事態は付きまとうのだろうか。


当然のように、ありふれたもののように語られる恋愛。こまりものだ。なぜ誰もうんざりしないのだろう。

ほら、見てごらんよ。

空は何色?

季節はいつ?

どんな花が咲いている?

こんなに楽しいものが溢れているのに、人にそこまで時間を割けないんだよ、私。


ああ、傷つけてしまったのだろう。

ごめんね、シンヤ。

なんでこんなにこっちが気にしなきゃいけないのだろう。せっかくの休日なのに。ご飯を作るのもいやになって、スーパーの惣菜を買って帰った。

月が綺麗だ。

文豪の例えが浮かぶ。

私にだって、月は綺麗なものだ。他のみんなと同じように。なのに、どうしてこんなことになるのだろう。

温めたドリアにスプーンを刺した。

どうしてこう突然なんだろう。

回数券みたいなものを配ってもらって、次はそろそろ相手をその気にさせてしまうよと、誰か教えてほしい。

ほわりと湯気がたった。憎たらしいほど、白い湯気が。いいよねえ、君には白という色があって。私はいつまでも透明のまま、恋だ愛だという色がつかない。

窓から空を見上げれば、冷たい空気の中に細い月がゆりかごのような形。

世界は色に溢れている。そして私はそれらの色を楽しく見ている。


けれど私に色はない。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る